お試ししながら山を行く!
緑豊かな山はいいよなー。なんて思いながら歩き出して、すぐに気づいた。
今日の私はめっちゃ調子がいい。調子がよすぎて、それがなんかおかしく感じる。
お休みの日以外はほぼ毎日続けているダンジョンアタックで、調子の良し悪しを私はあまり気にしない。
特別に調子がいいなんて思える時は別にないし、調子がよくて普通みたいに思っていることもある。私ったら基本的に絶好調だし。逆に悪いと思える時は割とはっきりわかるものだけど、まあこんな日もあるよねってくらいだ。
それが今日はやたらと体が軽い気がする。さっきまでは、いつも通りな気がしたけどね。やっぱり山の自然に満ちた環境が、私の心を晴れやかにしてくれたのかな。
絶好調の中の絶好調? なんだかそんな感じだ。
久しぶりの東中野ダンジョンだからかな。ゴーレムくんをぶっ飛ばせるのが、思った以上に楽しみとか?
なんだよ、私ったら気づかぬうちにテンション上がっていたのかも。
「少しペース速くないですか?」
地図の読める女子の私と前方警戒担当の沖ちゃんは、もう定番のコンビだね。そんな沖ちゃんから言われてしまった。
言われてみればそうかも。調子いいから、調子に乗ってしまったわ。自然と足が早まってしまったよ。
「いやー、なんか体が軽くてさ。今日の私はひと味違うよ!」
前にここにいた時と比べたら、レベルがずっと高くなっていることもある。その辺で妙な感覚になっているのかもね。
「それは楽しみです。逆に私の刀では、ゴーレムには相性が悪そうで……」
相性か。私はハンマーとかキックだから、苦手な感じは全然ない。でも沖ちゃんは刀だからね。刃こぼれしそうだし、ゴーレムくんを攻撃なんかしたくないのが普通だよ。
私なら嫌だわ。刀でゴーレムくんをぶった切るなんて、もしできるなら豪快でカッコいいけど難しそうだよね。
「わかるぜ。相性の話なら、今回はアタシのほうこそ最悪だ」
話が聞こえたみたいで、まゆまゆが入ってきた。
まゆまゆは状態異常攻撃が得意だから、ゴーレムくんには相性悪いね。私の毒攻撃も全然効かないのがゴーレムくんだし。
「あ、そういやさ、まゆまゆの『耐性喰い』で効くようにならないの?」
「少しでも状態異常が通るなら、効果あるはずなんだがな。ゴーレム相手には意味がねえ。完全耐性ってやつなのかもな」
「そうなんだ。じゃあ、ゴーレム以外のモンスターが出たら、沖ちゃんとまゆまゆにやってもらうわ。ほかのもいるよね?」
あんまり覚えてないけど、東中野ダンジョンにはゴーレム以外もいた気がする。
「東中野ダンジョンはゴーレム系が多いのですが、中層以降ではヘビ系のモンスターが混ざる階層が出てきます。ウルトラハードな状況ではどこまで事前情報が通じるかわかりませんが、その時には私が前に出ます」
「瑠璃とアタシがヘビをやるって決めちまおうぜ。みんな聞こえてたよな? そういうことだからよ」
まゆまゆの宣言によって、今回の役割分担がなんとなく決まった。
そういや毒ヘビモンスターの階層とかあったわ。私は戦わずにスルーしたっけ。まゆまゆと沖ちゃんがやる気だし、もし見かけてもお任せしよう。
道なき道の山のステージでも、特に険しい環境ではないから進むことに苦労はない。ちょっと上り下りで体力を使うかなってくらいだ。モンスターもまばらにしかいないから、あまり構わずにどんどこ進む。
順調に階層を越えていき、通り道にいるモンスターは邪魔だから倒す。
第十階層と変わり映えしないゴーレムくんは私がハンマーで殴り倒し、ヘビが出たら沖ちゃんたちにお任せだ。
「弱いモンスターが相手だと『昏睡の誘い』は威力が高すぎるな。そこそこ消耗も重いしよ」
「ヘビが完全に意識を失うので、私はただトドメを刺すだけになってます」
