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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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193/201

あまりに魅力ある車

「ちょっと、営業マンのおっさん。あれは? あそこの赤くてカッコいいやつは?」


 すごい存在感を放ちまくっている、超カッコいい車!

 間違いないわ。あれこそ、私がほしいやつだよ。


「あちらですか? あれはカディラックのソレイユ、リミテッド・エディションでございます。先日入庫したばかりでして、とても希少な……」


 なんてこったい。見れば見るほど、カッコよすぎる。

 オープンカー? オープンカーってやつだよね。すっげーわ。


 もっと近くで見たくなって、思わず走り出してしまった。あの真っ赤で堂々としたフォルムがさあ、カッコよすぎるわ。


「ちょ、ちょっとお客様」

「なんだってんだ? 葵、待てよ」

「うおおーーーっ、すっげーよ!」


 思わず声が出てしまうわ。それも仕方ない。

 近くで見ればわかる、この滑らかで迫力あるボディ? よくわからんけど低く構えた感じもなんかいいよね。

 そんでもって、やっぱりこの色だよ。鮮やかで真っ赤でさ、超きれいなんだけど。


 これはもう王者の車だろ。どう考えても王者の乗り物だよね?


「あのー、こちらは2人乗りでございまして……」

「ちょろっとさ、乗ってみてもいい?」


 見るだけで終わるなんてもったいない。体験しなければ。


「え? あ、はい。それはもちろん。どうぞ」


 よっしゃ、よっしゃ!


 オープンカーだから全部見えちゃってるけど、ドアを開ければ黒い革のシートがどどんとある。慎重にそっと座ってみれば、もう包まれた感がすごいわ。ぼろっちい車とは別次元だよ。

 ちょっと頭おかしいくらいに高級感ハンパないわ。どうなってんだよこれ。


「うへー、思った以上だね……」

「おいおい、葵。お前運転できねえだろうが」

「細かいことはいいんだよ、まゆまゆ! エンジンはどうやってかけんの? おっさん、かけてみてもいい? どんなもんか試してもいい?」

「え、ええ。そちらのボタンです」


 ほうほう、これね。ポチッとな。


 ウィーンみたいな機械音がちょろっとして、ブルブル振動し始めた。

 意外と静かだけど、この振動が伝わってくる感じがたまらんわ。シートを通して体に伝わる、たぶん高級車特有の上品な鼓動だよ。もうぼろっちい車とはわけが違うよ。


 ハンドルも地味なワッカとは違ってカッコいい感じだし、なんかスイッチもいっぱいある。

 どうなってんの、これ。どんなギミックが仕込まれてんだよ。


「しかしお客様、先ほどは8人乗りと……」

「おっさん。これ、いくらすんの?」


 私は車のことは全然知らんけど、値段が気になる。絶対、めちゃお高いよね。


「あっと、こちらは特別仕様車でございまして。オプション次第ですが、1,200万円からとお考えいただければ」

「ほっほー、結構なもんだね。でも私たちなら余裕だよ」


 車ってやっぱお高いね。まあ、このカッコよさを考えたら当然かも。それくらいはするよね。王者の車だし。


「余裕でございますか……お客様、本当によろしいのですね? こちら試乗もできますが、運転免許証をお持ちでしょうか?」

「あ、私はないよ」


 なんてこったい。残念ながら私は運転できない。超残念なんだけど!


「よし、アタシが運転する。葵は助手席に座れ」

「うおーっ、まゆまゆ、頼んだよ!」

「アタシも気に入っちまった。それにどうせだ、試乗くらいしてみねえとな。営業のおっさん、手続きとかあるならやっちまおうぜ」

「かしこまりました。では免許証を拝見させていただき、書類にご記入をお願いします」


 まゆまゆが免許証を出して、営業マンが用意した書類にサラサラと記入していく。私も同乗者として名前を書いた。


「ではお待ちしておりますので、30分ほどでお戻りくださいませ。何かございましたら、名刺に記載の携帯番号にお電話を」


 そういや営業マンがまゆまゆに渡してたっけ。


「おう、わかった。行ってくるぜ」


 そんなこんなで試乗開始だ。

 この王者の車に乗れちゃうのかよ! すごくね?



 エンジンをかけ直して、まゆまゆがゆっくりと車を発進させる。

 わくわく感が高まってきたね。


「うおー、動いてる動いてる!」

「……静かだな。それでいてパワーがある」


 駐車場から大通りに出た瞬間の加速感がすごい。シートにちょい体が押しつけられる感じが、もうたまらないよ。

 海沿いとか走って、風を感じまくりたいわ!


「まゆまゆ、これ最高じゃん!」

「ああ、こいつはやべえ。アタシも欲しくなってきたぜ」


 ニヤニヤしちゃってるよ、まゆまゆったら。もう気に入ったに違いないね。


「なあ葵、こいつ買っちまうか?」

「だよね! 買っちまおう! もうそれしかねーわ!」


 信号待ちで停まったら、通行人やら隣の車の人たちが、こっちをチラチラ見てる。

 やっぱり人目を引かずにはいられないよね、この車。それもまたいいわ。



 それでもって、約束の30分後くらい。

 王者の車をちょろっと体験してしまった!


