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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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198/204

変わっていく業界の様子

 おしゃれになった真のクランハウスで、花園の裏ボス的な雪乃さんの話を聞く。

 なんでもハンター業界の変化がどうのって話みたいだけど……。

 まずは準備を整えないと、ついていけないね。


「うちはこれにする」

「エナドリかー。私もそれにすっかな」


 眠気防止なら、砂糖ドバドバコーヒーよりこっちかも。冷蔵庫から私の分もツバキに取ってもらった。

 みんなもそれぞれ飲み物を用意し始めたから、結構本格的に長い話になるのかも。


 先に戻って、めっちゃ化学的な味のドリンクをちびちびやり始める。


「ういー、なんだこれ。新商品? あんま美味くないね」

「……紅茶に変える。葵姉はんは?」

「私の分も! マドカに淹れてもらってよ」


 それにしてもだよ。ハンター業界の状況って、なんだろうね。自分たち以外のことは、あんま気にしてないから全然わからん。


 私は基本的に毎日朝から夕方まではダンジョンで、夜は早めに寝てしまう。休みの日は美味しいものを食べに行ったり、紫雲館に遊びに行ったり、あとは花園の誰かが暇そうなら一緒に買い物に行ったりと、楽しく過ごす。

 ほかのみんなも大体同じような感じだけど、雪乃さんは全然違う。


 ダンジョンで活動しない雪乃さんは、花園の外の人たちと交渉したり、情報を集めてくれたりといった活動で忙しい。雪乃さんの部下一号二号の詩乃さんと綾乃さんの手伝いがあっても、なんかめっちゃ忙しそうな雰囲気だ。

 私はよくわからんけど、たぶんすごい重要な活動なんだと思う。


 特に情報収集の活動では、雪乃さん独自であれこれとルートができているっぽい。それに加えてマドカと銀ちゃん、まゆまゆとリカちゃんもなんやかんやと情報を仕入れていて、ちょこちょこ夜に小難しい話をしているのを見かける。


 みんなに任せっきりだけど、人には向き不向きがあるからね。

 私とツバキと沖ちゃんは、小難しい話からは早々にギブアップした。


 それでも私はクランマスターだから、聞かれたことにはちゃんと答える。こうしたいよって、このほうがいいってちゃんと答える。

 希望を言えば、なんとなくその方向性に向かっているのはわかる。

 だからこれでいい。いい人たちに恵まれたもんだよ。


 ちょろっと考え事をしていたら、みんな集まったね。

 香り高い紅茶もバッチリで、スタンバイオーケーだ。すると銀ちゃんが口を開いた。


「雪乃さん、状況の変化というのは? 天剣の第五十階層到達と、高千穂の『ベリーハードモード』はまだ話題になっていますが、それ以外に変化と言えるほどのニュースは耳にしていません。日本だけではなく、世界的にハンターの活動が盛況になったとは聞きますが」


 それはいいことだよね。盛り上がって損はないわ。


「問題は水面下での変化です。天剣が大手クランの中でも頭ひとつ抜けた存在になったことは、誰もが認める事実かと思います。これに伴って、政財界へも積極的にアプローチしているようなのです。以前から一流のクランでしたので、それなりの関わりはあったはずですが、それがより積極的になったということですね」


 ほーん? お偉い人たちにお近づきになろうって? あのゴリラっぽいハゲのおっさんが?

 まあ私たちに関係ないなら、どうでもいい気がするけどね。


「剣の高みを目指そうってクランが、どういう風の吹きまわしだろうな。トップ層ってくくりから到達階層でトップに立って、色気でも出てきやがったか?」


 まゆまゆ、あいつらに色気はないだろ。超むさ苦しいよ。


「トップ層のクランは、様々な面で社会に貢献しています。特にダンジョン下層から得られる特殊なアイテムは、希少性もあり一部の権力者や富豪からはとても重宝されていると聞きます。例えば若返りの効果があるとされるポーションの亜種などです。そうした特殊なアイテムを売買する伝手を得ることができれば莫大な富、そして名誉に繋がります。そうした意味では、これまで関東では『武蔵野お嬢様組』が圧倒的な地位にありました。『天剣の星』はそこに割って入り、ハンターとしての実績以外の面でもトップに立とうという試みなのでしょう」


 よくわからんけど、セーラさんたちを追い落とそうってこと? 実力があるならね、それはそうしたくなるのかな。

 それより若返りのポーションなんてあるんだね。私のウルトラハードなダンジョンなら、大量にゲットできたりして?

