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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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はじめての鑑定

 ダンジョンから戻ると、時間が遅くなったせいか菊川のおっさんはおらず、いつもの眠そうなお姉さんがいた。


「おいすー、お姉さん。ダンジョン帰りの勤労女子、ただいま戻ったよ!」

「おいすーって、葵ちゃん。どったの、それ」

「どったのって、なにが?」

「なんか髪の毛サラサラ、お肌の調子もよさそうだし、爪もきれいよね。つい昨日まで全身ボロカスだったのに」


 ええ、さすがにボロカスは言いすぎだろ。


「んにゃ、特になんもしてないけど」

「でたでた。なにもしてませんって、絶対なにかしてるくせに」

「んなこと言われても。あ、ちゃんとご飯食うようになったし、めちゃ運動してるからじゃない? あと久々にお風呂入ったから、そのせいかも。それより魔石換金してよ、ほい」


 しまった、お風呂嫌いな不潔女子と思われただろうか。お姉さんの眉間にしわが寄っている。

 違う違う、ホントはお風呂大好き女子なんだよ。風呂キャンセル女子とは違うんだよ、誤解なんだよ。

 お姉さんの誤解をどう正そうかと思いながら、たくさんの魔石をトレーに流し込んだ。


「まーた、たくさん取ってきたわねえ。普通はこんなに取れないはずなんだけど、スキルの効果ってすごいわね」


 スキル『ウルトラハードモード』は、ダンジョン内にいるモンスターの数も多いっぽい。


「まあソロでがんばってるから。たぶん私ったら苦労してるから」


 ホントに苦労してるから。毎回、ソロで百匹以上のモンスター狩りまくるとか、話を聞くに普通じゃないから。

 それもウルトラハードモードなソロダンジョンでね。相応の見返りってやつよ。


「はいはい。そういや葵ちゃんの装備さ、鑑定してもいい?」

「あー、前言ってたやつね。仕方ないなー、いいよ。時間どれくらいかかんの?」

「鑑定自体は大して時間かかんないけど、記録取るのが面倒なのよね。大きさとか重さとか細かく計測するし、写真も撮らなきゃいけないし、細かい特徴とか担当者の所感なんかも記録しないといけなくてさ。ま、急げば三十分くらい? 待ってるのが嫌だったら、帰ってもいいよ。装備は次の時に返すし」


 へえ、思ったより大変そう。でも三十分なら別にいいや。


「それくらいなら待つよ。ほい、とりあえずハンマーだけね。大事にしてよ」

「はいはい、丁重に扱いますよ。あ、自動査定が終わったみたい。上層の探索でこの額は、あまり見ないわね。はい、86,000円。お疲れさま」


 もう金銭感覚がおかしくなるわ。

 やっぱし、これからはお金持ちの自覚をもって生きるとしよう。そうしよう。


「じゃあ葵ちゃん、鑑定してくるわね」

「うい。ぼけっと待ってても暇だから、コンビニ行ってくるわ。お姉さん、なんかいる? おごってやるぜ」

「え、ホントに? じゃあ、カスタードプリンとアフォガード仕立てのコーヒーゼリー、それとイチゴ大福も食べたい。飲み物はホットのカフェラテで砂糖はなし、これでよろしくー」


 あの、注文が多すぎるんですが。

 お姉さんは自分の発言のおかしさに気づく様子もなく、奥の部屋に引っ込んでしまった。

 わかった。あの人、美人なのにたぶんモテないわ。いい人はいい人だけど、常識がないからね。



 コンビニで自分史上、かつてない高額な会計を済ませ、また文明レベルの上昇を意識した。

 お姉さんと私の分を含めて、せいぜい1,500円くらい。それでも私にとっては、必要とはとても言えない買い物での1,000円超えは、ちょっとした意識の変革をもたらしたように思う。


「私はもっとお金持ちになるんだからね。贅沢やら無駄づかいやらには慣れていかないと。うおお、これからは気軽に爆買いじゃあ!」


 近いうちに自分の部屋を借りられたら、気軽に絵とか壷とか買おう。

 そうだ、時計も買わないとだ。すごいやつ買いに行こう!


 ダンジョン管理所に戻ってお姉さんに声だけかけたら、人のいないロビーでビッグサイズのプリンを食べる。


 普通にプリンが食えることの幸せったらないわ。

 世の中、みんな恵まれていることに気づいたほうがいいやね。

 数日前の私に、のんきにプリンが食えることを教えてやりたい。プリンくらい、腹いっぱいに食えるよって。

 この程度のことさえ、たぶん信じられないだろうね。


 甘いプリンを食べ終わったら、とたんに眠くなってきた。

 ちょっとした居眠りくらい、別にいいよね。誰もいないし。

 ダンジョン帰りの疲労もあって、すぐに意識が落ちるのがわかった。



「おーい、永倉葵スカーレットちゃん。葵ちゃん、起きて」


 うおいっ、気づけばお姉さんに肩を揺すられていた。思ったよりしっかり寝てしまったようだ。

 ロビーの壁かけ時計を見れば、プリンを食べてから一時間近く経過している。


「ふあーっ。ええっと、鑑定終わった?」

「その前にコンビニスイーツとカフェラテ、ありがとね」

「いいってことよ。それで?」

「うーん、それがね。ソロダンジョン産だからだと思うんだけど、鑑定が上手くいかなくて。もっと性能が高い鑑定機を使ったらわかるかも」


 昼間のダンジョン管理所のおっさんは、ソロダンジョン産の道具は発見した本人にしか使えないとか言っていた。

 単純に性能を調べることにも制限がついているのかも。


「性能が高いやつかー。それ使ったらいけるのかな」

「だから葵ちゃんの装備さ、もうちょっと貸してくれない?」

「それは無理。私、持ってる装備少ないから。お金もほしいから、毎日ダンジョンで稼がないと」

「そこをなんとか。お願い!」


 あ、そういうことなら。


「昼間に受付の堅苦しいおっさんに言われたんだけどさ」

「堅苦しいって、もしかして菊川所長のこと?」

「所長? たぶんそのおっさん。おっさんが別のダンジョンに行けば、ここみたいに上層でも装備品取れるんじゃないのって言ってて。ソロダンジョンなら、たぶん取れると思うんだよね。だからさ、次は近場のダンジョンに行ってみるわ。そこで私がいらないやつ取ったら、いくらでも調べてよ。渡すから」


 ソロダンジョン産は、私専用で売れないからね。使わない装備はどうでもいい。

 むしろ不要品をため込んでも無駄だから、研究用とかの名目で買い取ってほしい。

 お姉さんには、そんな方向で偉い人と話を進めてもらいたいわ。

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