ランクの上がっていくメタル!
三鷹ダンジョン第十一階層から現れた、銀色の騎士っぽいモンスター。こいつは動く鎧の騎士って感じでカッコいい。
見た目からして防御力が高そうには思ったけど、まだそんなに深い階層でもないのに、もう銀ちゃんの狙撃が効かない高い防御力っぷりだ。でもツバキの呪いの護符のお陰で、攻撃が普通に通じるようになった。
ただやっぱり回数制限のある護符は、どうせならもっと深い階層に行ってから使いたい。
マドカのスキル『業火装填』は消耗が大きいのと洞窟では使いにくいスキルってことで、消耗の少ないツバキの『人形儀式』と私のパワーで進むことになった。
やっぱり私の頼れるハンマーの攻撃は通じたからね!
「おりゃー!」
ドスンとハンマーでぶっ叩けば、ぐしゃっと潰れて光に変わる騎士っぽいモンスター。
私の超すごい装備と盛られまくったステータスの前には、メタル系モンスターの防御力だって関係ないわ!
がははっ、もうこの調子でどこまでいけるか楽しみだわ!
「葵の攻撃力は尋常ではないですね」
「特別に硬いモンスターを相手にして改めて思うけど、やっぱりおかしいわよね……」
そこらのモンスターに比べたら、防御力はなかなかのもんだと思う。でもそれだけなんだよなー。
騎士っぽい見た目にそぐわず、それっぽい戦い方はするけど弱い。こういうところがまさに第十一階層のモンスターって感じで、もう弱い。だからみんなも硬さに苦労はしても、それ以外で特にどうってことはない。余裕であれこれお試しまでできちゃうよ。
硬さだけなら、神楽坂ダンジョンにいた巨大カッパのお皿のほうがずっと硬かったしね。メタル系って過大評価じゃね? なんて思い始めてしまった。
しかもこれでウルトラハードなんだからね、普通の難易度ならお偉いさんたちがお手軽なレベルアップにも使うだろうね。こんな簡単なんだからさ。
むしろあれだ。セーラさんたちだったら、楽に倒せる特殊な武器とかも持ってそうだし。
「ういー、やっぱつまらんねー。沖ちゃんとリカちゃんがレベルアップしたら、今日はもうやめとく?」
「葵の計算では階層数とレベルの差を比べて、5つ以上離れている場合には、ほぼ経験値を取得できないのですよね?」
「そうだよ。ちょこちょこチェックしてるけど、いまも経験値は全然稼げてないわ。いくらメタル系でも、沖ちゃんとリカちゃんがレベルアップするには、最低でも第十五階層にいかないとダメだね。どんだけ倒しても経験値的には意味ないよ」
ふたりはレベル19だから、第十五階層でギリギリな感じ。どうせ稼ぐなら、やっぱり第二十階層には行きたい。そうすれば絶対にすぐレベルアップすると思う。私のレベルだって上がるかも。
「これならいっそ星ノ宮さんにお願いしして、第十五階層まではスキップさせてもらえばよかったわね」
「まあな、だがいまさら言ってもしょうがねえ。それにメタル系モンスターとの戦闘に慣れるためもあったんだ。別にこれでよかったんじゃねえか?」
しまった。私がつまらんなんて言いまくっているからか、よくない空気がでちゃってるよ。切り替えていこう!
「よっしゃ! どうせだからさ、私もたまには違う戦い方やってみるわ。そんでマドカも『業火装填』使っていこうよ。消耗したって、休めばいいよね? あと広めの場所で威力も絞ればさ」
「たしかにやれなくはないけど、いざという時を考えての温存でもあるのよ?」
いきなりいっぱいの敵が出てきた場合なんかに、マドカの新スキルはめっちゃ強い。そういう意味でも、温存しようねって話にはなっていた。でもそんな気配はなさそうだし、マドカも退屈そうだからね。
「最悪でも来た道を戻ればいいので、大丈夫ではないですか? まどかの練習にもなりますし」
「そうそう。それに中層のシルバーにはまだ使ってないじゃん。お試しでもあるよ」
「代わりにつばきを休ませるのもありか。まどか、どうだ?」
「うちも少し疲れた」
消耗って意味だとそんなにはないと思うけど、ツバキは結界も張り続けているしちょっとは休みたいよね。
「わかったわ。アオイは休まなくて平気なの? スキル使いっぱなしよね?」
「ハンマーの制御に『念動力』は使ってるけど、いつものことだから。私は殴ってるだけだし、全然大丈夫!」
よゆーっす!
