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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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170/216

闇?華?勇者?

 麦わら帽子を次元ポーチにしまい、全力ダッシュで田舎の住宅街を駆け抜ける。

 ドブで濡れた足元が気持ち悪くて腹立たしい!


「うおおーっ、どこ行きやがったー!」


 入り組んだ道とは違うし、家が密集しているわけでもないから見通しは悪くない。

 これならホントに見つかるかも。ちょっとくらいの希望はある。

 そんなことを思いながら、微妙にカーブする下り坂を走っていると、遠くのほうに白いワゴン車っぽいのが見えた。


「あれだよね?」


 ワゴン車から目を離さずに、下り坂を猛スピードで走る。

 車が角を曲がって見えなくなったと思いながらも走っていたら、また姿を現した。しかも、なんでか進行方向がこっちのほうを向いている。

 よくわからんけど、引き返してくるっぽい?


 すると大きなお屋敷の前で車が停まった。あれなら追いつけるよ!

 と思ったら、パンパン音が鳴って、車が急発進した。


「え、いまのって銃だよね? たぶん銃をぶっ放したよね?」


 お屋敷に向かって銃を何発か撃って、すぐに逃げ出したみたい。なんだあれ。

 思わず立ち止まっていたら、結構なスピードで発進したワゴン車だよ。やっぱりこっちに戻ってくるね。

 こんにゃろー、今度は避けてやらん。


「やったるぞ!」


 負けじとせまい道のド真ん中を突っ走る。

 ここはいま私の道なんじゃい。通りたかったらそっちが避けろよな。

 避けられるスペースはないけどね!


 ぐんぐん迫る白いワゴン車。ちょっとちょっと、マジで避けないの?

 このままだったら私とぶつかるよ? 普通、避けられないなら停まるよね? さすがにね?

 もしかして、ギリギリ、ギリギリまでの勝負?


 そうだよ、チキンレースとかいうあれだよ。あれだよね?

 だったらその勝負、受けて立つよ。


「うおおー、えっ?」


 そろそろあぶねーかもと思ったところで、車がふらふらしてスピードが急に遅くなった。

 さらにドブにタイヤがハマって、完全に停まってしまった。

 車のガラス越しに見えるおっさんも、なんか呆然としているね。なにやってんだ、あいつ。


 とにかくだよ。


「おらーっ、あぶねーだろーが! お前のせいで、私ったらドブに落ちちゃったんだよ! あやまれよなー!」


 ちゃんとあやまれ。そうしたら心のでっかい私は許してやる。


「おーい、さっさと降りてこいよー」


 いつまで呆然としてんだよ。

 運転席のおっさんをあきれて見ていたら、後ろに乗っていた奴らがどやどやと降りてきた。なんかいっぱい乗ってたんだね。


「何やってんだ、早くどうにかしろ!」

「ちょっと待ってくださいよ。あー、これパンクです。側溝にもハマっちまってるし、とりあえず持ち上げてみますか」

「んなこと、のんきにやってる暇ねえぞ。急がねえと、サツとハンターどもが集まるだろうが!」


 私のことを無視すんなよ。


「おらーっ、私ったら将来有望な新人ハンターだぞ! お前らなにやってんだよ、こんにゃろー!」


 声をかけたら一斉にこっちを向くいかついおっさんたち。ちょっと怖いけど、蒼龍のおっさんに比べたらまだまだだわ。あのナチュラルに5人は山に埋めてそうな威圧感は、こいつらには全然ないね。


「ハンター? お前が?」

「将来有望な新人ハンターだよ。てゆーかあやまれよ! お前らのせいで私の高級なお靴がさあ、濡れちゃったんだよ! ドブに落ちちゃったんだよ!」

「はあ? ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ」

「おいっ、遊んでる場合じゃねえだろ」

「俺が追っぱらいます。このガキ、邪魔だからうせろ! おい、聞いてんのか? 近寄るんじゃねえ!」


 素直にあやまりなさいよ、まったくもう。

 とっことと近づいて、うるさい兄ちゃんに攻撃しちゃうわもう。


 おらよっと。


 シャキンと取り出した警棒で、お腹をドンと突いてやった。まんまと倒れて転がる兄ちゃんだよ。

 がははっ、私ったらめちゃ強いからね。思い知ったかね?


