ホントに難しい話!
どうしたらいいか、ちょっとわからんわ。
私がハードモードみたいなスキルを持ってること、ごまかせるのかな?
ウソなんかついたって、すぐ見破られそうな気がする。
マドカもそうだけど、迫力ある美人ってこういうところあるんだよね。
いやー、切り抜けられるんかねこれ。
もうこの沈黙がさ、「正解です!」って言ってるようなもんでもあるし。
みんなは真顔でなにか考え中だったり、困った顔をしたりしてるね。
たぶん、私と同じようにこいつはごまかせねーわって思ってるのかな。下手なこと言ったら怒らせちゃいそうだし、言い訳するにしても、ちゃんとしたやつじゃないとダメだわ。
それにしてもだよ。セーラさんが意地の悪い人だったら、ここで「どうなんだ、ほれどうなんだ」ってたたみかけてくるんだろうけど優しいね。ちょっと怖い感じの笑顔を引っ込めて、優しく微笑んでくれている。この人、やっぱすごいわ。
もう観念するしかないよ。秘密にしてくれって頼んだら、秘密は守ってくれそうだし。
そうだよね。セーラさんは味方にしたほうがきっといい。
よっしゃ、決めた。そうしよう!
「ふいー、なんでわかったの? 私たちったら、結構ガードは堅いと思ってたんだけど」
「ちょっと、アオイ」
「大丈夫だって。セーラさんと琴葉さんは、嫌な奴じゃないからさ」
まずはなんでバレたのか知りたい。うちの誰かがバラすわけないし、知られようがないよね?
探偵とかが調べたって、わかりっこないと思うけど。
はっ! まさか、私の心を読んだとか!?
マジかよ、それだわ。それしかねーわ。
うおおーっ、今日の私は水ようかんとか食いたいっす!
あとでお茶のお供に出してくれたら嬉しいっす!
これでどうよ!?
「やはり『ハードモード』系のスキルを持っていたのね。私がそのことに気づいたのは、前に銀座で一緒になったでしょう? あの時の葵の受け答えよ。スキルについて話したのだけど、覚えてる?」
「え、私ったら一応、普段からなんだかんだ気をつけて話してんだけどね。受け答えで? マジで?」
やっぱ心を読んだのでは?
「高千穂さんの能力の話の中で、まだ世間には知られていないものがあったのよ。私はとっておきの話を振ったつもりだったのに、葵はちっとも疑問を持たずに流していたものだから、もしかしたらと思ったの。それに、あなたたちが『ソロダンジョン』に籠っていることもあるわ。新人とは思えない実力や、諸々を繋ぎ合わせて考えると、葵は高千穂さんに似たスキルを持っているのではないか、と考えたわけ」
「なるほどー」
そんなんであれこれわかっちゃうとか、もう無理だわ。それでバレちまったんじゃ、仕方ないよ。
もう心を読んでるレベルじゃない?
「では星ノ宮さん、紫雲館は葵のスキルが目当てということですか? その恩恵と引き換えに、あたしたち花園の後ろ盾にと?」
「端的に言えばそうなるわね。もちろん、あなたたちのことが気に入ったこともあるわよ。そうでなければ、紫雲館は易々と他のクランと近づこうとはしないの」
おおー、いいね。ここのクランはすごそうな感じするからね。安売りみたいなことはしないのだろうね。
やっぱセーラさんとは気が合うわ。私だって安売りはしないからね。しょぼい奴らだったり、少しでも気に食わなかったりしたら、絶対に手なんか組まないわ。どんなにおいしそうな話を持ってこられたって、普通にお断りだからね。
「……私からもひとつ、確認しておきたいのですが」
「構わないわ。大蔵さん、何でも聞いて」
考え込んでいた銀ちゃんが話に入ってきた。
「我々は葵のスキルを秘密にしたいと考えています。これからもハンターとしての活動を望んでいますので、あの高千穂さんのような状況になることは避けたいのです」
「そうね。彼女には少なくともハンターとしての自由はないものと考えるべきね」
「はい。しかし、紫雲館への協力となれば、そちらの多くの所属ハンターに葵のスキルの影響を与えたいとお考えなのですよね? 数十人規模で秘密を知る人間が出てしまうのは、さすがに……」
「心配よね。そこは考えがあるの」
そうだよ。そこは大事なポイントじゃん。セーラさんと琴葉さんだけならともかく、クランメンバー全員かよ。
いくらセーラさんのクランだからって、全員がいい奴とは限らんしね。ちょっと嫌な感じはしちゃうわ。
「そのお考えとは?」
「幾つか細工が必要ではあるけど、基本的にはうちのクランマスターが『ハードモード』のスキルを獲得したことにしようと思うの」
「クランマスターが? 桜庭楓さんが新たにスキルを獲得した、そういうことにするのですか?」
「そう。すでにそのつもりで内々では話をまとめているわ。あなたたちとの合意が取れれば、紫雲館の独占しているダンジョンでスキルの強化を行うつもりよ。もちろん秘密厳守で」
ほーん? 楓おばあちゃんが私の身代わりになるってこと?
