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異文明を体験!

 労働後のほくほく気分でダンジョンから脱出し、またお着替えタイムが始まります。

 普通の場合は探索時の装備のまま、外に出て更衣室を使う流れになる。けど私は違う。


 ソロダンジョンは私専用の空間。つまり、真の自由を感じることができるのです。

 その大胆な権利を行使しない理由があるかね? いや、ない!


 ドッパーン!


 妄想上の大波を背景に、いざ脱衣と思ったところで、ふと思い立ってぬぎぬぎする手を止めた。

 おう、ちょっと待とうじゃないか。


 今日は初の神楽坂ダンジョンまでやってきたんだよ。

 初、というのは今日しかない。二度とないからこその初なのです。わくわくする気持ちはずっと続いています。


 いつもなら人気のダンジョンの混み合う更衣室など、とてもじゃないけど使う気にならない。

 しかし、今日は初めての神楽坂。隅から隅まで味わってやろうと思うのは自然な感情ですよね?

 この湧き上がる、わくわく感はそんな感情の一部では?

 それに、ここの設備はすごいと聞いている。ここには二度と来ないかもしれないし、せっかくだから使ってみようかな。


 よし、今回はお着替えはせずに、武器以外の装備はそのまま外に出よう。更衣室を使ってみるぞ。


 スキル『ソロダンジョン』の欠点のひとつは、ダンジョンの領域から出ると急に私が現れるように見えることだ。私からも周りの状況がわからないから、最悪はおでことおでこがごっつんこ、なんてこともありえる。

 それは最悪!


「ま、大丈夫だよね。あんま気にしてもしょうがないし」


 もし何かあったとして、どうせ大したことはない。それにどうせ二度と会わない連中だ。

 知らん、知らん。


 ハンマーだけポーチに収納して、ダンジョン入り口から離れる。

 領域から外に出るとソロダンジョンの効果を失った。すると、


「うげー」


 とんでもなく人がたくさんいる。人気のダンジョンをちょっとなめていたかもしれない。

 でっかい穴みたいなダンジョンの出入り口付近には、たぶんレベルの低いハンターが死ぬほどたくさんいる。

 ちょっと離れた場所にある転送陣の前には、もっとたくさんの人だかりだ。


 アホみたいに人がいるお陰で、目立つ心配はなかった。たまたま私が現れた付近にいた奴らに、ちょっと驚かれはしたけどその程度だ。

 うん、やっぱり問題なんかないね。


 気を取り直して移動だ。受付でダンジョンから帰ったよと報告だけしたら、親切な案内板に導かれて更衣室を目指す。

 魔法学園ルックが可愛いからか、思ったより人に見られる。うざったいわねー。

 そういや、私ったら弁財天の加護で魅力アップしてるからね。そのせいもあるのかな。


「おい、ちょっと君。そこの君だよ、制服みたいな格好の女子、待ちなよ」


 私に言ってるっぽいな、これ。

 聞こえたほうに顔を向けてみたら、そこには自信満々の笑みを浮かべるイキった感じの兄ちゃんがいた。なぜか私を見下している感じがあっていけ好かない。

 なんだ、こいつ。


「チッ、気やすく話しかけんなカス。気持ち悪いんじゃ」


 あ、やべ。つい思ったことが口に出てしまった。人混みを縫うようにして、急いで移動した。

 キモい兄ちゃんは私を追いかけようとして他の人にぶつかったのか、ケンカみたいな感じになったらしい。ざわつく喧騒に負けない怒声が聞こえたけど、私には関係ないよね。


 騒ぎを背に遠ざかり、広いビルの女性専用のエリアに入り込めた。これでとりあえず、ひと安心。

 落ち着いた気持ちでフロア図を確認する。

 するとどうやら更衣室だけではなく、スパやサウナ、マッサージやエステのような施設まであるようだ。

 さらには化粧品や衣料品、ハンター向けの装備を扱う店など、いろいろとショッピングができるフロアもあるらしい。


 東中野ダンジョン管理所とは、あまりに違いすぎる。

 私のホームと思っている東中野ダンジョン管理所には、ちょっとした売店くらいしかないのに。

 お姉さんからは建物や設備が豪華とは聞いていたけど、完全に想像以上だった。


 とはいえ、ここは人が多すぎる。

 変な奴に話しかけられるのもうっとうしいし、私には合っていないだろう。わくわく感が少しだけしぼんでしまった。


「まー、せっかくだからね。いろいろ見てから帰ろ」


 まずはスパかな。ダンジョン帰りだし、汗を流してさっぱりしましょう。

 さてさて、どんな高級感あふれるスパなんでしょう。

 私のいきつけの銭湯とは格が違うところを見せてほしいわねー。



 エレベーターに乗ってフロアを移動し、なんだかおしゃれな雰囲気が漂う通路をおのぼりさんのような気持ちで歩く。

 すれ違う多くの女子ハンターは、この空間に相応しくみんなおしゃれに見えた。気のせいだろうか。


 服、アクセサリー、髪型、化粧、そのほかにも雰囲気?

 すれ違う人たちを見ていると、まるでド田舎から都心に出てきてカルチャーショックを受けたような気分になってしまう。

 私は生まれも育ちも大都会東京のはずなんだけどね。

 東中野から神楽坂にちょいと移動しただけで、まさかこんな気分を味わうとは思っていなかった。


 でもあいつらはみんなレベルが高くて、それ相応に稼ぎもあるのだろう。

 新人ハンターでまだレベル7の私とは、住んでいる世界が違うのだ。いまのところはね。


 近い将来、お金持ちに成りあがることを目指す私としては、この程度でいちいちビビってはいられない。

 がんばって、早く高みに到達しよう!

 決意も新たにしながら、今日はスパを満喫するぞ。


 そうしてスパの入り口まで来てみればだ。看板に信じられない内容が書かれていた。


「なんじゃこりゃ。8,000円? ゼロがひとつ多くない? マジかよ。いきつけの銭湯は500円で入れるのに? サウナもついてて500円なのに? マジかよ」


 ふざけんじゃねえ。ぼったくりにもほどがあるだろ。

 なんかいろいろコースがあるっぽいけど、一番しょぼいコースでも8,000円するらしい。

 10,000円以上のコースとか、どんな王様気分を味わえるんだよ、それ。


「……急にやる気なくなったわ」


 帰るか。神楽坂はなんか私とは文化が違った。いや、ちょっと来るのが早かったかな。

 万券くらい余裕で差し出せる経済力と精神性を身につけたらね、また来るかもね。

 その時にはいっちゃん高いコースを頼んでやろうではないか。


 微妙にショックを受けながら移動し、無料のシャワーだけ浴びて更衣室でお着替え。

 シャワー室や更衣室もなんかおしゃれで豪華っぽかったけど、設備を気にする気力が湧かず、ささっと着替えて神楽坂とはおさらばした。


 打ちひしがれた気分になりながら、貧乏人の根性を発揮して徒歩で東中野に戻る。

 九十分くらいかかったけど、気分転換になりましたわ。

 それでもまだまだ日の高い時間だから、どうにか時間を潰さなくては。東中野ダンジョンにはいつものお姉さんがいる時間に行きたいから、それまでは暇なのよね。


「そういや、腕時計ほしかった。ちょっと買い物して、あとは図書館で昼寝して、晩ご飯と銭湯に行けばちょうどいい時間かな」


 今日はまだこれから。気を取り直していこう!

 やっぱ東中野だよね。

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