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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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22/210

少し広がる行動範囲

 手にした棍棒を振り回しながら走ってくるのは、土気色の肌をした小鬼だ。

 いや、小鬼なんて言いたくない。私よりでかいんだから、小さい鬼とは認められない。


「普通に鬼! 鬼じゃんか、あれ」


 ちょっとあれ、迫力すごいわ。いままでの雑魚モンスターとは存在感からして全然違う。

 でも私が率直に感じたのは、恐怖よりも不快な気持ちだ。

 人型の鬼は全裸で私に向かって走ってくる。ご自慢のものを、ぶらぶらと見せつけるかのように!


「この、変態野郎め」


 あれが人ならぬモンスターだってのはわかっている。

 だけど私にとっては、恐怖よりも嫌悪の感情が勝った。


 それにしてもだよ。急所を丸出しで戦いを挑んでくるとはふざけた話じゃないの。

 新米ながらもハンターとして、そして清き乙女として、あれの存在は許しがたい。抹殺だ。


 鬼のスピードは大したことない。あれならネズミのほうがまだ速い。

 どすどすと重い足音を立てながら私の前にやってきた鬼は、大きく棍棒を振り上げる。あまりにもわかりやすい攻撃モーションだ。図体と迫力だけは一丁前だけど、全体的に何もかもが遅い。


 振り下ろす兆しが見えた瞬間に、鬼の横に回り込む。

 まんまと地面を叩く棍棒に構わず、横から後ろにさらに回り込み、無防備な背後を取った。


「変態は、死にさらせ!」


 ぶら下げるご自慢のものを、後ろから思いっきり蹴り上げてやった。

 グチャッと潰すめちゃ嫌な感触を残して、変態は光になって消え去った。ビー玉大の透明な魔石を残して。


 あんなのが上層の最初の関門とは聞いて呆れる。見かけ倒しのでくの坊が。

 見かけのわりに簡単に倒せるけど、あれと何度も戦うのは嫌だ。


 いやいや、待てよ。嫌な姿のモンスターとは、ハンターならこれからだって何度も戦うことになる。小鬼の派生バージョンだっていると思う。

 超お金持ちを目指すからには、生活できるだけの稼ぎで満足せず、もっと深い階層に挑む必要がある。少なくとも、危険を感じにくい階層までは行くつもりだ。

 となったら、小鬼如きを嫌なんて言っていられない。もっと気色の悪いモンスターだって必ずいる。


 この程度の不快さには、まったく心動かされないくらいに慣れてしまおう。

 そうと決まれば。


「うおおおおおお、変態鬼はいねがーーーっ!」


 荒らしてやる。

 ソロの空間なら、誰にはばかることもない。

 大声を上げてハンマーで壁をぶっ叩く。

 小鬼どもよ、集まってこい。皆殺しにしてくれるわ!



 そして。

 ちょっとお試しに第四階層に行ったつもりが、がっつり二時間近く居座ってしまったようだ。

 労働を終えて無事に戻り、ダンジョン管理所の壁掛け時計を見て自分の勤労少女ぶりに呆れてしまった。


 さてと、その分稼ぎには期待できる。

 第四階層からは魔石の値段も跳ね上がると聞いているから、今日の稼ぎは結構なことになっていそう。


「んあー、なんだよ。おっさん取り込み中じゃん」


 受付のおっさんはテーブル席のほうで、数人のハンターと話し込んでいて手が離せそうにない雰囲気だ。

 いつものお姉さんは休みだし、魔石の換金はまた今度でいいかな。

 私のは全部高品質のやつだから、ほかの受付係にそれでなんだかんだと言われたらめんどくさい。


 ダンジョンに入る前に、お風呂とご飯は済ませたはずなのに、散々暴れたから汗かいたしお腹も減ってしまった。

 仕切り直そう。


 いったん受付のなんとなく見覚えあるパッとしない兄ちゃんに、ダンジョンからの帰還だけ告げて外に出る。

 そして本日二度目の夕飯とお風呂をゆっくり堪能し、またダンジョン管理所に戻ってみれば、あの受付のおっさんはいなくなっていた。

 ほかのダンジョンで取った魔石含めて、今日の稼ぎがいくらになったか楽しみにしていたのに。


「しゃーない」


 さっきのパッとしない兄ちゃんに、簡易宿泊所の利用申請をして今日は店じまいとした。

 今日はたくさんのダンジョンでお宝ゲットしまくったし、追加で小鬼も倒しまくった。がんばった!

