あれこれと起きた結果
龍の吐き出す水鉄砲を『カチカチアーマー』で受けたら、水がそのまま押して運ぶように私をどこまでも連れていく。
地面に叩きつけられそうな気もしたけど、ジャンプした時の受け止める角度がよかったのか、なんかいい感じで飛ばされているね。これはなかなか面白いわ。
どのくらい飛ばされたのか、勢いがなくなったところで着地っと。
「ふあー、結構飛んだねー」
よくわからんけど、100メートル以上飛んだのかな? みんなの位置が結構遠いわ。
それにしてもだよ。いや、面白かったわ。ちょっともう1回くらってみたいね。
あ、そうだよ。さっきのやつは首ひとつの水鉄砲だったから、リカちゃんみたいに全部を受けたらもっと遠くまで飛べるよね?
やっべー。試してみるしかないわ。
ハンマーを片手に猛ダッシュでみんなのところに戻りつつ、マドカに協力を頼もう。
みんなまだあの水鉄砲の攻撃に戸惑ってるみたいだし、これってちょうどいいよね。
「うおーい、マドカ―! 私にスポットライトのスキル、おくれーっ!」
たぶん水の音がうるさいと思うけど、心の友には私の声がちゃんと届いたらしい。
モンスターの注意を引き寄せるスキルが私にかかり、5つの首にある龍の目が走って近づく私を向いた。
リカちゃんの盾に浴びせられていた水鉄砲が、もうすぐ私に迫るはず!
「きたきたきたー! いくぜ『カチカチアーマー』だよ!」
スキルが発動して、とりゃっとジャンプした瞬間に水の集中砲火が直撃した。完璧なタイミング!
思ったとおりに、ものすごい勢いで吹っ飛ばされていく。
「うおおーっ、すっげー!」
カクカクした透明な盾に守られながら、シュイーンと空を飛ぶ感覚を存分に味わう。なんだよこれ、楽しいわ。
さっきよりもずっと勢いよく、スピード感マシマシじゃん!
やっぱ水鉄砲を集中させたのは正解だったわ。これだよこれ、あの龍ったらなかなかいい技持ってるね。
思った以上の空の旅を楽しみ、やがて勢いを失ってまた着地っと。
今度はめっちゃ遠くまで飛ばされてしまったね。もう距離がどのくらいとかわからんわ。
だいぶ遠くのほうに水の球が見えるけど、疲れたのか水鉄砲攻撃はやってないね。あれならリカちゃんも休めるわ。
まだ戦いの最中だから、急いで戻らないと。
遠くの水の球を目印に走っていたら、水の色が白く変わったのがわかった。
もしかしなくても、あれって凍ったってことだよね。沖ちゃんがもう仕かけたんだ。
さっきの話だと、あの凍った球を私がハンマーでぶっ壊すはずだったんだけど。まあ私じゃなくてもやれるかな?
遠くからだとよく見えないけど、たぶん一点に集中攻撃してるっぽい。
ドカンドカン銃をぶっ放す音が聞こえるし、どんなに分厚くても氷くらい割れるよね。と思ったら銃声がやんだ。あきらめたわけじゃないよね?
だとすると氷がちょっと割れて、そこから中に向かってまゆまゆが毒攻撃とかをやってる感じ?
まゆまゆの毒って、たぶんすっごい強いよね。でもって、あの龍って毒にめっちゃ弱いよね。
え、もう倒しちゃうじゃん。
あの空を吹っ飛ばされるアトラクション、終わっちゃうじゃん。
そうだよ、最後にもう1回だけやりたいわ!
「ちょ、ちょっと待ったー! もう1回、もう1回だけ!」
うおおー、間に合ってくれー!
最高スピードで戻るべく、ハンマーをポーチにしまってダッシュした。
戦いの最中、それもイレギュラーモンスターとの戦いなのに、武器をしまってダッシュした。
まさに飛ぶような勢いで走って戻ると、マドカが氷に開いた穴に散弾銃の先っちょを突っ込んで、これでもかと連続でぶっ放しまくっていた。
めっちゃ効果的だと思ったけど、
「それはちょっと待っておくれよー!」
私の叫びもむなしく、イレギュラーモンスター特有のなんかすごい気配みたいなものが消えてしまった。
凍ったでかい球の中で、あの龍は光の粒子に変わってしまったんだよ……空中をシュイーンとやりたかったのに!
でも終わってしまったことは仕方ない。とぼとぼ歩いてみんなの近くに戻った。
「アオイ、心配したのよ? 走ってるのが見えたから、怪我はないわよね?」
「ちょうど片付いたところだ。氷の中をまだ確認できていないが、気配は消えている」
「やるじゃねえか、葵。さっきのは、さすがの判断だったな」
「お陰で助かりました。葵ちゃんにおとりになってもらわなかったら、魔力切れであのブレス攻撃を受けるところでしたよ」
あー、うん。我ながらナイスなことをやったよね。
「葵姉はん、どないしたん?」
「やっぱりダメージが? 大丈夫ですか?」
「え、大丈夫なの? こっちきて、葵」
しまった! せっかくのイレギュラーモンスター撃破なのに、リーダーの私がガッカリしていたら変だよね。しゃんとするよ。
「全然、大丈夫! 実はさっきの水鉄砲がさ、めっちゃ面白くてもう1回やりたいなって思っただけだよ」
「面白いって……」
「いやー、空中をすっごいスピードで飛べたからさ。あ、みんなもやりたかった? でもあれは防御用のスキルがないと無理だよ」
私だけ楽しんでしまった。ごめんよ!
よし、切り替えていこう。
「それはともかく、服がびちょびちょで気持ち悪いわ。戦いが終わると気になるね」
「ですよねえ。東中野の管理所は空いているみたいですし、このままシャワー室に直行しましょうか。氷の冷気で体も冷えてきました」
「うん、いこうよ。そうだ、魔石も回収しないと」
「それもあるがよ、肝心なことを忘れてねえか?」
氷に開いた穴は微妙に小さいね。入れないわ。仕方ないね、ぶっ壊そう。
「弁財天の加護よね。忘れてないわ」
「しかし葵たちはともかく、後から合流した我々にとっては初めての加護だ。取れていれば、と思うが少し緊張するな」
ハンマーさん、やっと出番ですよ。
ポーチから取り出して、肩にドシンと乗せるように構えた。
「あ、つばき! 先に見ちまったな?」
「だって、気になる……」
「私も気になります。とにかく確認してみましょう」
ドカンといくよ。ちまちま壊しても楽しくないから、やっぱスキルかな。
いくよ『メラメラハンマー』、せーの、うおりゃ!
「うわっ、なんだよ葵!」
「え? 魔石の回収しないと。あーっ、なんかあるじゃん!」
魔石以外のドロップ品は久しぶりだわ。氷の破片に埋もれてよくわからんけど、なんかあるのは間違いない!
「あ……あたし、レベルアップしてる」
「うおいっ、マジで? レベルアップしたの?」
それは聞き捨てならないわ。
レベルアップはもうちょっと先かと思ってたけど、これでマドカもサブクラスゲットじゃん。
今日の出来事でいっちゃん大事なやつじゃん。




