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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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201/202

お世話になった、ごあいさつ!

 考えたくもないけど、ハンター業界がややこしい事態になっているらしい。

 どこぞのお偉いさんが事故で亡くなったりとか、トップクランの勢力争いがどうとか。

 いんぼーだよ、いんぼー。関わりたくないよね。


 でもセーラさんや楓おばあちゃんが大変なんだったら、ちょっとは助けてあげたい。

 まあ私にできることなんて、なんもないからね。こいつが敵だよって教えてくれれば、やっつけに行ってあげてもいいけどね。そんな感じでもなさそうだし。


 紫雲館の人たちは忙しくて会うもの難しいみたいだし、せめてもの気持ちで美味しいどら焼きを送ってあげた。これで元気を出してほしいよ。



 とりあえず、あれこれハンター業界が大変な状況っぽいから、花園も積極的に情報集めをやることになった。

 せっかくクランランキングを駆け上がるぞってがんばっていたのに、すごい勢いで水を差されてしまった。でもすごいクランになるなら、自分たちのことばっかりじゃダメだよね。私も切り替えていくぞ。


 情報集めはみんなで一緒にやっても効率が悪いから、またもや別行動だ。

 交流会で知り合った人たち以外にも、銀ちゃんたちは昔の知り合いとか、マドカとツバキは実家に戻ってあれこれ聞くみたい。


 私は情報収集とかあんまり得意じゃないけど、マドカはあいさつ回りだと考えたらいいよって言ってたからね。

 それなら私でも全然できる。バシッとあいさつを決めてやりますかね。


 気合を入れてお土産を買いあさりつつ、まずは東中野ダンジョン管理所に行くことにした。


「たのもー」


 タクシーで到着したら、さっそく管理所に突入だ。

 やっぱり過疎ってるダンジョンは平和だね。受付の中にも、ちょっとしか人がいないわ。


「永倉さん? 珍しい時間に来ましたね」

「おいすー、おっさん。久しぶり!」


 たまに夕歌さんには会いに来るから、この管理所自体は久しぶりでもなんでもないけど。


「菊川ですが……橘さんは今日も夜に入る予定になっていますよ」

「いやー、私もスマホ買ったからさ、最新鋭のすごいやつね。だから変なすれ違いはしないよ。今日はおっさんにお土産を渡しに来たんだよ」

「私にですか?」

「そうそう。なんか聞いたよ? 魔石の換金は夕歌さんがやってくれるけどさ、その後の処理? とかも大変なんだって? だからそのお礼だよ。ほら、これすごいどら焼きなんだよ。神楽坂で売ってる私の行きつけのさ、正統派のすっごい美味しいやつだから」


 これを食べて喜ばない奴なんて、この世にいない。

 しかも15個入りのセットだからね。満足感がやばいわ。


「職員として当然のことをしたまでですが……これは名店のどら焼きですね」

「お、知ってんの? 美味しいよね、もらっといてよ」

「そうですね。では管理所のみんなでいただくことにします。ありがとうございます」

「いいってことよ」


 なんか私もすぐに食べたくなってきたわ。1個くれないかね?


「ああ、永倉さん。そういえばクラン『天剣の星』とは、何か関わりはありますか?」

「天剣? 交流会の時にちょろっとお邪魔したね。そのくらいかな」

「実はですね、天剣には少しばかり知り合いがいまして。昨今のきな臭い話は永倉さんも耳にはされているでしょう?」


 めんどくさそうな話のことだよね。


「私は細かい話はあんま気にしてないわ。なんか聞いた気はするけどさ」

「それはよかった。彼らの上昇志向は昔からですが、決して悪い連中ではありません。それをお伝えしたかっただけです」


 あそこはゴリラっぽいハゲのおっさんと、ウマっぽいロン毛のおっさんが代表者だからね。めっちゃ低そうな女子人気を高めたいって野望があることはわかっているよ。それはたしかに、別に悪いこっちゃないかな。