 いやホント、私ったらがんばりすぎかもしれない。



 健康優良生活を心がける私の朝は早い。

 シャワーを浴びて洗濯を済ませ、いつもの牛丼屋で朝食セットを食べる。

 なんて幸せな一日の始まりなんだ。メシが美味いでござる。


 今日はどうしようかな。

 受付にいつものおっさんはいなかったし、もう小鬼退治は十分やったし、いよいよ第五階層に進むか、それとも。

 うん、第五階層はいったんお姉さんに会って話を聞いてからでいいかな。

 昨日のついででまだやる気のあるうちに、今日も別のダンジョンに行ってみよう。


「いい感じの過疎ダンジョンは行ったし、そうすると今日は人気ダンジョンに行ってみっか。まだ朝早いし、いまなら空いてるかも」


 思い立ったが吉日よ。

 たしか、一番人気あるのが神楽坂ダンジョンだったっけ。どうせだったら、そこにしよう。



 決めてしまえば行動は早いのです。

 さっそく移動し、着きましたよ神楽坂ダンジョン。

 話には聞いていたけど、ダンジョン管理所の立派さが東中野とはもう別物だった。


 東中野ダンジョン管理所は三階建てのしょぼい役所然とした建物だったのに、神楽坂ダンジョン管理所は立派な高層ビルでした。

 年季の入ったアパートと、新築の億ションくらい違うわ。億ションなんて具体的には知らんけど、たぶんそのくらい違うわ。

 そりゃあ、ここをホームにするハンターだって多くなるよ。


 しかし、だよ。いくら人気があるからって、まだ朝っぱらの時間帯だってのに人が多い!

 ずらっと並んだたくさんの受付係がいるから、ハンターが長時間待つ必要はなさそうけど、時間帯によってはかなり混雑しそうだ。


 まだ何もしないうちからうんざりした気持ちになりながらも、ここまで来てダンジョンに入らず帰るのはもったいない。二度と来ないかもしれないし。

 意を決して少々並び、愛嬌のある受付嬢に登録してもらう。


「あ、初めての方ですよね?」

「将来有望と言われてる新人ハンター、永倉葵です。よろ」


 手続きを済ませダンジョン入り口に向かう。

 立派な建屋の中をどこか浮ついた気持ちで歩きつつ、ほかの連中を見て思った。どいつもこいつも、立派な装備を身につけていらっしゃる。


 一部を除いて武器のようなかさ張るものは、たぶん次元バッグに入れているのだろうけど、それ以外の鎧などの防具はダンジョン管理所の更衣室で装着するのが普通のようだ。


 たしかに、そこらの外で鎧姿で歩き回る奴はいないし、それもそうか。

 そんな環境では、芋ジャージ姿でダンジョンに向かう私は変に注目を浴びてしまう。

 わかった、もう少しまともな私服を近々買おう。そうしよう。


 ま、いまは気にしても仕方ない。切り替えていくぞ!

 オシャレタウン神楽坂のダンジョンは、どんなもんだろうね。

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― 新着の感想 ―
うーん ドロップ系が潤沢なのでウルトラハード感はないねぇ むしろイージーモード 生活費とは別に必須課題があって それをクリアするのにウルトラハード、みたいな縛りが欲しいところ
こんにちは。 うわぁ…これは一撃死するのも仕方ないですね(幻痛) 相当強そうなフルフロンタルゴブリンさんを一撃→その辺の人間が葵ちゃんのキックをダンジョン内で食らう→もしかして下手すりゃスプラッタ状…
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