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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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目的地への遠き道

 天剣の交流会は私にはめっちゃつまんなかった。

 剣の指導以外にも基礎的なトレーニング方法とか心構えとか、あれこれ偉そうなことは言われたけど、なんかいまいちピンとこなかった。

 沖ちゃんは喜んでいたから、たぶん私には合っていなかったんだろうね。まあそういうパターンもあるのかな。


 私としては紫雲館のほうが、マナーのことは多めだったけど緊張感あったし全体的に面白かった。

 あと不気味な深淵究明会も意味はよくわからんかったけど、変なわくわく感があって楽しかったね。参加した人は少なかったのに、あそこは穴場だわ。


 やっぱりトップクランがどうのとか、誰か有名な奴がいるとか、そういうのよりも大事なのは交流会の中身だね。

 まあ行ってみないとよくわからんから、私はとりあえず行ってみる。来年の時の参考になるし。


「よーし、今日も張り切っていこう!」


 昨日はつまんなかったけど、きっと今日は面白くなる。

 雪乃さんによれば、これから行く『夜鴉よがらす翼団つばさだん』は、大手クランの中でも特にレベルが高いハンターが多いすごいクランらしい。


 それに『闇を纏いし華の勇者』とかいう、めっちゃカッコいいクラスの人がいるって聞いた。

 どうやら写真嫌いな人みたいで、ちゃんとした写真がないって話だから、顔を見るのもちょっと楽しみ。勇者っぽいツラ構えのいかにも勇者ですって感じの奴に決まっているからね。


 そうだよ。勇者だからね、勇者! 絶対会ってみたいわ。

 どうすれば勇者になれるのかは、たぶんわからんだろうけど、一応は聞いてみたい。

 うん、とにかくそいつよりも勇者っぽい感じになれば、私にも超次元勇者とかそんな感じのクラスへの道が開かれるに決まっているわ。



 わきあがる期待で胸をいっぱいにしながら電車を乗り継ぎ、練馬から結構遠い、千葉の奥まった場所までやってきた。

 最寄りの駅で降りたはいいけど、待機中のタクシーがないとは想定外だった。マジかよ。

 タクシーの運ちゃんにクラン名を言えば連れて行ってもらえると思ったから、細かい場所は調べてこなかったのに。


「ういー、どうすっかな」


 地図アプリをざっと見ても、クランの場所は書いてない。せっかく私ったら地図が読める女子なのに。

 まあいいや。とりあえずコンビニで店員さんに聞いてみよう。今日も暑いから無駄に歩くのはちょっと嫌だ。


「らっしゃーせー」


 はー、コンビニは涼しいわ。


「おいすー! お兄さん、この辺に『夜鴉の翼団』って人たちのクランあるよね? どの辺か知ってる?」

「ああ、夜鴉ね。この辺じゃ有名だから、みんな知ってますよ」


 やった。やっぱ強いクランは有名だね。


「えーとクランの場所は、そこの道を右にまっすぐ行って、最初の信号を左に曲がって――」


 うーん? まあなんとなくの方向はわかったわ。もしわかんなくなったら、また別の人に聞けばいいや。


「ありがとー」


 お礼を言って、コンビニを出る。なんとなくの方向に行けば、なんとかなる。そんなもん!

 ところがどっこい、しばらく歩いてちょっと不安になってきた。あと暑い。日差しがやばい。


「うへー、どこだよ。それっぽいのが見当たらんね」


 たぶん合っているはずの道を進んだのに、到着する感じがしない。なんだよ、あのコンビニの兄ちゃん。まさかでたらめ言いやがったんじゃないだろうね? 大丈夫だよね?


 そこらを見回して、誰かに聞いてみることにした。あの兄ちゃん、信用ならんわ。

 全然人けがなかったけど、ちょうど横手の道から誰か出てきた。


「おーい、そこのキッズ!」


 元気に走り去ろうとしていたキッズを呼び止める。


「……なに?」


 小学生、たぶん10歳くらいかな。生意気そうな男子だけど、ひものついた風船をたくさん持っている。可愛いもんだね。

 でもこのキッズにはいたずら小僧の雰囲気がある。そこは警戒しないといけないね。


「おいキッズ、この辺にあるダンジョンハンターのクランハウスって知らない?」

「知ってるけど」

「マジで? 夜鴉の翼団だよ? ホントに知ってんのかー?」


 ウソついたら許さんぞ。今日は日差しがキツくて暑いんだよ。早くハウスで涼みたいんだよ。


「俺、急いでるから。その場所、あっちの方だから」


 そんなテキトーなことを言うなり、走って行ってしまった。

 あっちって、どこだよ。具体的に言えよ。別の人に聞こうにも、全然人がいない。もう、仕方ないなー。


「おらーっ、キッズ! ちゃんと教えろー!」


 帽子を手で押さえながらのダッシュでキッズに追いつくと、なぜかキッズはムキになってスピードを上げた。

 なんだこいつ。この私と勝負しようというのかね?

