なんか難しくて面倒そうな話!
半月くらいの間に渡って行われた、大手クランが主催する交流会。
招待されたクランには、どこへだって行き放題! その権利を使いまくって、私たちはよさげなクランに顔を出した。
めんどくさい話をする奴らが集まったつまらんクランもあれば、わくわく感があったり楽しかったりしたクランもあった。
まあ総じてよかったと思う。招待してもらってありがたかったわ。つまらんことまで含めて、いい思い出になった気がするね。
「――そういうわけで、どこがどのような企みを持っているか、おおよその当たりはつけられた。それだけでも収穫はあったな」
「危険なのは、考えがわかりやすいクランよりも、巧みに隠しているクランですよねえ。特に大手のクランは、クラン内で意見が分かれることもあって余計に難しかったです。個人的な思惑で行動する人もいましたし……」
よくわからんけど、リカちゃんは大変だったみたいだね。モテる女はめんどくさいことに、いっぱい遭遇してしまう。何人ものストーカーに付きまとわれる私には、よくわかります。
今度、一緒にぶっ飛ばしやる!
「ギンコとリリカの調査報告を基にして、少しずつ相手の思惑を見極めていくしかないわ。あとは、あたしたちが主体的に判断して、どこと繋がりを強化するかを考えましょ。そういうことですよね、雪乃さん」
「ええ、そうですね。今後も花園との接触を望むクランはありますので、様子を見ながら決めていきましょう。主体的という考えでは、皆さんはどこか気に入ったクランはありましたか? 大手のクランでも、交流会で関わった他のクランでも構いません」
難しい話はまだ終わらなそうだね。まだ明るい時間なのに眠くなっちまうよ。
「アタシとつばきが世話になった『紅の魔法愛好会』は、マジで魔法好きが多かったな。戦いとか稼ぎがどうのってより、魔法が好きでその研究に時間を割いてる奴らばかりだった。まあ悪くねえ連中だったし、今後も付き合って損はねえと思えたな」
「うちも。参考になる話、多かった」
魔法愛好会ね。私も気にはなったけど、なんか小難しそうで結局行かなかったなー。
「野心よりも研究がメインといったクランですか。私も剣の腕や戦闘技術を磨けるクランを渡り歩きましたが、そういう意味ではどこのクランも野心はそれなりに大きい印象を受けました。野心がない、あるいは少ない大手クランというのは、珍しく思えますね」
「ハンター業界が交流会で盛り上がる中、天剣は第五十階層進出を達成したからな。他の戦闘系クランは刺激を受けているのだろう」
「それはそうよ。あたしが行ってた『海風舞踊団』でも連日、天剣とフロレゾの話題で――」
なんやかんやと、みんなの話が続いていく。そいつをなんとなく聞き流した。難しい話はお任せだよ。
ういー、マジで眠くなってきたわ……。
「――アオイは? ちょっと、聞いてる?」
「ふあ?」
「もう、聞いてなかったの?」
んあーっ! 背中が痛いわねーっと。
「なにが?」
「だから、どこか気に入ったクランはあったの? アオイはあちこち顔を出していたんだし、少しは気に入ったクランや人がいたんじゃない?」
「そうだね。でもめっちゃよかったってのは、セーラさんのところくらいかな。私もお友だちを作ろうとはしたんだけどさ、なんかタイミングが悪くてあんま話せないことが多かったんだよね。あとはやっぱ、基本しょぼい奴ばっかだったわ」
「またそんなことを言って」
仕方ないよ。私はつまらん奴や、しょうもない奴とは別に仲良くなりたくないし。
「あ、なんだっけな。なんとか研究会って、変なクラン。あそこは面白かったよ。すごい不気味でさ」
「もしかして『深淵究明会』ですか?」
「そうそう、それだよ雪乃さん。あそこは奇妙で面白かったかも。あとはマッチョ野郎どもも面白いっちゃ面白かったかな? 戦利品が取れたのもよかったし」
みんなの目がでっかい宝石を飾った台座に向いた。
水色の無骨な原石は私の手よりも大きいくらい。なかなかレアな石らしくて、売ればすごい値段になりそうとは聞いた。激臭汁にまみれて回収してないのがまだあるから、そのうち取りに行かないと。
