さんぴん侍と池ポチャ回収師の進化!
「お待たせしましたー。あとで瑠璃ちゃんが暴れたほうにも回収しに行きますね」
「ありがとね、そっちも頼んだよ」
リカちゃんが魔石を回収して、いったん戻ってくれた。
スキル『広域回収』を使っても、広いダンジョンのどこまでも届くわけじゃない。特に銀ちゃんは遠くのモンスターをバシバシ倒すから、魔石の回収はもうリカちゃんがいてくれないと無理だ。ありがたいわ。
「リリカ、レベルはどう?」
「まだ見てないですねえ。感覚的にはレベルアップしたと思いますけど」
「瑠璃はまだ戻りそうにねえからな、先に見ちまおうぜ。アタシも気になってしょうがねえ」
みんなでリカちゃんを取り囲んで、早く早くと急かしてしまう。
マドカのサブクラスゲットの時以来で、こういうのはちょっと久しぶりだ。その分もあってドキドキが高まるね。
「わたしも覚悟を決めました。いきます!」
黒いカードを取り出したリカちゃんが、思い切ってステータスを確認し始めた。
やべーよ、めっちゃドキドキするわ。『不動の池ポチャ回収師』が、どんなサブクラスをゲットしたんだろうね。
ここまでは割とみんなカッコいい感じだったから、リカちゃんもそうなる気はするけども。
いままでリカちゃんは自分のクラスについて、どうのこうと言ってるのを聞いたことはない。
でもやっぱり『不動の池ポチャ回収師』はひどすぎるわ。少なくとも気に入ってはいないだろうし、どうせならカッコいいサブクラスをゲットしたいに決まってる。
運命のサブクラス、どうなった!
なかなかしゃべらないリカちゃんを、みんなで黙って見守る。早く知りたいけど、緊張感がすごい。
よかったのか、変なのだったのか、どっち!
「……よいサブクラス、だと思います」
ふいー、なんだよ。もしかしたらと思っちまったよ。そんなことはないよね、と思いつつも毎度緊張しちまうよ。
「具体的には? 梨々花は守りにちなんだサブクラスと予想しているが」
「まさか梨々花まで地獄の悪鬼系じゃねえよな? とりあえず見せてくれ」
「いいですよ」
差し出してくれた身分証にみんなで顔を近づけた。
■星魂の記憶
名前:水島梨々花
レベル:20
クラス:不動の池ポチャ回収師
サブクラス:秘すれば花なり牙城守護者
生命力:154
精神力:86
攻撃力:68
防御力:190
魔法力:136
抵抗力:182
スキル:潜水/広域回収/精神安静/浮力制御/拡張魔力装甲
クラススキル:水中探知/不動防御/陰の花/不壊の盾
加護:弁財天の祝福
ほほう? ほっほーう? こいつはいいじゃんね。
カッコいい感じあるし、美人でちょっとミステリアスな感じもあるリカちゃんにぴったりなサブクラスだね。
「牙城守護者か。池ポチャ回収師より、よっぽどいまの梨々花らしいな」
「スキルもよさそうね。効果がわからないのもあるけど」
「新しく覚えられたのは『浮力制御』と『拡張魔力装甲』、それと『陰の花』に『不壊の盾』ですね」
「なんとなくわかるのもあれば、わかんねえのもあるな。特に『陰の花』か? これがなんだかわかるか?」
「いえ、なんでしょうねえ。ぜひ紫雲館の知見に頼りたいところです」
そういやセーラさんがあれこれ教えてくれるみたいなこと言ってたね。それにセーラさんや楓おばあちゃんなら、私たちのスキルを誰かにしゃべったりしないだろうし、気軽に相談できるわ。
なんにしても強そうな新スキルがあるし、次の戦いがもう楽しみだよ。
「すみません! 皆さんもう集まってたんですね」
「瑠璃、遅えぞ。どこまで行ったんだよ?」
「つい夢中になってしまって、つばきの護符を使い切るまで戦ってました。ところで、いまは何を?」
なにを言ってんのかね、沖ちゃんよ。
「そりゃあ、レベルアップの確認だよ! リカちゃんのやつをみんなで見てたところだよ」
「あ、そうですよね」
「瑠璃ちゃんのサブクラスも気になりますねえ」
「わかりました。では私も見てみます」
そう言うなり、沖ちゃんはパパッと自分の身分証を見始めてしまった。
ためらいがない! 思い切りよくて気持ちいいね。
今度は『逃亡さんぴん侍』がどんなサブクラスをゲットできたかだよ。これもだいぶひどいクラスだからね。いや、マジでひどすぎるクラスだわ。
「……これは、もしかして。私も葵やまどかと同系統になったかもしれません」
「本当に? ルリ、クラス名は?」
マジかよ。地獄の悪鬼系ってこと?