 私ったらダンジョンで鍛えまくってるから足速いんだよ? キッズごときに負けるわけないんだよ?


 がははっ、身のほどってもんを知るがいいわ!

 いつか超有名ハンターになる私と、一緒に走ったことあるよって自慢すればいいわ!


「うおおーっ」


 少し前を走っていたキッズを楽々とぶっちぎり、30メートルくらいリードしたところで待ち構えることにした。

 ふいー、汗かいちまったじゃねーか。ちゃんと道を教えてくれよな。


 実力の差を思い知ったキッズは、のろいスピードでやっと私の所に到着した。ところがだよ。


「……うっ、ひくっ」

「え、マジかよ。泣くなって」


 声をかけたらなぜかもっと泣いてしまって、めっちゃ困った。これは困ったよ、なんか私が泣かしたみたいじゃん。え、これって私が泣かしたの?

 自分から勝負を挑んだくせに、負けたら泣くとか。マジかよ。

 仕方ない、なぐさめてやるか。


「待てい、悲しむことはないぞキッズ! 私よりはずっと格下だけど、キミもまあまあ速かったよ。たぶん。あ、風船持ってんだし、そりゃスピードも遅くなるから」


 せっかくなぐさめてやったのに、キッズはちっとも泣き止まない。

 やべー、どうすっかな。


「……そうだ! おいキッズ、これをあげよう。足が速くなるお守りだよ」


 前に浅草で買った家内安全と書かれたお守りを渡してやる。ご利益はよくわからんし、この世に神はいないけどね。なんとなーく、ありがたいものだからね。


「本当に?」

「ホント、ホント。こいつに足が速くなりますよーにって祈って、毎日走りまくれば、私みたいに速くなるよ。だからがんばれ!」

「わ、わかった」


 ごしごしと目をこする姿がいかにもなキッズだよ。やっと泣き止んでくれたか。やれやれ。


「それでさ、夜鴉のクランハウス。どこにあんの? ちゃんと教えておくれ」

「……あそこ」

「あそこ? おー、あの竹っぽい壁のところ? なんだよー、すぐ近くじゃん」


 よかったよかった。無事に到着できそうだわ。


「ありがと、キッズ。ちゃんと毎日走りまくれよ」


 聞こえたのか聞こえてないのか、キッズは無言で走り去ってしまった。

 それにしても無駄に汗をかいてしまったわ。あちー。


 相変わらず周りに人はいないけど、ちょっとした商店街のような場所が少し先にあるっぽい。ちょっと喉渇いたし、どっかの店で休んでからクランに行くとしよう。



 人けの全然ない商店街をうろついていたら、なんと古式ゆかしい銭湯を発見してしまった。

 しかもまだ午前中なのに営業中だよ。これはもう入るしかない。

 いざゆかん、新たな銭湯へ!


 開けっぱなしの広い間口から入り、オールドスタイルの靴箱を発見。次元ポーチに収納してもいいんだけど、ここはあるものをちゃんと使う。

 靴箱を開けたら、高級感あるお靴をイン!


 オールドスタイルの靴箱を使うのは初めてだけど、なんとなくのこうするんだよねってイメージでどうにかなりそう。靴箱の木の板みたいな鍵にちょっとテンション上がるのを感じながら、女湯に突入した。


「おいすー、やってるよね?」

「やってるよ。550円ね」


 不愛想なおばちゃんにチャリンと小銭を渡したら、さっそく服を脱ぐよ。ささっと脱いで、ささっと入ります。


「おー、富士山じゃん。いいね」


 壁にでっかい富士山の絵だ。さすがオールドスタイル。広くはないし全体的にぼろっちいけど、伝統的な感じがなかなかいい。

 冷たいシャワーを浴びたら、誰もいない湯にドボンと入るよ。


「……ういー、暑い日には熱い湯だよ。たまらんわ」


 このまましばらく浸かって、冷たいものでも食いにいこうかね。

 喫茶店でパフェとか食べるかな。あ、かき氷もいいね。


 あれ、私ったらなんでここにいるんだっけ?

 まあいいか。


「あー、かき氷食いてー」

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