ちょっとした不満
花園のみんなの話を聞いて、いろんなクランを回ってみた。そうしてやっと実感がわいた気がする。
めっちゃたくさんのハンターが、やたらと私たちのことを気にしている。
それはもう、うっとうしいくらいに。
最初は私たちは将来有望なクランだから注目されてるなーって感じだったけど、ちょっと違う気がしてきた。
どこに遊びに行っても、決まって同じような質問をされる。
蒼龍のおっさんとの関係は?
クランの今後はどう考えてんの?
大手クランとの関係はどうするつもりなん?
うちと手を組まない?
スポンサーの話は出てないの?
マドカはどうしてる?
マドカとフロレゾの関係は?
そんなんばっかり。もう、うるせーわ。
交流会って、たしかハンターとしての基本を強いクランに教わる会だったはず。
ハンターとしての心構えとか、戦い方とか、ダンジョンについてとかさ。
あとはおしゃべりして仲良くなろうみたいな目的のはずなのに、仲良くってよりは腹を探るみたいなのが多すぎるんだよ。
もっとこう横のつながり的な? お友だちとかちょっとはできるかと思ってたのにね。そんなことには全然ならんわ。
なんなんだよ。まったくもう。
「おかえりなさい、葵さん」
遅めの時間に花園に帰ったら、雪乃さんが迎えてくれた。
「ただいまー」
「今日のクランはどうでした?」
「微妙だったわ。今日はホントに交流会って感じのお茶会だったのに、みんなめんどくさい感じの話をしやがってさあ」
ムカつくわー。お友だちを作る気満々だったのに、ややこしい話ばっかしやがって。
私ったらフレンドリー感出しまくりだったのに。あんなんだったら、逆にケンカ売りまくればよかったわ。
「どのような話になったのですか?」
「またいつもの感じだよ。蒼龍のおっさんとの関係とか、クランの今後とか。あとマドカのことを聞いてくる人も多かったね。前に雪乃さんが話してくれたみたいな、ややこしい話ばっか!」
せっかくやけ食いしてストレス解消してきたのに、思い出すとまた腹立っちゃうわ。
「そうですか。葵さんたちは、業界では注目の的ですから」
「私たちったら注目されまくりなのはわかってんだけどね。でも限度があるわ。今日はお茶会だったんだよ、お茶会! つまらん話ばっかしやがってよー」
「災難でしたね。ただ他のクランの立場からすれば、やむを得ないのかもしれません」
やむを得ない?
「そんなもん?」
「花園は多くの意味で価値のあるクランです。蒼龍とのつながり、まどかさんの存在、正体不明とされている葵さんのスキルもそうですね」
「価値はそりゃあ、めっちゃあるだろうけどさあ」
「特に重要なのは政治的な価値、と言ったらわかりますか?」
マジかよ、そんなこと前にも聞いた気がするけどね。くだらんことを考える奴らがいたもんだよ。
「全然、わからん。私たちはただハンターやってるだけなのにね。レベル上げて、お金を稼ぐだけ! それでいいのに」
「そうですね。でも、それが逆に貴重とも言えます。どこにも属さず、自由に動けるクラン。しかも実力がある。そのようなクランは魅力的に見えるものです。近づきたい、そして可能なら取り込みたい、そう考えてしまうハンターは多いと思いますよ」
「うへー、嫌だわー」
その下心が微妙なんだよな。
実際、これまで楽しい感じがする奴は全然いなかったし。ふざけんなって感じ。
「でも心配する必要はありません。簡単には利用されないよう、手は打っていますから」
たしかあれだ。私たちへの過激な勧誘をしにくくなるように、ダンジョン管理所のお偉いさんに働きかけたりとか。スポンサー経由での圧力を弱めるためのなんとかとか、お金はかかるけどあれこれやってくれていたはず。
私には意味わからんことばっかで、全然ムリだからね。そういうのをやってもらえるのは、ホントありがたいわ。
「雪乃さん、頼もしいっす。助かるわー」
「それでもまだ足りませんけどね。可能であれば、蒼龍以外の後ろ盾もほしいところです。皆さんも交えて、いろいろ考えていきましょう」
「うん、だね」
心強いよ。よくわからんけど、裏でいろいろある面倒事を全部任せておけるから安心だ。
雪乃さんや銀ちゃんたちが仲間になってくれて、ホントによかったわ。
もしそうじゃなかったら、私とマドカで変な奴らを叩き潰して回らなきゃいけなかった。そうなったら、もう平和にハンターやってられなかった気がするね。
結構ハードな日常生活になってそう。想像しただけで、なかなかハードそうだよね。
それにしてもだよ。私たちったら、そんな面倒な立場なんだね。
私はただハンターとして超強くなって、いっぱいお金稼いで、あとは楽しくやっていきたいだけなのに。
なんで政治とかなにかに利用とか、そんな意味わからん話が出てくるんだよ。
けどまあ、雪乃さんやみんなのお陰で、いまのところは楽しくやれている。交流会ではちょっと嫌な気持ちになることもあるけど、楽しかったところもちゃんとある。
これからも私は難しいことは考えないで、自由に楽しくやっていきたいね。
「葵さん、そういえば明日は『白夜筋肉騎士団』に行くのですよね?」
「そうそう。前にちょっと世話になったことあるし、あそこは筋肉筋肉うるせーけど、わかりやすいクランだからさ。気楽に行ってこれるよ。それに結構強い奴らだからさ、トレーニング方法とかも聞いてみようと思って」
トレーニング好きの沖ちゃんに、話を聞かせてあげたら喜ぶかも。
「油断はできませんが、たしかにあそこはわかりやすいクランです。腹の探り合いからは離れて、楽しめるとよいですね。おそらく交流会への参加者も、似たような思考のハンターが集まると思います」
「うん、筋肉とかトレーニングとかばっか言ってるクランだからね。めんどくせー感じの奴がいたら、もうぶっ飛ばすわ。許さんわ」
「ストレスの発散は大事ですが、もし暴れる場合には先方のクランの許可は取ってくださいね」
「大丈夫! トレーニングの中で暴れるからさ」
なんか上手いことやればいいんだよね? 私もそのくらいはわかってるよ。
よっしゃ、よっしゃ!
最近はちょっとつまらん話が多かったから、筋肉クランが楽しみだわ。
ひと暴れするくらいの気合でいってやる。やったるぞ。




