洞窟の黒いゴーレム
広い通路をふさぐような存在感のゴーレムくん。全体的に私の倍以上はある感じだけど、ウッドゴーレムくんと大きさはそんな変わらない。ちょっと大きいくらいかな。
初めて見る黒い金属質のモンスターは、きっと木のタイプよりずっと強いに違いないよね。丸ごと金属のかたまりのモンスターなんて、ちょっと殴りごたえが想像できないわ。めっちゃ硬そう。
まあ、とりあえず。
「ほいじゃ、いくよ。おりゃー!」
お初のモンスターだから、まずは半分くらいの力で殴って感触を確かめよう。
私ったら実はすごいパワーあるし、頼れるハンマーさんは超つよつよだからね。
第十五階層のモンスターなんて、ほかのダンジョンだったらほぼ余裕で倒せた。でも金属のモンスターだったら、簡単には壊れないよね。どんなもんかな?
ゴーレムくんの反応は鈍すぎるくらいに鈍い。攻撃力とか防御力が強いタイプっぽいね。
スルッと近づいて、巨体の腰のあたりにハンマーを叩きつけた。するとあっけなく砕け散った。あれ?
「うおいっ、金属じゃないじゃん! 黒光りする石じゃん!」
もうなんだよ、重い手ごたえを期待して叩いたのに。
たしかにウッドゴーレムくんと比べたらずっと硬いと思うけど、それでも大したことないわ。やっぱ所詮は第十五階層のモンスターだね。
バランスを失って倒れてきたゴーレムくんを、今度はドカンと蹴っ飛ばしていっちょあがり!
頭が吹っ飛んで、光の粒子に変わってしまった。
見た目だけは強そうなモンスターだったけど、あんなの余裕じゃん。ゴーレム退治が得意な私にしたら、超よゆーすぎたわ。
「葵にかかれば、硬そうなゴーレムも形なしですね」
「手応えはどうだったの?」
「硬そうに見えたけど、そこまでじゃないわ。マドカと銀ちゃんの銃なら普通に倒せるよ。沖ちゃんの刀だと……うーん、刃こぼれが怖いね」
「では練習用の刀で試してみます」
沖ちゃんは『隠された刀』とかいう便利スキルで、何本もの刀のストックを空間から瞬時に取り出せる。すごい謎のスキルだけど、スキルってそんな感じだからね。仕方ないね。
「アイアンゴーレムの類かと思ったが、ストーンゴーレムの変種なのか? 私にも試させてくれ」
「うちも、試す」
「アタシも一応はあれこれ試すがよ、ゴーレム相手じゃ効果の確認がまともにできねえ」
「わたしの出番もなさそうなんですよねえ。後方の警戒だけしておきますね」
モンスターの数が多くないと、防御特化のリカちゃんは戦いではあんまり出番がない。
魔石の回収では活躍しまくりだけど、それだけだとつまんないよね。リカちゃんにこそ、私の魔法の矢みたいな装備があると便利なのに。でもああいうのを買おうと思うと、めっちゃお高いらしい。ままならないもんだよ。
山から洞窟に変わったダンジョンをまた進む。
黒いゴーレムくんはそこら中を歩き回っていて、洞窟の中だと避けて進むことができないから、いちいち倒さなくちゃいけない。
私にとってはお得意様なゴーレムくんだけど、もう相手にしてなくていいかな。みんなに任せて、私はちょっとだけ楽をするよ。
「やはり刀では厳しいですね」
沖ちゃんがお試しで攻撃してみたら、ガツンと弾かれてしまった。上等な刀を使ってないせいもあるのか、ぶった斬るのは難しいっぽい。
「あたしがやってみるわ!」
お次はマドカだ。沖ちゃんが離れた直後に魔法の散弾銃をぶっ放す。
さすがにあの威力の銃なら倒せるよねと思ったら、まさかだよ。
「避けた!?」
「うおー、マジかよ」
ゴーレムくんが体をかがめて弾を避けた。頭を狙って撃ったはずが、洞窟の天井に当たって破片が落ちる。