「おい、葵。現実に戻れ」


 まゆまゆの声が、雲の上にいるような私の感覚を地上に引き戻してしまう。もうちょっとひたりたいのに。


「……うへー、最高じゃん。風を感じながらドライブとかさ、なんかもう映画みたいじゃん。すごすぎるわ」

「アタシもだ。こいつはやべえ」


 こんなすげーもんに乗ってしまったら、そりゃあ気に入るよ。この真っ赤なボディの車の魔力から、逃れるなんて無理な話だね。誰だってそうなるわ。


 車から降りても、まだあの感覚が体に残ってる。名残惜しいわ。

 営業マンのおっさんが近づいてきて、なんでか満足そうな顔をしているよ。


「おっさん! これ、買ってもいい? 売ってんだよね?」

「もちろんでございます! こちらは先日入庫したばかりの特別な1台でして、お客様のような方にこそお乗りいただきたい車でございます。ローンもございますし、ぜひご検討ください」


 テンションが一気に上がってる。わかりやすいね。売る気満々だね!


「よっしゃ、これ買うわ!」

「葵、待て。オプションも考えようぜ。どうせなら最高の仕様にしちまおう」


 うおー、それはそうだよ。そうするしかないよね。オプションとか私はまったく全然わからんけど、そこはまゆまゆにお任せだ。いまよりもっとすごくしてくれるなら、いいに決まってる。


「そういうことだから! なんかオプション? おっさん、それについて教えてよ」

「か、かしこまりました。では、改めましてオプションのほうをご紹介いたします。あの、本当によろしいのですか? ご来店いただいた時のお話ではたしか……」

「いいからいいから。早くそのオプション? 教えてよ!」


 営業のおっさんはどうしてか、本当に大丈夫かみたいな感じになったけど、そんな心配は全然いらないわ。


「……お客様がそうおっしゃるのであれば。ではそうですね、頭金はどの程度をお考えでいらっしゃいますか?」

「現金一括で払う。手続きは極力、少ねえほうがいいからよ。ローンで儲けるタイプの店なら、そこは悪いな」

「いえ、滅相もございません。ではオプションのほうから――」


 そんなこんなで、営業のおっさんとまゆまゆが話し合い、私もちょこちょこ口を出し、超カッコいいあの車を買うことが決まった。まだなんやかんやと手続きがあるみたいだけど、そこはお任せだ。


 ふいー、それにしてもだよ。初めて絵を買った時に似たすごい満足感がある。これぞお金持ちの買い物って感じだ。

 納車は2か月後という話だったから、ちょっと待たないといけないけど楽しみだよ。それに早くみんなにも見てほしいね。



 意気揚々とクランハウスに戻って、みんなに今日の成果を教えてあげよう。

 テーブルの上にドンとカタログを乗っけて、こいつを買ったんだよとアピールした。誇らしいわ!


「……は? オープンカー? こんなの買ってどうするのよ」


 まさかの反応だよ。マドカったら、こいつのよさがわからないとかないよね?

 いやいや、そんなことがあるはずないよね。


「よく見てよ! めっちゃカッコいいじゃん。王者の車じゃん」

「そういうことじゃなくて。これだとあたしたちパーティーメンバーが乗れないわよね? 7人いるのよ?」


 うおっ、そういやそうじゃん。最低でも7人は乗れないといけなかったじゃん。

 なんてこったい。この車の7人乗りバージョンてないのかな。


「葵さん、まゆさん。この車は経費とは認められません。返品するか、個人のお買い物ということにしてくださいね」


 あ、はい。それはそうっすね。雪乃さんの言うとおりっす。

 えー、でも王者の車なんだよ。これは逃せないよね。


「まゆまゆ、どうする? 返しちゃうのはもったいなくね? てゆーか、返せるもんなの?」


 ちょっと考え込んでから、まゆまゆがニヤリと笑った。


「しょうがねえ。アタシ個人の車ってことにするか。正直、アタシもあの試乗で完全に惚れちまった。葵の気持ちはよくわかる。たまにこいつでドライブでもしようぜ」

「うおおーーーっ、まゆまゆ! さすがだよ!」


 私も運転できればね、私のものにしたかったけど。

 でもこいつに乗れるなら全然いい。お別れせずにすんでよかったわ。


「仕方ないな。葵はともかく、まゆがついていながら、まさかこうなるとは……」

「いや悪い。つい、楽しくなっちまってよ」

「次はみんなで見に行きましょ。そうじゃないと、またどうなるか心配よ」


 まあ、みんなで買いに行ったらもっと楽しいよね。王者の8人乗りだってあるかもしれんし。

 そうだよ。みんなで選んで、みんなで決めよう。


 あとあれだ、私も運転免許がほしいね。ちょっと暇になったら、サクッと取りにいくかな。

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― 新着の感想 ―
>こんなの買ってどうするのよ ド正論過ぎて笑っちゃいましたw
超すごくて超気に入ったのが見つかって帰るんだから最高ですねえ!
更新お疲れ様です。 キャディラッ○と聞くと、ふと昔の映画『コマンド○』のワンシーンを思い出してしまいますなぁ(笑) 8人乗り高級車となると…ベタですがアルファ○ドですかね? キャディラッ○やレクサ○…
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