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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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【Others Side】九条家当主の憂鬱

【Others Side】


 九条家当主、九条徳之助は自らの執務室で警備主任と向かい合っていた。

 老齢の徳之助と、同年代の警備主任とは、その話し言葉から気安い間柄であることがうかがえる。


「騒がしいな」

「侵入者だ。なに、すぐに収まる」

「こんな時間にか? 無謀なことだな」


 まだ明るい時間ということもあり、泥棒の類にしては不可解だと徳之助は疑問を抱いた。すると警備主任の通信機に呼びかける声があった。


「……なんだと、三班動員しても捕らえられない? 相手はたった一人なのだろう? 何をしている」

「どうした、問題か?」

「少し待ってくれ。聞こえるか、もう一度状況を説明しろ」


 通信先からの説明を警備主任は黙って聞き、そして渋い顔になった。


「それだけの人数でも捕らえられず、相手は逃げもしないのか。何者だ? 何か目的があるのか……待て、お嬢の友人? 名前は?」


 警備主任が通信機でのやり取りを終え、渋い顔のまま徳之助に向いた。


「友人と聞こえたが」

「お嬢の友人で、永倉葵と名乗っている」

「永倉……聞いた名前だな。それが三班もの警備を相手に大立ち回りか」

「そのようだ。いま、お嬢に映像で確認してもらっている」


 徳之助は首をひねって考えていた。孫の友人が訪れたのはまだいいとして、無断で侵入したあげくに、警備員と大立ち回りを演じる必要性について、大きな疑問を抱いていた。

 しかし考えを巡らせても理解がおよばず、素直に警備主任に問いかけることにした。


「なぜだ。まどかとつばきが警備に訪問予定を伝えていなかったのか? それにしては……いや、どういうことだ」

「サプライズ、だそうだ」

「……その考えは理解できんが、噂通りの実力はあるようだ。儂も映像を見たい」

「タブレット端末を貸してくれ。これだ、少し前の時間から見てみよう」


 警備主任が端末を操作すると、防犯カメラの映像が映った。

 そこでは紫色のワンピースの少女が、からかうような動きで大勢の黒服を翻弄し、指一本触れさせない。

 黒服のほうも少女相手に怪我をさせまいとする配慮が感じられたが、それでも大きな実力差が見て取れた。


「明らかに尋常ではないな。これが永倉葵か」

「高レベルハンター特有の身体能力に加えて、体さばきは人間離れしている。ダンジョンの中ならともかく……本当に人間か?」

「お前がそこまで言うほどか」


 警備主任は葵をズームにして映し、何度も繰り返し動きを見ては感心していた。


「見ろ、ダンジョンの外でこの動きだ。しかもお嬢と同じでレベル24、上級クラスを得る遥か手前でこれだ」


 映像を一時停止し、葵が跳躍している場面を指差した。


「この跳躍力、この反応速度。高レベルのハンターでも、なかなかこうはいかん。それをレベル24で、しかもダンジョンの外で自在に発揮している。訓練の賜物か、それとも天性のものか……」


 そこまで言って、警備主任は首を振った。


「お嬢の友人は、噂以上の化物と言うほかない。あの年頃でレベル24にまで至っているというのも異例だ。お嬢もすでに、化物の仲間入りしているのかもしれんぞ」

「……財前や桜庭が気にかけるだけのことはある、ということか」

「蒼龍や紫雲館との繋がりは、伊達ではないということだな」


 徳之助は孫娘が現在の所属クランにこだわりを見せる理由が、噂や評判ではなく目に見える事実として理解できた気がしていた。


「それにお嬢のクランは規模としては小さなものだが、この永倉葵のクランと考えれば今後どう化けるかわからん。徳之助、お嬢についてあれこれうるさい方々に対しても、この映像があれば納得させられるのではないか?」

「納得か。どうだろうな、特に『山城武人会』の坊主は、まどかに執心している。あれには困ったものだ」


 九条家以外の関西における有力者として、山城家は一定以上の力を持っていた。その山城家傘下のクラン『山城武人会』は、代表者の男がまどかをクランに加えたいと以前より熱烈に誘っており、執拗な働きかけを続けていた。


「お嬢が芸能活動から身を引いた後では、なりふり構わず徳之助にまで圧力をかけてきたからな。あれはもう醜態をさらしているに等しい。山城の本家も、本音では手に負えないと嘆いているだろう」

「おそらくな。あれは何をしでかすかわかったものではない。だからこそ、まどかはロンドンに行かせたかったのだ。ハンターを続けたいのであれば、現地の有力なクランとも話を付けてもよいと言っているのに聞く耳を持たん。頑固な娘だ」


 まどかの両親が仕事の都合でロンドンにいる縁もあり、ハンターだけではなく別の仕事や留学の手配さえ可能だった。


「それこそ、徳之助の若い頃にそっくりではないか」

「古い話を持ち出すな。それより、この永倉という少女はどうなった」


 その問いかけに対し、警備主任は通信機に耳を澄ませた。


「……お嬢が部屋に招き入れたところのようだ。どうする?」

「会ってみるか。孫娘が信頼している相手だ、儂も話がしてみたい」

「どうだかな。友人の家に勝手に入り込んで暴れるような手合いだぞ? 警備責任者としては、当主に会わせるのは気が進まないが」

「いや、ちょうどいい。山城の坊主にもいい加減、付き合いきれんと思っていたところだ。あの少女ほどの実力者であれば、あの坊主ごときが敵意を向けても問題なかろう。気になることもあるしな、やはり直接話したい」


 警備主任がまた通信機を使って、屋敷の者に当主の要望を伝達する。


「……そうだ、いますぐだ。徳之助、お嬢に客人を連れて応接室へ行くよう話を回した」

「わかった。では行くか」

「まだ時間はあるが、今夜は会合が重なっている。秘書の連中を焦らせんようにな」

「それもわかっている……が、孫娘の友人が訪ねてきたのだ。今日はキャンセルしてしまうか」

「ツケがあとに回るだけだぞ」


 徳之助は大きくため息を吐き出すと、重そうに腰を上げた。

 孫娘の友人には大きな興味を抱いていたが、その後の会合を思うと気の重い九条家当主だった。

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