魅力あるお誘い?
今日はセーラさんにお呼ばれして、いつものパーティーメンバーで紫雲館に行くことになった。
この前、みんなが小難しい話をしていたけど、その辺の用事みたいだ。私はうっすらとしてわかってないけど、まあみんなに任せておけばいいよね。
「おう、もう少しで着くぞ。話は変わるが、この車もそろそろ買い替えてえな。ブレーキの利きがどうにも甘いんだよ」
「かなり年季が入ってますからねえ、買い替え時でしょうか」
「雪乃さんに相談してみるか。紫雲館のようなクランを訪れるにしては、場違いな車に思えるしな……」
ぼろっちい白のワゴン車は、銀ちゃんたちが前から使っていたものだ。便利だし車はこれしかないから、なんとなく使い続けている。
私は結構前から、もっとカッコいいやつがほしいなって思っていたけどね。どうせ買うなら、超カッコいいのがほしい。
「クランとしてのメンツは考えたほうがいいのかもね。あたしは車に興味ないけど」
「うちも、いっこもあらへん」
「私もそうですね。そもそも運転できませんし」
運転できるのは銀ちゃんとまゆまゆ、それとリカちゃん。私も運転免許取りに行こうかな。
免許なんかサクッと取れるよね? 世の中、アホみたいな奴だって車の運転くらいやってるしね。
「葵はどうだ? 新しい車に興味あるか?」
「まゆまゆ、私はどうせならすごい車がほしいよ。うちは未来でトップクランになるんだからさ、それに相応しい超絶すっごいやつがいいわ!」
どうせならね。そりゃそうだよね。車のことは全然知らんけど。
「ははっ、いいじゃねえか。アタシもそのくらいすげえのを乗り回してえな」
「紫雲館はあれだ、着いたぞ」
立派な門が見えてきた。
つまらん話はみんなにお任せして、それが終わるまで私はのんびりお茶でも飲んでようかね。
ホントはお庭を散歩したり、楓おばあちゃんのアトリエに遊びに行きたいけど、私ったらクランマスターだからね。なんの話か知らんけど、聞くだけは聞こう。一応!
門を抜けたらお庭が素敵な敷地に入る。
そのままちょろっと進んで車を停めたら、なんとなく見覚えのある人が待ち構えていた。この上品な雰囲気の女子が案内役っぽいね。
軽いあいさつしてお屋敷に入ったけど、その時にちょっと思ってしまった。
素敵なお屋敷と庭園に、このぼろっちい車はちょっとアレだわ。みすぼらしいったら、ありゃしないよ。やっぱ買い替えないといけないね。自分の家だとあんまり気にならんかったけど、人の家だとやけに気になる。
さて、気を取り直していこう。
私は少し前に来たばかりだから、慣れた感じでお金持ちな空間を歩く。
今日は暑いけど、私はいつもの英国お嬢様風スタイルだからね。いい感じに空間に調和していると思う。調和が大事だよって、リカちゃんに教えてもらったからね。一流のすごいクランにやって来たからって、自信をもっていけるよ。
上品な女子に案内されて到着したのは、これまた豪華な部屋だった。
天井から壁から優雅な雰囲気がただよっているし、どでかくて長いテーブルに背もたれの大きな椅子が綺麗に並んでいる。絶対、年代物のすごいやつだよね。
うちのクランハウスとは、金持ちのレベルが違うわ。やっぱトップクランてすげーわ。
「いらっしゃい、花園の皆さん」
「おいすー! セーラさん、久しぶり!」
「ふふ、そうね。皆さん、お掛けになって」
超美人のセーラさんが出迎えてくれた。この人が女優じゃないなんて、やっぱり誰も信じないね。むしろなんで女優じゃないんだよ。意味わからんわ。
「本日はご足労いただきありがとうございます。私は白峯琴葉と申します」
椅子に座ろうとしたところで、琴葉さんが部屋に入ってきた。あいさつする姿がピシッとして気持ちいいね。
「琴葉さんも、おいすー!」
「こんにちは、葵さん。お元気そうですね」
美人女優の有能マネージャーっぽい琴葉さんも、地味だけど結構美人だよね。なんか、洗練された感じがするからかな? たぶん化粧とか髪型とかファッションとか。さっきの案内役の女子もそうだったけど、そういうのが上手いのかも。
全員座ったら、まずは改めてあいさつ、そしてセーラさんの提案で小難しい話の前にお茶の時間になった。
話題はやっぱり交流会の話が中心で、わいわいとどこのクランがどうだったとか、こんな面白い人がいたとか、そんな話でちょっと盛り上がった。
残念なことに、楓おばあちゃんは今日はいないらしい。またアトリエにお邪魔したかったのに。
とにかく、カジュアルなお茶会みたいな時間のお陰で、マドカたちも緊張が解けたみたいだ。セーラさんは気配り上手だね。私にはその気遣いがわかっているよ。