そういや、あの時はみんなに怒られたね。私の『ウルトラハードモード』がバレたらどうすんだって、ややこしい目にあいたいのかってちょっと怒られたわ。
どうせモンスターは1体しか出ないんだから、あれはイレギュラーだって誤魔化せるだろと思っていたのに。そんな簡単じゃないって、みんなに言われてしまった。
バレるもなにも、瞬殺したから全然大丈夫だったよって言ってもお説教を食らってしまったよ。
全然大丈夫だったのにね、みんな心配性だわ。
「あの『深淵究明会』は特段の理由がなければ、近づくのはやめておいたほうがいいでしょう。大手クランとしての実績は申し分ないのですが、不気味との評判で有名なクランです。近しい関係になってしまえば、花園もそのイメージに引っ張られるおそれがあります」
ほーん。イメージとか、割とどうでもいいけどね。でも悪くないほうが、いいっちゃいいよね。
「プラジムもダメよ。悪気はなかったとしても、アオイの写真をバラまいた前科があるわ。秘密を守れる人たちとは思えないわね」
「同感だ。悪い連中ではないのかもしれんが、秘密の漏洩は悪気がなかったでは済まされん。ダンジョン攻略で頼みにできる実力があるにしても、その時点で組むには値しないな」
うーん、ちゃんと考えるとなかなか難しいね。
まあ私も絶対そいつらと組みたいとは思ってないから、みんながやめとけって言うならそれでいいわ。
「すでに花園には大手のクランだけでなく、いくつものクランから今後に向けた提案が届いています。私としては、広く浅く繋がりを保っておくか、どこかと太く繋がるか、どちらでもよいと考えています。葵さんとしては、やはり桜庭楓さんや星ノ宮聖来さんの『武蔵野お嬢様組』がよいと思いますか?」
「うん。断然、そうだね」
蒼龍のおっさんみたいな大物と知り合いだったり、超将来有望な私たちと仲良くしたいってのはわかるけど、面倒な奴らとは関わりたくないわ。セーラさんたちなら、変な心配しなくてよさそうだし。
私が関わってないクランもあるけど、今回の交流会で遊びに行った中ではもうあそこしか考えられないわ。これからも仲良くしたいのはね。
「アタシも少し顔出してみたが、紫雲館は品格が違ったな。ハンターとしての実力はランキングを見りゃ一目瞭然だが、それ以上にあいつらの自信がすげえ。伝統とか格式とか、そういうのが全体に染みついてやがる。天剣や夜鴉みてえな、武闘派クランのほうがダンジョン攻略の面では上なんだろうがよ。ちっとばかし、存在感が違うわな」
「クランマスターの桜庭楓が持つ、パイプの太さと数は計り知れない。そうした面の凄みもあるな」
また難しい話になっちまったよ。
「私としても『武蔵野お嬢様組』との関係強化は積極的に行ったほうが良いと思います。紫雲館の持つ政治力は、私たちの想像の上を行くと考えられます。大手クランの間だけではなく、それこそ政界や財界への繋がりは後ろ盾として非常に頼りになりますね」
「瑠璃ちゃんを狙っている天剣への牽制としても、いいと思いますねえ。あそこはいま、第五十階層に至った功績で調子に乗ってますから」
「勧誘に関しては、はっきりとお断りしているはずなのですが……」
沖ちゃんの引き抜きとか、絶対許さんわ。あのおっさん、ふざけやがってよー。
「紫雲館の後ろ盾を得られれば、そう簡単にちょっかいは出せなくなるわね」
「でもよ、最悪は紫雲館が面倒なこと企んでやがるって可能性もあるよな? 一応は別のクランとも関係は作っといたほうがいいんじゃねえか?」
「まゆさんの懸念はもっともです。では『武蔵野お嬢様組』との関係強化をメインに、ほか『紅の魔法愛好会』や『海風舞踊団』などとも関係は続けていきましょう。皆さんの協力が必要になりますので――」
雪乃さんの優しい感じの声を聞いているともう眠っちまうわ。
あ、よくみたらツバキは普通に寝てるじゃん。そりゃそうだよね。眠くなるのが普通だよ。
くわー、早く難しい話が終わらんもんかねー。