「何やってんだ、このガキ!」

「お前らがなにやってんだよ、こんにゃろー! 私の高級なお靴がドブで濡れちゃったって、言ってんだろーがよ!」

「ふざけんな! いい加減にしろ、このガキが!」

「ガキでも自称ハンターだ。気をつけろ!」


 さっきからガキガキってうるせーな。やっぱ腹立つわねー。

 めっちゃ強そうな見た目だけど、動きののろい兄ちゃんが近づくのをまた警棒でぶっ倒した。

 私のほうがずっと強いって、そろそろわかれよな。まったくもう。


「こ、こんガキャあ!」

「てめえ、それはよせっ!」


 うおっ、銃を向けられちゃってるよ。それはやりすぎだろ。さすがにずるいだろ。

 いやでも激しくムカついちゃったわよ。そんなもん向けやがってさ。


「うおおーっ! なにをやっとんじゃ、こんにゃろー!」


 お前らなんかに負けるかよー!


「あぶない!」


 うおっ、びっくりした。

 いきなり後ろから声をかけられたあげくに、急接近されてしまったわ。

 ささっと避けながら見たら、そいつは金属感バリバリの鎧姿だった。ハンターのおっさんじゃん。

 とっさに避けちゃったけど、なんか私のことをかばおうとしてくれたっぽい?


 さらに追加で鎧のおっさんがふたり登場して、ごろつきどもをあっという間にやっつけてしまった。

 ダンジョンの外なのに、なかなか強いね。やっぱレベルの高いハンターっぽいわ。やるね、おっさんたち。


 まあ助太刀なんか全然いらなかったけどね。あんなへっぴり腰で構えた拳銃くらい、撃つタイミングさえわかれば避けられるし。むしろ撃たれる前にぶっ倒せたし。


「永倉、大丈夫か? 心配したぞ」

「急に走りだすから驚いた。勝手な行動はよくないな」

「無茶をする奴だ」

「あー、すんません。ちょっとムカついちゃったんで。でもおっさんたち強いね? ダンジョンの外なのにさ、結構やるじゃん」

「俺らはともかく、この人は『闇を纏いし華の勇者』だからな。そこらのチンピラが何人相手だろうが、遅れは取らないさ」


 は? 勇者?


 鎧のおっさんたちは3人いる。3人いるけど、割と無個性で誰が誰だかわかりにくい。というか全員、顔とか雰囲気とかがフツーなんだよ。

 金色の鎧は派手だけどみんな似た感じだし。鎧を脱いだら、たぶん普通のおっさんにしか見えないと思う。

 それが勇者? しかも『闇を纏いし華の勇者』なの? むしろ金色じゃん。


 闇をまとった華のある勇者だよね?


 なんだろう、例えるならだよ。イケてる見た目だけど陰があってさ、おしゃれなバーの暗がりでさ、ひとりでお酒を飲んでいるみたいなイメージ?

 でもこのおっさんは、公園でカップ酒が似合うタイプじゃん。マジかよ。


 うーむ。ちょっと待って。じっくり見てみるか。


「なんだ、そんなにじろじろと」


 ふむふむ。うーん? ああーん?

 もうちっと斜めから見てみたら? いやいや、下から見たら?


 …………ないね。どこにも勇者感ってもんがないわ。強そうではあるけど、勇者っぽい感じが全然ない!


 あと、どこに闇をまとってんの? どこに華があんの?

 そんなもんねーじゃねーか!


 わかった。勇者って自称だわ。絶対に自称だよ。勝手に名乗ってるだけだわ。


「あ、永倉。どこに行くんだ?」

「銭湯でお風呂入って帰るわー。ほいじゃねー」


 あー、こんな千葉の田舎まで来たのに。完全に無駄足だったわ。

 なんだよもう。そんなんありかよ。

 勇者はウソツキ野郎だって、帰ったらみんなに言ってやる!

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― 新着の感想 ―
葵ちゃんが心に山賊を飼っているように おじさまの心には魔王を倒したい厨二な心があって それが年齢と共に闇堕ちしたんだな・・・ 次回も楽しみにしております。 今後ともよろしくお願いいたします。
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