 でもそれはたぶん嘘だよね。本当なら蒼龍のおっさんや楓おばあちゃんが自分で使ってそうだし。


「詳細は明かされていないのだけど、第五十階層以降でしか得られない物資があるとは聞くわ。政界や財界が放っておかないのは当然よ」

「天剣のほうからじゃなくて、権力者や金持ちどもが天剣に近づいたってのか?」

「どちらかと言うよりも、きっかけはともかく双方から近づいたと考えるのが妥当だろうな」

「そうすると相対的に紫雲館の立場が弱くなるわね。雪乃さん、そういった裏側での権力構造の変化ですか?」


 ふいー、やっぱ眠くなってきたね。さすがに小難しすぎるわ。


「そのとおりです。ほかにも特殊空間資源管理局の重要ポストには、現在は紫雲館と近い方がいますが、それらについても見直される可能性があります。また第五十階層以降で得られる物資や、それに関連して利権に紐づくものなど、様々な思惑が渦巻いています。権力闘争も激化していると聞き及びますし、紫雲館の後ろ盾を得た私たちにとってもまったく無関係とはいきません。実は政界のフィクサーと呼ばれる大物が、最近亡くなったとも聞きました。その人物は紫雲館と近い方のようで、その影響もおそらく大きいのではないかと」


 あ、ツバキはもう寝てるね。先にやられちまったか。


「それはまた、きな臭い話ですね……」

「権力闘争については、クランの間でも激しくなりそうよ。フロレゾの庇護者として、天剣がスキル『ベリーハードモード』の恩恵をどこのクランに優先的に回すか、妙な仕切り方をしてるらしいのよ」

「なんだそりゃ? 天剣の意向に沿わねえ奴らは、高千穂の恩恵には預かれねえって感じか?」

「そう。現に紫雲館はいまだに『ベリーハードモード』を試せていないみたいよ」


 アイス食いたいね。冷たいもので目も覚めそうだし、ツバキを起こして一緒に取りに行こうかな。


「天剣の奴ら、態度がでかいなんてもんじゃねえな。日本のハンターの仕切り役にでもなるつもりか?」

「元々、天剣はもっとハンターが積極的にダンジョンに挑むべきって主張でしたからねえ。ここ数十年は停滞していたダンジョン攻略を進めた実績もあって、この機に現状をもっと変えたいのかもしれませんね」

「ちょっとアオイ、なにしてるのよ?」


 椅子から立ち上がって、眠るツバキをゆすっていたらマドカに言われてしまった。


「ちょっと休憩にしようよ。小難しい話ばっかりで疲れたわ。私はアイス取ってくるからさ、みんなも食べる?」

「あのね……」

「じゃあ、アタシはチョコのやつな」

「うち、ラムレーズン」

「ひと息入れましょうか。私もお茶を淹れ直します」


 いいねいいね。そうこなくっちゃ。



 ちょろっと休憩時間になったけど、結局はすぐにまた小難しい話が始まってしまった。

 手元にアイスがあるから、退屈せずにすんでいる。一応、話も聞くよ。


「――今後は各方面でも、争いが激化していくと予想されます。当然、紫雲館も手をこまねいてはいません。これはサブクランマスターの星ノ宮さんから直接お聞きしました」

「彼女たちはどう動くのですか?」

「実はガラスの森ダンジョンでの、第五十階層到達を目指すそうです」


 あ、富山のダンジョンのことだよね。なつかしいわ。


「難易度が一段高いガラスの森ダンジョン、そしてポーションが取れやすいダンジョンの第五十階層到達となれば、これは特色の薄い浦安ダンジョン第五十階層到達より、かなりインパクトが大きいですね」

「上手くいったらとんでもねえ話題性があるな。しかも天剣が邪魔したせいで、スキルの強化を受けられてねえっておまけつきだぜ? 完全に天剣の奴らの鼻を明かしてやれるな。本当は葵のお陰でスキル強化されてんのによ」

「それにしても紫雲館はたいしたものよね。スキル強化のことは、表には一切漏れていないもの」


 ほーん。セーラさんたちもがんばってんだね。たまに遊びに行っても、そういう話はしないからなー。


「そのような事情がありますから、これから先、紫雲館とは連絡が取りづらい状況になると思います」

「かなり忙しくなりそうですからね」


 えー、気軽に遊びにいけなくなっちゃうのか。

 さびしいけど応援はしないといけないね。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 なるほど簡単にまとめたら、今後天剣の奴等が鬱陶しくなるってことですね。間違いなく葵ちゃん達にもいちゃもん付けてくるでしょうから、実力で叩きのめせる様に更に強くなっておかないとです…
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