「サブクラスは『一念高き虚空夜叉』になりました」
「こくうやしゃ? それって私と同じ系統なんだ。いいじゃんね!」
「地獄の獄卒が3人かよ。アタシらも結構いかついパーティーになったな」
どれどれと、今度は沖ちゃんの身分証を見せてもらった。
■星魂の記憶
名前:沖田瑠璃
レベル:20
クラス:逃亡さんぴん侍
サブクラス:一念高き虚空夜叉
生命力:156
精神力:153
攻撃力:241
防御力:126
魔法力:54
抵抗力:146
スキル:春雷歩法/疾風穿刀/替玉の術/刀影斬撃/黒雷閃刀
クラススキル:隠された刀/迅速遁走/気配偽装/虚空
加護:弁財天の祝福
なんかやたらとカッコよくない?
沖ちゃんのサブクラスとスキル、めっちゃカッコいい感じなんだけど。
「ルリのスキルも面白そうね」
「私はクラススキルの『虚空』が気になるな。これはどういったスキルなんだ?」
「まだ時間あるよな? 浅い階層に戻って試そうぜ」
「うん、そうしようよ。試しまくろうよ!」
これで私たちはみんなサブクラスをゲットできたね。
やっとひと段落ついた気がするけど、まだ花園は新進気鋭の新しいクランだからね。快進撃はこれからだよ。
よっしゃ、私もクランマスターとして気張っていくぞ。
みんなであれこれとスキルのお試しやら考察やらをしつつ、しばらく時間を過ごした。
そうしてダンジョンから脱出すると、せっかくなんで素敵なお屋敷のシャワールームを使わせてもらった。この三鷹ダンジョンは、紫雲館が管理している超豪華施設でもあるからね。
遠慮なく使わせてもらったそれは、シャワールームというよりも、普通にでかいお風呂だった。
むしろ温泉施設並みの豪華さ。意味わからんわ。
「どこもかしこも立派でお金かかわってるねー。やっぱセーラさんのクランてすごいわ」
「このダンジョンは要人も利用するからじゃない? つまらないところで文句を言う人っているから」
「言えてるな。てめえは親の七光りでたいした実力も実績もねえくせに、態度のデカさだけは一丁前な奴とかな。そういうくだらねえ奴に限って、文句ばっかり垂れやがる」
うお、なんだなんだ。まゆまゆはお偉いさんに、よくない思い出でもあるのかね。
「まゆ姉はん、どないしたん?」
「いや、悪い。つまんねえこと思い出しちまっただけだ」
「借金の取り立て屋時代には、いろいろありましたからねえ。そのなかには落ちぶれてしまって、ものすごく態度の悪い人もいましたから」
「まあ昔のことだ。せっかくのいい日につまんねえ話はなしだな。そうだ、今日はアタシのおごりでいいからよ、ちょっと贅沢なもん食いに行くか」
「やった!」
がははっ、おごりだよ。そうと決まれば、今日はお寿司かね?
お風呂から上がって、マッサージチェアに座っていたらだよ。隣のマドカがスマホを見て声を上げた。
「どうしたん?」
「雪乃さんからメッセージよ」
なんだろうね。さてはお寿司のにおいを嗅ぎつけたかな?
みんなで自分のスマホをチェック!
「星ノ宮さんから、アオイに正式な依頼だって」
自分でも読んでみたら、ダンジョンへのお誘いがあるよって内容だった。さっそくな感じだね。
「今週末か。急な話ではあるな」
「えーっと、週末の予定って特には決まってなかったよね?」
「そうね。ルリとリリカのサブクラスがどうなるかってことで、それ以降は大雑把な予定しか組んでいなかったから」
「だったらいいんじゃねえか? 葵だって変にもったいぶるつもりはねえんだろ?」
それはそう。そんな意味ないことはしたくないね。
すでにこのメタル系モンスターが出まくるダンジョンを使わせてもらってるし。これからもまだ使いまくりたいし。変なことして嫌われたくもないしね。
「うん、じゃあ私はちょっくら協力してくるよ」
「クランハウスに戻ったら、雪乃さんも交えて今後の話を詰めましょうか」
細かい話はみんなにお任せだよ。
私はやっぱりクランランキングを駆け上りたいわねー。