お初の交流会!
クランの交流会が始まったその日、朝っぱらから私たちはそれぞれで動きだした。
のんびりなんてしていたら、あっという間に終わってしまうからね。こういうのは早めに動いたほうが気合も入るし、気分もいい。
私もでかいクランに乗り込んで、荒らし回ってやる気満々だ。
「葵さん、いまからお出かけですか? 最初は紫雲館でしたね」
「うん、ちょっくら行ってくるよ。あと今日は結構帰りが遅くなるわ。セーラさんのトコの後にも、別のクランに行ってみるからさ」
「遅い時間ということは、もしかしてあの『深淵究明会』ですか?」
さすが雪乃さん。それだけでよくわかるね。
「なんか集合時間がめっちゃ遅くて気になったんだよね。どんなところか全然知らんけど、とりあえず参加希望って連絡しといたよ」
ほぼ全部のクランが、朝から夕方までのどこかで行けばいい感じだった。夜から受付開始のクランは珍しくて気になったし、時間的に後回しでも行ける。そうとなったら行くしかない!
「あそこはモンスターの研究に特化したクランです。クランハウスも管理を任されたダンジョンの上に作ったという、珍しい存在ですね。とはいえ、葵さんの興味を引くクランとは思えないのですが……それにあそこはあまり良い評判を聞きません」
「え、そうなん? なんで評判悪いの?」
「ただの噂話なのではっきりとはしないのですが、怪しげな儀式を行っていると聞きます」
儀式? うおー、マジかよ。むしろ面白そうじゃん。
「それは気になりまくるわ。私が行ってたしかめてみるわ」
「ほかにも交流会の参加者がいるはずなので、おかしなことはないと思うのですが、くれぐれも気をつけてくださいね」
「もしなんかあったら暴れ回って逃げるから大丈夫。よっしゃよっしゃ、楽しみになってきたね。でもその前に、セーラさんに会えるの楽しみだわー」
「なにかあったら連絡してくださいね。今日は日差しが強いので、帽子を被ったほうがいいですよ。ではいってらしゃい」
「ほーい、いってきまー」
花園からはタクシー移動で、ぼけっとしている間に到着できた。
行き先も『武蔵野お嬢様組』だけで通じるから、すごいもんだよ。
私たちのクランハウスもそんな感じで実は行けるのかな? 今度試してみよう。
「ほっほー、セーラさんのクランハウスはやっぱシャレてるわー」
私たちのクランハウスみたいに立派な塀と門、それに庭園があるお屋敷だ。
花園とはちょっと雰囲気が違うけど、どこがどうとは私にはよくわからんね。なんか違うけど、こっちもかなりイケてるわ。
建物とか庭園は、なんかこうモデルにした国とか時代とか、そういう種類の違いなんだろうね。よくわからんけど。
開かれた門の内側には、受付っぽい天幕にお姉さんがいて、にこやかに私を見ていた。優しそうな人だよ、いい感じだね。
待たせても悪いし、さっそく行こう。
「おいすー、私、永倉葵。よろ」
しゅたっと手を上げる、愛嬌も愛想も満点なあいさつ。
今日も円滑なコミュニケーションが取れること間違いなしだ。
これで第一印象はバッチリだよね。しかも言われる前に身分証を差し出すよ。我ながらスムーズ!
「はい、こんにちは。『絶望の花園オルタナティブ』の永倉葵スカーレットさんですね。どうぞクランハウスにお入りください」
「ほーい! ちょっとお庭を見てもいい?」
だいぶ早く来たし、私が一番乗りかも。まだ時間はあるよね。
「お好きにどうぞ。紫陽花が見ごろですよ」
ほほう、アジサイ? どんなもんかな。
広いお庭に侵入すると、とても爽やかな空間ですわ。朝っぱらから日差しがキツイけど、緑とお花の空間はいい感じ。
お姉さんが言っていたように、アジサイが植えられまくった一画は、もうアジサイだらけですごい迫力だ。薄い紫から濃い紫色であふれているよ。
「そうだ!」
せっかくだからスマホのカメラを使おう。私のは最新だからね。きっといい写真が撮れるよね。
えっと、こうしてこうっと。パシャ、パシャッと。いけるいける。ちゃんと撮れてるね。
こういう時には自撮りだっけ? それもやってみよう。
「いえーい!」
ふんふん、いいじゃん。この写真はグループメッセージのほうにっと。
いやー、私も文明の利器を使いこなすようになったねえ。我ながらすごい順応性だわ。文明レベルが上がりまくっているね。
「おはよう、葵。早いのね」
「セーラさん! アジサイすごいわ、一緒に写真撮ろうよ!」
「ふふっ、いいわね」
セーラさんは私の英国お嬢様風スタイルを、もう少し大人びた感じにした服装で系統が似ている。おまけに麦わらのシャレた帽子まで、私のと似た感じで全体的におそろいっぽい。
ちょっとだけわいわいしてから、そんなふたりが並んで写真を撮りますよっと。なんかこういうの、交流会っぽい感じだよ。
「うおー、これはいい写真な気がするわ。セーラさんにも送るね」
やっぱ女優っぽいだけあって、セーラさんは写真うつりの良さもハンパない。いや、もしかして逆に私の写真テクがすごいとか? すごい才能があったもんだわ。
「ありがとう。そろそろ時間よ、行きましょう」
「もうそんな時間なんだ?」
そういや、紫雲館の交流会ってなにするんだろうね。
セーラさんに会うことしか考えてなかったから、ほかのことは全然気にしてなかったわ。
立派なお屋敷の内装をじっくり見物したいなーなんて思いながらも、前を歩くセーラさんについていく。
あ、いい感じの絵があるよ。あれはちょっと気になるね。
「そこが講習室よ。終わったらまたお話をしましょう。うちの交流会は少し厳しいかもしれないけれど、しっかりね」
「え、そうなん? まあうん、またあとでね」
なになに、なにするのか全然わからんけど。なんか厳しいっぽい?
ちょっと怖いけどまあいいや。せっかくの機会だからね、切り替えていくぞ。
開いたままの扉の向こうには、結構な人数の女子がいた。全員若い感じの女子で男子はいない。
しかもみんながみんなお嬢っぽい服装だよ。そういう決まりでもあったのかな? 私はいつもどおりだけど、この服装のチョイスでよかったわ。
あぶねーよ。ここで芋ジャージだったりしたら、無駄に浮いちまうところだったよ。
私に集まる視線は特に気にせず、空いていた席に座る。
あ、今日は交流会なんだし、いつものような塩対応はよくないよね。よさそうな奴がいたら、お友だちになってみるか。
「ほーん」
おとなしく座るお嬢様スタイルの奴らを、じろじろと見回した。みんなすました感じで、どいつもこいつもつまらんねえ。
さっきまで私を見ていた奴はいっぱいいたのに、こっちから見るとなんで目を合わせないんだよ。
今日は交流会なんだよね? もっと仲良くしたいんだけど。私ったら珍しくそんな気持ちなんだけど。
これはあれだ、みんな恥ずかしがり屋? 恥ずかしがり屋さんなんかな?
よっしゃ、私から積極的に話しかけてみるか。そう思ったところで、開いた扉からおばあちゃんが入ってきた。
背筋のピッと伸びたカッコいいおばあちゃんだ。着物のスタイルもバシッと決まっているね。
あれはもう上品なおばあちゃん選手権があったら、絶対殿堂入りできるわ。めっちゃ上品な感じ。
「おはよう、皆さん。ようこそ紫雲館へ」
急に空気がビシッと締まった感じするんだけど。
なになに、なにが始まるんだよ。