「なるほどね。あ、でもあいつらさ、うちの沖ちゃんを狙ってんだよ。それだけは許せんわ!」

「沖田さんは若手の剣士として、注目株ですからね。剣のクランとしては、ぜひ引き入れたいのだと思います」

「いやいや。そんなの私と花園にケンカ売ってんのと同じだから。うおーっ、腹立ってきたわ。ちょっかい出してきやがったら、ぶっ飛ばしてやる!」

「引き抜きはどこのクランにもありますが、大事なのは本人の意思です。沖田さんが花園に残りたいと考えているのであれば、心配ないと思いますよ」


 まあね、それはそう。


「うっとうしいけど、まあわかったよ。あ、そういやおっさんさ、東中野に美味しいお菓子屋さんとかないの?」

「もちろんありますよ。和菓子に洋菓子、それと変わり種もいくつか」

「マジで? ちょっと教えておくれ。あとさあ、最近――」


 ダンジョン管理所なのにハンターが誰もやってこないから、この管理所は割と暇だ。

 そのせいでおっさんとしばらく話し込んでしまったわ。



 お次は港区の麻布あざぶとやらにやってきた。

 よくわからんけど、どことなく感じるおしゃれ感がすごい街だ。すんごい高級住宅地っぽいね。


 タクシーから降りて、目の前のでかい門を前にちょっと緊張してしまう。見るからにセキュリティ超厳重って感じで、門構えの時点でタダモンの家じゃない感出しまくりだ。なんだよ、この家。


 慎重にお屋敷のピンポンを押したら、久しぶりの紳士とご対面だ。無駄なやり取りなんかせずに、すぐに出てきてくれた。

 まあ前もって遊びに行くからねって連絡はしたからね。これでめんどくさいやりとりになったら、怒っちまうところだったわ。


「おいすー、執事さん」

「こんにちは、永倉様。どうぞお入りください」


 執事選手権があったら殿堂入り間違いなしの紳士に先導されて、お屋敷の中を練り歩く。おお、メイドさんもいるね。やっぱすごいわねー。


 それにしても練馬のクランハウスをぽんとくれただけあって、このお屋敷はどこもかしこも立派だよ。ここにいる人たちにも、なんでか気品を感じる。全体的にただようこれが金持ちの風格なんだろうね。


 しかしすごいもんだわ。高級そうな家に住んでいるだろうとは思っていたけど、思った以上にすごい家だったわ。


「こちらです」


 開けっぱなしの扉から中に入れば、今度はいかついおっさんとご対面だ。


「おいすー!」


 それにしても相変わらずのテカテカしたスーツ姿だよ。自分の家でもスーツ着用とか、こいつちょっと頭おかしいんじゃないかね。


「よく来たな。調子はどうだ」

「うーん、まあまあ? 蒼龍のおっさんはどうよ、元気してた? てゆーか、なんで家なのにスーツなの?」

「さっきまで大事な客人がいてな。お前と入れ替わるように帰ったところだ」


 おー、そういうことか。お偉いさんが相手だったのかな。


「ほい、これ。お土産ね。前の時におっさんはいらんとか言ってたけどさ、これはやっぱり超美味いから。絶対に食ったほうがいいよ」


 菊川のおっさんにも渡してやったのと同じ、神楽坂名物のどら焼きを押しつけた。これを食わず嫌いなんて、あってはならないよ。


「甘いものは苦手なんだがな」

「え、苦手なの? どら焼きだよ? 日本人なら全員好きに決まってんじゃん。そんなことある?」

「……まあ、試してみよう。柏木、茶を頼む」

「ただいま準備させています」


 入り口のところに立っていた執事さんが、そんなことをいいつつメイドさんを迎え入れた。

 メイドさんが押してきたワゴンには、しゃれたティーセットが乗っている。こういうのがいちいちカッコイイね。めっちゃお金持ち感にあふれているわ。


「まずは座れ」


 ほいほいっと。意外と硬めのしっかりしたソファに腰を下ろします。うん、この椅子いいね。

 蒼龍のおっさんは私の斜めのポジに座って、そのタイミングで流れるように茶が置かれた。香り高い紅茶ですな。


「しかし、ちょうどよかった。俺からも話があってな」

「そうなん? なんの話?」

「俺の話はあとでいい。永倉、お前こそ用事があって来たのだろう? いまの状況だ、どこのハンターも情報収集に忙しい」

「え、私は普通に遊びに来ただけだよ。私ったら、情報収集なんて小賢しいことできねーし。そういう難しいのは花園のみんながやってくれるし」

「まさか本当に茶飲み話に来ただけか?」

「そうだよ? あ、一応はあれこれお世話になってるからさ、そのお礼の意味もあるよ。だからこその、どら焼きだよ!」


 名物になるだけあって、マジで美味いんだよ。

 てゆーか、いいから早く食えよ。

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― 新着の感想 ―
>「え、苦手なの? どら焼きだよ? 日本人なら全員好きに決まってんじゃん。そんなことある?」 どら焼きへの厚い信頼!
この、おっさんを振り回す感じ、クセになるよなぁ
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