でっかいヘビが簡単に光の粒子に変わってしまった。戦いにもなっていないね。沖ちゃんがつまんなそうだ。
「マユのクラススキルは強力ね。もうひとつのほうはどう? たしか『侵食の福音』だったわね?」
「そっちは常時発動で特に負担はねえ。単純にスキルの威力が上がってんな。まだ敵が弱くて、どの程度の威力上昇があんのか、いまいちわかんねえ」
「状態異常が有効なモンスターには、マユの強みが増したわね。ツバキは?」
「うちの『たしなみの大結界』は範囲広がってる。効果も上がってる思うけど、そこはようわからへん」
サポート系の能力って、効果が上がっても見た目でわかりにくいからね。ずっと使っていれば、前とどのくらい変わったか感覚的にわかるかな。
「あ、またヘビだよ」
「任せろ! 瑠璃、今度は違う状態異常にするから様子見てくれ」
「わかりました。毒蛇に毒が効くかも試してみたいですね」
ゴーレムくんが近くにいないし、ヘビくんもちょこっとしか出ないね。私は暇だわ。
ここのところずっと続けていたダンジョン巡りの経験もあって、平凡な山のステージで苦労する要素はなかった。
早く山を抜けたい気持ちのまま、地図を見ながらまっすぐ次の階層に向かって進む。
山の途中、見晴らしのいい場所で休憩を入れると、なんだかハイキングにでもやってきたみたいな気分になる。遠目にモンスターが見えるのは気になるけど、ちょっと楽しい。
そうして休憩を入れながら、余計なことはせずにハイペースで進んだ。すると結構早くキリのいい第十五階層に到着できた。
さすがにちょっと疲れたかな? 体がほんの少しだけ重いわ。でもまあ、いつもと変わらんかな。
「うおー、やっと山が終わったよ」
「洞窟に変わりましたが暗いですね。葵、明かりをもらえますか?」
そっか。私は加護の力で暗くても全然見えちゃうけど、沖ちゃんたちはそうじゃないからね。
「いいよ! 起動、太陽のアームレット!」
ポチッとな。二の腕に装着した装備を久しぶりに使ったわ。その効果で私を中心に広い範囲が明るくなった。
似たような装備品はほかにもあるけど、ソロダンジョン産は私しか装備できないからね。もったいないわ。
「ここからはウッドゴーレムではなく、ストーンゴーレムに変わるはずよ。アオイの『ウルトラハードモード』がモンスターにどんな影響を与えたかわからないわ。慎重に進みましょ」
「もちろんです。私は警戒に集中します」
「ストーンゴーレムくん、楽しみだわー」
おなじみのゴーレムくんは、ずっと木のお化けみたいなのばっかりだった。
ストーンゴーレムってことは、石? 見たことないから、早く会いたいね。
やっぱ木よりはずっと硬いよね。私のハンマーさんが、久々に本領を発揮する時だよ。手応えあるといいな。
「葵、通路左手方向から音がします。随分と重い音ですが、近いですよ」
「私たちが近づいたから、動き始めたってこと? 石のゴーレムくんは、どんな感じかね」
洞窟だけど割と通路も天井も広めだからね。戦うのに不便はない。やってやろう!
わくわくしながらモンスターを待ち構えていると、そいつは姿を現した。
「うん? あれがストーンゴーレム? 石っぽくなくない?」
「見たところ金属質、ですかね。色は黒いですが。話に聞くアイアンゴーレムは黒ではなかったはずですが、誰か何か知ってますか?」
「黒いゴーレム……あたしは聞いたことないわね。みんな、気をつけて」
まあいいよ。図体は大きいけど、そんなに圧迫感はないからね。
たまに出るやたらと強いモンスターとは違うはずから、そこまで警戒は必要ないかな。
黒いゴーレムくん、お試しにはちょうどいいわ。
うおー、私のハンマーがうなりを上げるぜ!




