【Others Side】自信過剰男のちょっとした不運
【Others Side】
鏡に映る顔を見て、今日もいつもと同じことを思う。
「……完璧だ」
このあらゆるパーツが黄金比を体現した顔、見る者を魅了してやまない瞳、そして自信に満ちた表情。
日本で、いや世界で最も魅力的な顔が、鏡の中で強い輝きを放っている。
誰もがうらやむこのイケメンぶりは、まさに神からの贈り物としか思えない。
「なあ、俺って、めちゃくちゃイケメンだろ?」
「は? 死ね」
ふっ、みにくい嫉妬だ。ブサメンは俺様のようなイケメンを罵倒することでしか、正気を保つことができない。わかっているさ。
イケメンの俺様は、そんなブサメンを寛大な心で許してやれる。
「お前ら早く準備しろよ、受付が混むだろうが」
神の如きイケメンの俺様を差し置いて、クランのトップを張るブサメンが偉そうなことを言う。
それもいいさ。俺様がトップに立ってしまっては、ブサメンどもの立つ瀬がない。心までイケメンの俺様は譲ってやれる。
名残惜しい気持ちを振り切って、鏡の前から離れ更衣室を出る。
五人のブサイク男を引き連れ、完璧なイケメンの俺様がダンジョン管理所を歩けばどうだ。女どもの熱い視線を独占してしまう。とても俺様とは釣り合いの取れない、身の程知らずな女どもだ。
しかし、それも仕方のないことだとわかっている。俺様は神に愛されたイケメンなのだから。
それにしてもイケメンすぎる俺様は罪作りだ。許してくれ。
「なんだ、あの女。制服? 女子高生か?」
「女子高生? おお、あいつか。え、結構可愛くね? ひとりか?」
「さすがにハンターなら、どっかに仲間がいるだろ」
「制服のままダンジョンかよ。気楽なもんだな」
「やべえ、俺ちょっと好みだわ」
ブサメンどもが、汚い声ではしゃいでいる。恥ずかしいからやめてほしいものだ。
「お前じゃ無理無理、やめとけよ」
「わかんねえだろうが!」
「だったら試しに、声だけでもかけてみるか?」
「あー、俺はやっぱちょっとな。代わりに誰かいってくれよ」
「他人任せかよ?」
「自称イケメン、お前いけよ。自信あんだろ? 連絡先だけでも聞いて来いよ」
これだからブサメンどもは。
自信が無いからといって他人に押し付けるとは、その行為こそが心のブサイクに繋がっているというのに。そこに気づけないからこそブサメンなのだ。
まあ、ブサメンが自信を持てないのは致し方ない。それは理解しよう。
「ふっ、お前たちではたしかに無理だ。俺に任せておけ」
「言いやがったな、この野郎。上手くいかなかったらどうするよ?」
「高級焼肉、奢りでいいよな。逆に上手くいったら、自称イケメンに奢ってやるよ。お前らもいいだろ?」
「乗った!」
「つーか、俺が気に入ったんだからよ。誰が声をかけるにせよ、ちゃんと俺に紹介しろよな」
騒がしいブサメンどもだ。任せておけと言っているだろうに。
「いいから見ておけ。女というのはイケメンにとにかく弱い。それも自信に満ちたイケメンに、特に弱いものだ。お前たちには無いものだからな、手本を見せてやる。俺を見習って、少しは自分を磨くといい」
「この野郎、言わせておけば……」
妙な制服姿の女子は、よく見れば綺麗な顔立ちをしている。しかしながら、俺様の完璧な顔と比べてしまえば凡庸なものだ。神に愛された俺様とは住む世界が違う。
そんな凡庸な女子など、容易くこの俺様にひれ伏すだろう。まあ見ていたまえよ、ブサメンの諸君。
「おい、ちょっと君。そこの君だよ、制服みたいな格好の女子、待ちなよ」
俺様のクールボイスに加え、輝くスマイルのおまけつきだ。すでにノックアウトされているだろう。
失神しても支えてあげられるよう、早く近づかなくては。
「チッ、気やすく話しかけんなカス。気持ち悪いんじゃ」
――――いま、何を言われた?
「ぎゃははっ! おいてめえ、なに固まってんだよ」
「笑わせんな。すげー早足で逃げられてんじゃねえか」
「自称イケメン野郎、高級焼肉奢りだからな。約束は守れよ」
「お前のせいでお近づきになれなかっただろうが!」
「なに言われたんだよ? あからさまにショック受けた顔しやがって」
幻聴、だろうか。カス?
お、俺様が、気持ち悪い?
この俺様が? あの凡庸な女に?
「お前いつも女には逃げられてるだろ。いまさらショック受けんなよ」
なんなんだ、あの女!
俺様のような完璧な男を拒むなんて、どこまで傲慢なんだ。いや、待てよ。
違う。そうではない。きっと聞き間違えだろう。
あの女はたまたま急いでいただけだ。そういうことさ。
「よーし、今日のダンジョン探索が終わったら焼肉だ!」
「高級焼肉なんざ、久しぶりだぜ」
「おうイケメン! 容赦なく食うから覚悟しとけよ?」
「俺もだ。ダンジョンでいっぱい腹空かせるからよ」
「やる気が湧くな。ありがとよ!」
え? 俺様が奢るの?
え? 今月は、ちょっと支払いが……。
え、え?