「私も、もう一度いきます!」
びっくりしていたら、沖ちゃんがまた斬りかかった。今度はお試しな感じとは違い、本気の気合を感じる。
ところがだよ。ズバッとやれるかと思いきや、練習用の刀はぽっきりと折れてしまった。お高い武器じゃなくてよかったわ。
「私の刀……いえ、それどころではないですね。これなら、どうです!」
沖ちゃんは悲しそうに折れた刀を見たと思ったら、すごい速度でゴーレムの後ろ側に回って飛び蹴りをくらわした。
スキル『春雷歩法』から勢いに乗ったキックを、ひざの裏に受けた黒い巨体。するとひざから崩れ落ちるように倒れる。
ふーん、よくわからんね。銃弾は避けるのに、キックは避けられないんだ。後ろから蹴ったからかな。
「あとは任せて」
すかさずマドカが頭に魔法の散弾をぶち込んで、それで終わった。
「なにこのゴーレムくん。さっき避けたのって偶然じゃないよね?」
「たぶんね。まさか避けるなんて思わなかったわ。当たれば倒せるけど手強いわね」
「基本的にゴーレムタイプのモンスターは、硬い体の防御に任せて攻撃を避けようとしないはずなのですが……」
「どう見ても頭部への攻撃を避けたわね。コアがあるせいだと思うけど珍しいわ」
それにしても銃弾なんて、避けられるもんなのかね。超強い私でも無理だわ。
いや、がんばればできるようになるのかな? ちっと練習してみるか。
「まどかの銃は魔力がすげえからな。その高まりをゴーレムも感じたんだろ」
「それと銃口の向きを認識していたのだろうな。弾を避けたというより、射線から体を外したように思った。まどかが撃つ、その直前に動き始めたように私には見えたな」
「うちも、そう見えた」
「皆さんは目がいいですねえ」
ホントに。まあ私も気づいたけどね!
「次は狙撃を試してみよう。距離を開けた攻撃には、回避行動を取らないかもしれん」
「そうね。離れた場所からなら……あまり離れると散弾銃は威力が落ちるのだけど」
「まどかおねえ、それが相性」
「ですが私がゴーレムを転ばせれば、まどかが仕留められます」
「だからこそのパーティーだろ? 協力してやれれば、なんの問題もねえ」
まゆまゆはいいこと言うね。
ひとりではやれないことも、みんなでならやれちゃうから強いんだよ。
「よーし、張り切っていくよ!」
あれこれとお試しを繰り返しながら、山から洞窟に変わったダンジョンを順調に進んでいった。
そうやって第二十階層に向かって階段を下っていると、すごい水の音が聞こえてきた。
「うるさいなー」
「大きな滝とそれを受ける滝つぼがあるからです。なかなかの景観らしいのですが、ゴーレムにプラスしてヘビ型のモンスターが多く人気はないみたいですね」
「へー、そうなんだ」
東中野ダンジョンは山とゴーレムばっかりで人気がないのは知っていたけど、そんな場所もあるんだね。
今日は張り切ってダンジョン探索をやっていたから、一気に第二十階層までたどりつけてしまった。転送陣があってキリもいいし、ここらで今日の労働は終わりかな、なんて思っていたら。
「なんか、でっかいのいない?」
「滝に打たれているように見えますね」
「水しぶきではっきりしないけど、あれってモンスターよね?」
沖ちゃんが言ったように、洞窟の中に大きな岩の山があって、結構な量の水が上から流れ落ちている。
水を受けるのは滝つぼのはずなのに、モンスターがそこに陣取って水浴びをしているように見えるね。なんだあれ。
謎の光源で意外と明るくて綺麗な景色なのにね。モンスターくんの存在感がでかすぎて台無しだわ。モンスターがでかすぎるわ。
どう見てもボスっぽいわ。




