どん底からの進化!?
なんかあれこれと、わくわくなことがあるね。
マドカがレベルアップして、龍がドロップアイテム残してくれて、あとはみんなに加護がついたかどうか。気になることが盛りだくさん!
まあなんやかんやあったとして、やっぱとにかく!
マドカのサブクラスだよね。気になりすぎるわ!
「どうなったん? どうなったん? マドカ、どうなったん!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。服が濡れてるから気持ち悪いって、ほら放して」
待てないわ。いますぐに教えておくれ!
もうマドカが手に持った身分証を奪い取って、サブクラスのところを見たいくらいだよ。他人のやつは勝手に見れないけどさ。
「早く早く!」
「まだあたしもクラス名までは見てないから、ちょっと待って」
「あ、目ぇ逸らした? うんうん、わかるよ。いまだけは好きに妄想できるからね!」
見たいけど見たくない、わかるとも。
この瞬間の期待と不安がね、きっとハンターの醍醐味ってやつだよ。自分のクラスじゃなくても、めっちゃドキドキするわ。
「まどかおねえは、どないなクラスになったんやろう?」
「葵は悪鬼で、銀子は魔導射手、つばきはまじない師で、アタシは混沌術師。ここまでは、まあわからんでもねえ結果だが、マドカはいまいち想像つかねえな」
「実際、まどかは多彩な役割をこなしています。わかりやすいサブクラスは想像できませんね」
それはたしかに。マドカは魔法の散弾銃とバトンで結構攻撃するし、前で戦う私と沖ちゃんのサポート役として隙のない活躍をしてくれることも多い。なにより、スキルリンクのサポートが強すぎる。
やっぱりサポート系? だとしても、どんなクラスになるのか予想するのはムズイね。
クラス『どん底アイドル崩れ』のマドカさんや、私はめっちゃ期待しているよ!
当然、銀ちゃんたちも興味津々だよね。みんな楽しそうにしているわ。
「心を落ち着けてから確認すればいい。皆も急かすな」
「……まどかおねえ、深呼吸」
「わかってるわ……ふう」
緊張して深呼吸なんて珍しいね。クラスのことはマドカにとって悩みの種だったし、超絶カッコいいサブクラスをゲットしてほしいわ。
この世に神様がいないことは確定しているけど、それでも神的な存在に頼みたい気持ちになってしまうわ。
「他人事ながら緊張しちゃいます。わたしも早くレベルアップしたいですねえ」
「本当にそうです。私も自分のサブクラスがどうなるか、いまから気になってしまいます」
これで残すはリカちゃんと沖ちゃんだからね。でもまだ楽しみが続くと思えば、それもいいもんだよ。上級クラスはずっと遠いし。
「……よし、もういいわ。確認するわね」
「おおっ!」
みんなでマドカを取り囲み、様子を見守る。
マドカの視線が黒いカードの上をゆっくりと移動するのがわかる。そしてマドカの目の動きが止まり、元から大きな目がちょっと見開かれた。それでもって、一点を見つめたまま時間がすぎていく。
な、なんなん? この待ち時間はなんなん?
もしかして、超絶カッコいいサブクラスじゃなく……ヘボかったとか? まさかだよね?
私たちったら、めっちゃがんばってたし。いい感じのサブクラスになったに決まってるよね?
やばい、なんか怖くなってきたわ。ちょっとちょっと。
「うおいっ、どうなったん!?」
「アタシも我慢できねえ。マドカ、どうなんだ?」
みんなも多くは言わないけど同じ気持ちだよ。
すごい緊張してきてしまった。早く教えておくれ。
「……対可……姫」
「え? なに?」
よくわからん独り言ってことはないよね? サブクラスのことだよね?
どうしたもんかと思っていたら、マドカが身分証から目を離した。
なんか変な笑いを浮かべてるんですけど。微妙に怖いんですけど。
「……絶対、可憐、羅刹、姫」
なんのこっちゃ。マドカが意味わからんことを言っている。
これは正気ではないね。いったん時間を空けたほうがいいかも。
「だから! あたしのサブクラスは『絶対可憐羅刹姫』だって、言ってるの」
「あん? なにそれ?」
ホントに意味わからんわ。それがサブクラス?
「銀ちゃん、どういうこと?」
いろんなことに詳しいお姉さん、説明を頼む!
