武魂共鳴の新装備
わいわいとマドカのレベルアップや弁財天の祝福について、みんなが盛り上がっている。
そんな楽しい場所からちょいと移動し、氷の山に埋もれた魔石とドロップアイテムらしき物を探す。
「うへー、冷たいわ。この辺だったよなー」
山もりの氷を手で払ってどかしていると、黒っぽい布を見つけた。
冷え冷えのびちょびちょに濡れているそれをつかんで拾い上げたら、不思議なことにピカーッと光った。
「うおっ、なに!?」
「アオイ! どうしたの、大丈夫?」
みんなもびっくりしたのか、こっちの様子を見に来てくれた。
「いやなんか、これ拾ったら光ったわ」
「ドロップアイテム? 黒い布よね、服かしら」
マドカもみんなも、装備品への反応はあまりない。どうせ私専用になっちゃうし、しかも装備品はスキル『武魂共鳴』で、いまのものが成長して強くなっている。だから私は装備の追加はしても変えたことがない。
いつものように、また次元ルームのこやしになるのかなと思ったけど、ちょっと変な感じがする。
「葵、その服からかなりの力を感じます。広げてみてくれますか?」
小さく丸まっていた黒い布を広げてやる。びちょびちょだから微妙にやりにくい。
「いまのアオイの装備と似てるわね」
「形はほぼ同じだな。厳密には違いそうだが、目立った違いは刺繍のような模様があることか?」
「豪華になってるってことか。だったら上位互換の装備かもな」
たしかにそんな感じするね。魔法学園の制服がちょっと豪華になったバージョン? あんま変わらんけど。
「葵姉はん、いまの装備……よわなってない?」
「え、マジで?」
そう言われると、なんかそんな気がしなくもない。
「私もそう思いました。もしかしたら、同系統の新装備に『武魂共鳴』で蓄積した力が移されたのかもしれません」
「そんなことがあるのか? いやまあ、葵のスキルは謎だらけだからな。何が起こっても不思議じゃねえか」
「感じる力から、そう思っただけなので。実際はどうなんでしょう」
「さっき光った現象って、もしかしたらそういうことかもしれませんねえ」
なるほど?
「ちょっと鑑定してみるわ。鑑定モノクルー!」
片メガネを取り出して、スチャッと装着。びちょびちょのお洋服を鑑定しますよ。
■星詠みの巡礼冥服:精神力増強、防御力増強、魔法力増強、抵抗力増強、星の導きを得る制服。
あれ? いまのやつと変わらなくね?
いま着てる魔法学園の制服っぽいやつも鑑定してみるかな。
■星詠みの巡礼服:精神力増強、防御力増強、魔法力増強、抵抗力増強、星の導きを得る制服。
同じじゃん。あ、名前だけちょっと違うのか。
これだけじゃ全然わからんね。
「どうなの?」
「うーん? 名前だけちょっと違うけど、装備した時の効果は同じっぽいわ」
「ということは補正値が違うのかしら。試しにどっちの服も着た状態で、ステータスを比べてみたらどう? アオイは補正値込みの数字が見えるのよね。あ、でも濡れた服から、また濡れた服に着替えのは嫌よね。あとにしましょ」
なるほど、そうだよ。ステータスを見てみればいいんだ。
えっと、とりあえずいまは……。
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:21(レベル上昇に必要な経験値:834,123)
クラス:はぐれ山賊
サブクラス:しゃにむに悪鬼
生命力:112(+1,680)
精神力:112(+2,660)
攻撃力:112(+3,570)
防御力:112(+1,080)
魔法力:112(+785)
抵抗力:112(+775)
運命力:628
「んー? なんかあれだ。ツバキが言ったとおり、弱くなってる気がするね」
具体的な数字なんかいちいち覚えてないけど、魔法力と抵抗力は補正値のケタが少なくなったと思う。絶対に弱くなってるわ。
もう気になって仕方ない。濡れた服は気になるけど、それ以上に弱くなったのが気になりすぎる。着替えるしかない!
「たしかめるわ。ちょっと待ってて!」
みんなの声やら目やらは気にせず、びちょびちょの服からびちょびちょの服へと、がんばってお着替え完了!
そんでもって、さっそく身分証を確認!
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:21(レベル上昇に必要な経験値:834,123)
クラス:はぐれ山賊
サブクラス:しゃにむに悪鬼
生命力:112(+1,680)
精神力:112(+3,675)
攻撃力:112(+3,570)
防御力:112(+1,995)
魔法力:112(+2,310)
抵抗力:112(+2,100)
運命力:628
「うおー、やっぱこっちに力が移ったっぽいわ!」
マジかよ。そんなことあるんだね。
「上位互換の装備ということですよね? どのくらい補正値が上がったのですか?」
「え? いやー、それはわからんわ。前のやつ覚えてないわ。でも強くなった感じはするよ! さすがは上位互換の新装備だわー、めっちゃいい感じだよ」
新しい装備は気分がいいね。びちょびちょじゃなければ、もっとよかったのに。
うおおーっ、でもなんかパワーがあふれてくるみたいだよ!
「もう、アオイはいい加減ね」
「気にはなるが、覚えていないものは仕方ない。そろそろ引き上げるか」
「そういや腹減ったな。雪乃に連絡して、今回もあのお好み焼き屋に行くか?」
なんと!
「スペシャル大王ミックス!」
「またそれ? まあ美味しいけど」
いいねいいね。今日はやっぱり特別感あるわ。
転送陣までいそいそと移動して地上に戻り、シャワー室に向かう。早くびちょびちょの服からさっぱりしたいね。
それにしても今日はいいことがいっぱいあって、いい気分で終われそうだわ。わいわいしながら受付のほうに戻ったら、見知った顔が!
「おいすー、夕歌さん! 今日は早いんだね」
夕歌さんはだいたい夜の9時くらいから、いつもなら管理所にいるはず。それがまだ7時前なのにいるなんて。
あれ、でもいつもの制服じゃなくて私服だね。しかも近所のコンビニに来ましたってくらいにラフな格好だよ。マジかよ、それはラフすぎるだろ。
まあ私たち以外のハンターは全然いないし、別にいいのかな。
「おいすー、葵ちゃん。今日は休みだったんだけど、ちょっと用事があって顔出したのよ。もう帰るけどね」
「そうなん? もう帰るの?」
「ちょうど用事が終わったからね。それより、みんな水に濡れてるじゃない。どうしたのよ?」
「いろいろあったんだよ。あ、夕歌さんもお好み焼き食べ行く? 雪乃さんも来るよ」
「お、いいわねー。最近は雪乃とも会えてなかったし」
よっしゃよっしゃ。
「今日はマドカがサブクラスゲットしたからさ、お祝いなんだよ!」
「あら、それはおめでとう。ついにまどかちゃんもレベル20になったのね」
「ありがとうございます、夕歌さん。とりあえずシャワー浴びて着替えたいので、少し待っていてもらえますか?」
「じゃあそこで待ってるわねー」
楽しいお祝いがさらに楽しくなるね。
ちゃちゃっとシャワー浴びて着替えて、お好み焼き屋にレッツゴーだよ!
いやー、今日はめでたい日だわ。




