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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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179/214

良い交流と悪い交流!

 炎天下の中、芋ジャージの上下を着て走る私。

 タンクトップに短パンで走るマッチョな大久保。


 そんなふたりが、ジョギング中の人をびっくりさせる勢いで駆け抜ける。


「うおおーっ」


 マラソンとは思えないほどの猛ダッシュで、土手の上を突っ走った。

 なのに、追いつけない! なんだよ、あいつ。めっちゃ速いんだけど。


「はっはっはっー! 少女よ、まだここからが本番だ」


 少し前を走るマッチョは、完全に余裕ですって感じだ。

 でかい図体であのスピードは予想外すぎるだろ。私ったら足速いし、普通に勝てると思ったのに。

 やっぱトップクランの高レベルハンターってすごいんだね。ちょっと見直したわ。


「こんにゃろー!」


 まだあきらめないよ。あとどのくらい距離があるか知らんけど、大久保の体力が急になくなるかもしれないし。勝ったらタダでうなぎ食えるし!


「いい調子だ! この速度を維持しよう」


 えー、ちょっと苦しくなってきたんだけど。やっぱこいつ、体力もすごいわ。

 全然追いつける感じしないわ。トップレベルのハンターなめてたかも。



 その後も余裕で前を走る大久保に、私は必死に食らいつくだけだった。

 浅草に近づくにつれて周りに人が増えて、なんとなく見覚えのある場所で大久保がストップした。この辺で競争は終わりらしい。


 なんだこいつ、勝てる気がしないんだけど。


「さすがだな少女よ。そのスピードとスタミナは、我らがクランメンバーにも劣らない。俺が見込んだとおりだ」


 ういー、テンション下がるわー。

 負けたよ。うなぎ、おごってもらえないわ。


「……はあ、疲れた。じゃあ私、どっかで休んでくるわ。あとで花やしきダンジョンに行けばいいよね?」

「昼めしはいいのか? 俺の勝ちではあるが、うなぎは食べさせてやろう。楽しいトレーニングになった礼だ」


 マジで? いやー、でも情けはいらないかな。


「約束は約束だし、それはいいよ。ほいじゃねー」

「そうか? 遅くても2時間後には集合してくれ」

「わかったよ」


 よし、切り替えよう。

 いまから崇高な食事の時間だよ。満足のいく浅草メシを探すところから始めるぞ。



 気になった食べ物屋さんに入ったり、お菓子を買ったり、謎のお守りを買ったり、久しぶりの観光気分で遊んでしまった。

 最後にちょっと粘って、どら焼きが人気の店に並んでいたら遅くなってしまったわ。


「やべー、遅れちまったよ」


 急いで花やしきダンジョンに駆けつけた。

 でも今日は時間が長いから、ちょっとくらいはいいよね。むしろ夜中まで時間ありすぎるからね。

 久しぶりのダンジョン管理所に入ってみれば、受付には暇そうなお姉さんがいた。


「おいすー!」

「あら、永倉さん。いらっしゃい、お久しぶりです」


 この受付係のお姉さんは覚えている。前にあれだ、しつこいスカウトマンをぶちのめした時にいた人だね。


「久しぶりっす。筋肉クランの大久保たちって、もういるよね? ちょっと遅れちゃったわ」

「交流会ですよね。大勢でいらしてますよ。永倉さんも参加されるんですね」

「うん。私はいろんなクランに行ってんだよね。あ、今日は夜中のモンスター倒すまでいるから。私が倒してもいいって言われてるんだよ」

「そうなんですか? 強いモンスターと聞きますから、気をつけてくださいね」

「楽しみだわー。ほいじゃまたね」

「あ、永倉さん。更衣室はあちらです」


 更衣室?


「みんな着替えたってこと?」

「実戦用の装備でトレーニングされるようですよ。皆さん着替えていました」

「そっか。じゃあ私もそうするかな」


 たしかに、重い装備のままのほうがトレーニングになりそうだわ。私の場合は装備の性能がすごいから、あんまりトレーニングって感じにならない気がするけど。

 まあ今日は交流会だから、みんなに合わせて普通に更衣室でお着替えするかな。


 最近はダンジョンに入ってなかったから、魔法学園の制服ルックが久しぶりに感じる。

 フル装備になると、気持ちが引き締まるね。やるぞって気になるよ。


 高まる気分のままにダンジョンにイン!

 長い階段をダッシュで下る。我ながらすごいバランス感覚だよ。これこれ、思ったとおりに体が動く。やっぱダンジョンの中なら、私ったらめちゃ強いね。


「遅いぞ、やっと来たか」

「ちょっと遅れたー!」


 トレーニングってなにをするんだろうと思って周りを見れば、みんなフル装備で走っているね。武器まで持っちゃってさ。

 たぶん100人くらいいるのかな? 思ったよりも人数が多い。

 その中でも大久保たちは、クランメンバーの証なのか、おそろいの白色っぽい鎧姿でなんか騎士っぽい感じがする。迫力あるわ。


「あれはなにやってんの?」

「今日はダンジョン内ハードトレーニングだからな。ダンジョンに相応しいものでなければならん。少女よ、君も武器を持って走れ。向こうの壁まで走って、戻ってこい。まずはそれを100本だ。君は遅れを取り戻せ」

「マジかよ。100往復ってこと?」


 さすがに多くね?