マドカ本人は、きっと混乱しているわ。様子がおかしいし。
「そ、そうだな。『絶対可憐羅刹姫』か……絶対可憐という枕詞は、美人のまどかには合っていると思う。特段、異論のある者はいないだろう」
「まあな、たしかに異論はねえ。しかし絶対可憐かよ……なかなかすげえな」
「わたしはいいと思いますけど」
あ、そういうことか。やっとわかってきたよ。
絶対可憐ね? いいじゃん。
「それはそう! まどかより美人で可愛い奴なんて、たぶんこの世にいないわ。後半のは? 全然意味わからん。らせつひめ?」
「羅刹は葵と同じ系統ではないかと思う。地獄の悪鬼の一種で、そう呼ばれる鬼がいたはずだ」
おおーっ! マジかよ。
「私とおそろいってこと? めっちゃいいじゃん!」
「まどかは地獄の悪鬼系になりましたか。しかも単なる羅刹や羅刹女ではなく、羅刹姫。姫とはまた格が高いですね」
「それもそうじゃん。お姫様とか、マドカすげー!」
なんだよ、めちゃくちゃいい感じのサブクラスだったわ。絶対も可憐も羅刹も姫も、全部カッコいいわ。私の『しゃにむに悪鬼』よりカッコいいわ。
ショックを受けたみたいなリアクションだったから、変に緊張しちゃったよ。まったくもう。
「……改めて言われると恥ずかしいから、やめてほしいわね」
「なんで? 全然恥ずかしいところなんてないよ」
私のマブダチは心の中であれこれ考えているのか、百面相のように表情を変えまくっている。なんか面白い。
「他人には言いにくいって意味だと、いまと変わらないっていうか……えぇ、なんでこうなるの……」
「ははっ、葵の言うとおりだぜ。まどかの気持ちもわかるが、冷静に考えりゃ悪くねえ。『絶対可憐羅刹姫』が、そこらのパッとしねえ奴なら笑っちまうがよ、まどかなら誰も文句ねえだろ。むしろそれ以上のクラスなんてあるか? お前らもそう思うだろ?」
「私は元より異論などない。いいサブクラスだ」
「そうですよ。それに肝心なのはクラスに紐づくスキルです。そちらはどうなんです?」
クラススキルだよね。強めなスキルが多いから、そっちにも期待だわ。
まあ私のは『拘束具破壊』とか『威嚇』とか、全然使わないスキルが多いけどね。なんなんだよ、山賊のスキルはさあ!
「ちょっと待って……もう、見ていいわよ」
「やった!」
すぐにマドカの手元をのぞきこんだ。遠慮なく見ますとも。
■星魂の記憶
名前:九条まどか
レベル:20
クラス:どん底アイドル崩れ
サブクラス:絶対可憐羅刹姫
生命力:166
精神力:135
攻撃力:100
防御力:97
魔法力:177
抵抗力:188
スキル:グランドリンクⅡ/受動効果増強/第六感/高次照準
クラススキル:残像のスポットライト/ステージメイク直し/きらめきパフォーマンス/業火装填
加護:座頭法師の加護
:弁財天の祝福
ほうほう。スキルの名前を見ただけどよくわからんけど、なかなかいい感じ?
あ、加護も増えてるね。
「銃にちなんだスキルが増えたようだな?」
「そうね。新しいのは『高次照準』と『きらめきパフォーマンス』、あとは『業火装填』よ」
「火力が上がりそうな新スキルですねえ。これはお披露目が楽しみです」
「弁財天の祝福は、うちにも追加されとった」
「私も取れていました。五頭龍討伐の報酬ですよね」
「アタシも取れてるが、やっぱ『加護』じゃなくて『祝福』だよな?」
「そうなっているな。葵は自分のステータスに関しては、詳細が見えるのだろう? 弁財天の加護について、改めて教えてくれないか」
おー、ちょっと違うんだね。私のは加護だけど、みんなは祝福なんだ。
「いいよ。えっと、私のは魅力・芸術能力・財運アップ。五頭龍をソロ討伐し弁財天に認められた証ってなってるね」
自分の身分証を見ながら教えてあげた。私には祝福は増えてないから、ちょっと残念な気持ちだけどまあ仕方ないのかな。祝福もほしかったわ。
「葵姉はんは、ソロ討伐」
「それが加護と祝福の違いということみたいね。一般的に祝福の上位版が加護とされているから、パーティーで討伐したあたしたちには祝福が取れたのね」
「だろうな。だが祝福でもありがてえ。テンション上がるな!」
「はい。加護や祝福はとても貴重な恩恵です。素直に嬉しいですね」
「本当にそうですねえ」
みんなが嬉しいならよかったわ。気が動転していたっぽいマドカも普通に戻ったし、よかったよかった。
おっと、そうだ。あとはドロップしたもの回収しないと。