いい雰囲気になったなってところで、お茶を淹れなおしてくれた。話が変わるっぽい感じだね。
「そろそろ本題に入りましょうか。そちらの源雪乃さんとは幾度かやり取りをしていたのだけど、クラン間での協力の話です。葵も聞いてはいるのでしょう?」
「うん、聞いてるね。でも私は小難しい話は苦手だからさ、そういうのはみんなに任せてるんだよ。私がどうしたいかってのだけは言ってるけど」
「私も小難しい話は好きではないわ。だから単刀直入に言うわね」
うお、なんか急に雰囲気変わったよ。
女優が真顔になるのは反則だろ。ちょっと怖いわ。
「花園と紫雲館とで、正式に手を組まない? こちらが提供できる強みはご存じのとおり、わかりやすい言葉で表現すれば政治的な後ろ盾よ。これは文字通りの意味があるし、他の有力なクランからの手出しを防ぐ意味にもなる。それに代々クランとして培った知見があるから、必要に応じて様々な疑問への回答もできると思う。あとは紫雲館が独占しているいくつかのダンジョン、その使用権を花園のメンバーに限って認める。こういったメリットがあるわ」
一気に小難しい話になってしまったよ。こうなったら私の出番は終わりだね。横に座ったマドカの肘をつついた。
「……願ってもないことですが、その理由をうかがっても? 紫雲館ほどのクランと、あたしたちのような新しいクランとでは、それこそ釣り合いが取れません」
だよね。なんかいろいろしてくれるみたいな話っぽいけど、なんでそんなことをしてくれるんだろうね。私と仲良くなったから、なんて理由はないよね。さすがにね。
今度はセーラさんじゃなく、琴葉さんが答えてくれるみたい。
「理由のひとつは、天剣の大きな台頭です。あちらは大手クランの中でも、現在ひとつ抜けた存在になっています。これは他のクランがまだ第五十階層に到達できる見込みがないからですが、紫雲館も同じ状況です。打破できる何かを欲しているのです。天剣が抜け出せたのは、戦闘方面に特化したクランとして成長を続けていたから、というのが大きな要因のひとつと考えています」
「つまり、私たち花園を戦力として有効だとお考えになったのですか?」
まあ私たちったらめちゃ強いけど、私がダンジョンに入ったらウルトラハードになっちゃうわ。
あ、私以外のみんなも強いし、マドカたちが協力する分には……いやいや。それは私が仲間はずれになっちゃうじゃんね。
てゆーか、セーラさんたちはサブクランとか作ってて、ものすごい人数がいるって聞いたけどね。だったらそれなりに強い人は多いと思うけど。特別って思えるくらいに強い人があんまいないのかな?
「その点について否定はしません。しかし天剣の成功は戦力の特化だけではありません。やはり『フローラリア・レゾナンス』の高千穂さん、彼女の恩恵を受けたからと考えられます」
あの小娘か。小生意気な顔を思い出そうとしていたら、琴葉さんがセーラさんといったん目で会話したあとでまた話し始めた。
「鍵は『ベリーハードモード』の状況下で得られる、スキルの強化です。ただこれは現在、高千穂さんの扱いを巡って複雑な状況と化しています。我々の立場をもってしても、接触できるのは当分先になる見込みです。そしてその間にも天剣はクランとして大きく焼け太り、リードを広げてゆくのです。紫雲館は伝統あるクランのひとつとして、日本のハンター業界の均衡を考えてもそれを看過することができません。そこで――」
ういー、琴葉さんの話はマジで難しい上に長いわ。急激に眠くなってきたところで、琴葉さんの長々しいトークが終わってくれた。
そのタイミングでセーラさんの視線を感じて目を合わせたらだよ。強い目力に射貫かれたような気がした。
なになに、目が覚めちまったよ。私は琴葉さんみたいに、目と目で会話なんてできないけどね。
「葵」
「うーん?」
そうそう。直接話しかけてくれないと。
「あなた、持っているわね?」
「なにを?」
「高千穂さんと、類似したスキルを」
「うひっ」
びっくりした。心臓がドキンと跳ねちまったよ。
それでもって女優ばりの笑顔でそんなことを言われたら、素直にうなずきたくなっちまうわ。
みんな黙ってるし、セーラさんの一言で静まり返ってしまった。
どうするかね、これ。隣に座るマドカは私をじっと見ているし、銀ちゃんたちもちょっと身を乗り出すようにしている。
やばいよね。
セーラさんすごい自信満々じゃん。でもなんで? いつどこで気づいたの?
もうバレてるよね? 私があの小娘と似たようなスキル持ってるの、絶対バレてるっぽいよね。
マジで結構、やばくない?