「私も護符は使わずに、もっと積極的に戦ってみてもいいですか? 討伐は難しいですが、行動力を奪う程度のことはできるので」
「沖ちゃんも見てるだけじゃ退屈だよね。いいよ、じゃあ私と組んでやる?」
「では私が敵の態勢を崩し、葵がトドメを刺す。これでいきましょう。まどかは別の敵を狙ってください」
ほかのみんなは休憩とか警戒だね。
モンスターは防御力以外弱いから、好きなことがやれる。
沖ちゃんは『春雷歩法』で駆けずり回って、銀色の騎士型モンスターを蹴っ飛ばし、剣の鞘とか柄で殴って暴れている。
体勢を崩すってよりも、転んだモンスターを私がブーツで踏んづけて光に変えるだけ。なんだこれ、簡単すぎる。
「葵は脚を使った攻撃も強いですよね」
「そうだね。このブーツったら、防御と攻撃を兼ね備えてる感じ? あと蹴ったり殴ったりしても、私ったら超強いし」
「私も剣が通じにくい敵のために、打撃系の武器も持つべきでしょうか」
沖ちゃんは剣技に力を入れてるからね。それ以外があってもいいかも。あー、いや、うーん。
「どうかな? うちのパーティーって、沖ちゃん以外に剣使う人いないじゃん? 私はハンマーとブーツだし、マドカは散弾銃とバトンだよね。銀ちゃんも銃で、ツバキとまゆまゆは魔法、リカちゃんは防御専門だからさ。意外と刃物で戦う人がいないんだよね」
それ以外にもナイフとか、小さな刃物はみんな持ってるけど、普段から使うわけじゃない。投げ斧も刃物として使っているのとは違うし、沖ちゃんには剣をバシバシ伸ばしてほしい気はするね。
「役割分担や敵の弱点を考えた時に、私は剣を伸ばすべきということですか」
「まあなんでもできるに越したことはないけどさ、打撃はその鞘とかキックだけでも十分な気がするよ。新しく変な武器を持つよりは、メタル系だろうが、ぶった斬れるようになったほうがよくない?」
「メタル系モンスターを斬れるように、ですか。それはたしかに」
「そうだよ。それができたら、めっちゃカッコいいし!」
レベルアップすればステータスが増えるし、武器も成長する。あとは技を磨いていけば、いつかはやれると思う。それによさげなスキルを覚えたら、それだけでもいけちゃうよ。
「……私は剣士ですからね、わかったような気がします。ありがとうございます、葵」
「いやー、お礼を言わるほどのこっちゃないよ。ほいよっと!」
景気づけに勢いよく走ってジャンプ、空中で身体をひねって回し蹴りの態勢に。超つよつよロングブーツのつま先が、銀色の騎士くんの頭に綺麗に決まって光に変えた。着地もばっちり!
うんうん、やっぱ私ったら強いわ。
そして私よりずっと派手なのがマドカだよ。遠くのほうで黒い火が燃え盛っている。
あれは『業火装填』とかいうマドカの新スキルだ。ぶっ放した弾丸が空中で炸裂して、黒い炎をまき散らすとんでもない攻撃。
攻撃の範囲は広いし、あの黒い炎がまたやばい。あんまり熱を感じないのに、激しい勢いでなんでも燃やしちゃうからね。
シルバーのモンスターだって普通に倒しちゃうみたいだから、これから先もきっと頼りになるわ。
「まどかは派手にやってますね」
「ホントだよ。さっきまで消耗がどうのとか言ってたくせに」
やるとなったらドカンと派手にぶちかます!
さすがは私の心の友だよ。めっちゃいい感じに活躍しまくりだわ。