「片道300メートル程度だ。ステータスの力を引き出せるダンジョンだから、たいした距離ではない。だからダッシュだ。君もあのハンマーを持って走れ!」


 また走るのかよ。めんどくせーけど、トレーニングってそんなもんか。


「少女よ、君は遅れている分不利だが、もし上位3名に入ればお食事券の褒美はあるぞ」

「おおーっ、よっしゃ。いまからまくってやる!」

「厳しいが君にはいいハンデになるだろう。がんばれ!」


 そうと決まればやったるぞ。相棒のハンマーを次元ポーチから取り出して、さっそく走り始める。投げ斧はまあいいよね。


「うおおーっ、負けるかよー!」


 ごぼうのように抜いてやるわ!



 本気で走ってすぐにわかった。わかってしまった。

 私ったら思った以上にめちゃ速い。装備のステータスが加算された状態は、スピードも体力も地上の私とはもう次元が違う勢いだ。


 交流会に集まったほかの奴らは、まあこんなもんかって感じだね。遅いわ。将来有望で日頃からウルトラハードでがんばってる私とはそりゃ違うよね。むしろ同じでたまるかよって話でもあるわ。


 見た目には重そうなハンマーを肩に担いだまま、怒涛の勢いで走りまくる。ほかの奴らを抜いて抜いて、ぶっちぎりまくる。

 こんな遅い奴らに、お食事券を渡してたまるかよ!


「お食事券、10万円分ーっ!」


 それでうなぎを食ってやる。

 ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ。少しもスピードを緩めはしない。力があふれる!


 走って走って走りまくる。

 どのくらい時間がたったのか、もう少しで100往復だ。数え間違えはたぶんないはず。もうちょっとでゴールだよ!


「よーし、上位3名はこれで決まりだ。だが残りの皆もがんばれ!」


 え? いやいや、嘘だろ? 私ったら、誰よりも圧倒的に速いじゃん。

 急いで大久保のところに走り寄った。


「もう決まったってマジで? ねえねえ、マジで? 終わっちゃったの?」

「惜しかったな。君のスピードは俺にとっても完全に想定外だったが、出遅れた分のせいだ。君はいま5位につけている」


 うへー、マジでやる気なくなったわ。まあ遅れた私が悪いんだけどさ。

 誰かズルしてんじゃないの、なんて思ったけど、大久保の近くでメモを取ってる奴らがいた。ちゃんと誰が何往復したか集計してるっぽい。なかなか気の利く奴らだね。


「次の種目でも上位3名には同じ商品がある。だが指定のメニューはすべてこなしてもらうぞ」


 希望があるじゃん。やるね、大久保。

 そういうことなら、ここで立ち止まってる場合じゃない。残り少しをさっさと終わらせて、次の種目に備えよう。

 ちゃちゃっと走って、休むことにした。



 あ、そういやあれだね。

 みんな真剣にトレーニングしていたから、交流会らしい交流が全然ない。せっかくだし、毎度のお友だち作ろうチャレンジしてみるかな。


 これまでに成功したことはないけど、みんな休憩中だから話しかけるにはいいタイミングだよね。

 一応、走ってる時によさげな人はチェックしたから、もう順番にいってみるか。むしろ全員、いっとくか!


 私もいっぱしのクランマスターだからね。交流は大事にしていこう。

 休憩中に周りを見ながらそんなことを思っていたら、向こうから誰かきた。


「こんにちは。永倉さんですよね?」

「可愛いですねー」

「蒼龍杯の時に見たぜ? あんた凄かったな。それにいまのダッシュも」


 おー、フレンドリーな人たちだよ。

 歳も私と近そうだし、新たなお友だちゲットのチャンスかも。


「はいはい、あたしともお話いい?」

「俺らも混ぜてくれよ」

「お前、さっきのダッシュ異常に速かったよな? 何だよあれ」


 なんだ、こいつらは。ちょっと押しが強い感じだね。


「あ、わたしたちもいいですかー?」

「連絡先交換しましょーよ」

「だったら俺ともいいだろ?」

「僕ともお願い!」


 うお、なんかいっぱい集まってきちまったよ。

 わらわらと最初の人たちがきっかけになったのか、どんどん集まってるね。

 あー、最初のフレンドリーな人たちが押しのけられちゃってるよ、まったくもう。


「よお! 俺らとも話そうぜ。俺ってさ、九条まどかのファンだったんだよ」

「俺も俺も。永倉、まどかちゃんはどこの交流会に行ってんの?」

「せっかくなんだし教えろよ。いいだろ?」


 いいわけねーだろ。誰だよこいつ。


「つーかさ、フロレゾの件はどうなったんだ?」

「昔のよしみで、あの『ベリーハードモード』のダンジョンにお前ら行けんじゃねえの?」

「高千穂って女、全然表に出てこなくなったよな。永倉、お前何か知らねえの?」


 これってアレだよね? 情報収集的な活動のやつ? またかよ。

 それにしても、こういうのってもうちょい上手くやるもんじゃないのかね。態度悪いし、なんも答える気にならねーわ。


 てゆーか、なれなれしいんだよ。

 私のマブダチに気安く近づこうとしやがってよー。もうぶっ飛ばすぞ。

 せっかくお友だちゲットのチャンスもあったのに。


 よし、私は決めたよ。なんかよさげなトレーニングあったら、邪魔した奴らをぶっ飛ばそう。

 どさくさに紛れて、もうやっちまおう。

 顔は覚えたからね、マジでやっちまうぞ。私ったら腹立ってるぞ!

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