「待ってください。桜庭さんは、すでにハンターとしては引退されているのでは? 都合がよすぎるように思えます。それに葵を含めた我々が同行していては、どう考えても怪しいと思いますが」
「だからこそ独占ダンジョンで、スキルのことはクラン内の秘密とするの。まさかクランマスターの秘密を漏らすメンバーはいないし、仮に漏れたところで紫雲館と楓様を利用しようなんて、ハンターでも政治家でもそんなことは誰にもできない。怪しまれたところで関係ないのよ、私たちは『武蔵野お嬢様組』なのだから」
うおー、なんかカッコいいわ。
「葵さんには秘密裏にダンジョン内で潜伏していただければ、あとはこちらで上手くやるつもりです。その点だけ、お手間をかけますが」
琴葉さん、そういうことっすか。私、隠れていればそれでいいってことっすか。
「確認なのだけど、葵がダンジョンに入れば強制的に難易度が上がるのよね?」
「うん、そうだよ」
「その状況下でモンスターを討伐すれば、関わった人全員のスキルが強化される。それで間違いないの? 高千穂さんのスキルではモンスターを討伐しなかった場合には、戦闘行為をしてもスキルは強化されなかったと聞いているわ」
そこまではわからんね。
「たぶん? マドカ、モンスター倒したらいいんだよね。そんな感じだよね?」
「おそらくね。あたしたちの時も全員がモンスターにトドメを刺したわけではないから、戦闘に関わるだけでいいはずよ。未討伐の場合はわからないけど」
とりあえずはやってみたらいいんじゃないかね。
「ちなみに葵のスキルは? 高千穂さんは『ベリーハードモード』だけど、葵のは具体的にどうなのか聞いてもいい?」
ここまできちゃったら、秘密にする意味ないわ。
出し惜しみはせずに、一蓮托生の味方になってもらっちゃうよ。
「はっはー! セーラさん、琴葉さん。実は私のはね、もっとすっごいよ」
「もっと凄い? 違うスキルということね」
「葵さん、どういうことですか?」
落ち着いた大人のふたりが、ちょっと興奮した感じになっているのがとってもいい気分だわ。
がははっ、いいよいいよ。教えてあげますとも。
「なんとー! 私のスキルはー!」
聞いて驚いておくれ。
「実は『ウルトラハードモード』なんだよね。超すごいんだよね」
私はこれ以外のダンジョンに入ったことないから、ほかのことは全然わからんけど。むしろウルトラハードが普通なんだけど。
「……ウルトラハード? それはたしかに、とんでもないわね」
「セーラ様。楓様に至急、連絡いたします」
「いいえ、いまはいいわ。通信での連絡は控えて。楓様にはあとで直接話すから」
「ではそのように」
「さて、花園の皆さん。まだお時間はいいかしら? 今後について詳しい話を詰めましょうか」
本格的な話になってきたっぽい。その前にちょっと休みたいわ。マジメな話が続いて疲れちまったよ。
まあ、あとはみんなにお任せでいいかな。