やけくそと箱入りの進化
ついにきた。また私たち花園から、サブクラスをゲットしたハンターの誕生だ!
それぞれ『やけくそ闇落ち夜鷹』のまゆまゆと、『箱入り怨念巫女』のツバキ。レベル19からのあとひとつが長かった。
ホントに長かった!
私は『はぐれ山賊』からの『しゃにむに悪鬼』で、銀ちゃんは『崖っぷち債鬼』からの『束縛断つ魔導射手』だった。
わかるようで、わからんような。わからんようで、わかるような。そんなサブクラスをゲットした。
ふたりがどうなるのか、もう全然予想できないわ。
さてさて、どんなのになったかな?
「早く教えてよ!」
「焦るなって。じゃあ、まずはアタシからいくか」
詰め寄る私から離れて、まゆまゆはもったいぶった調子で身分証をまた見ている。
「マユ、あたしも焦れてきたわ。どうなったの?」
「わかった、わかった。正直な話、第一印象としてはな……そんなによく思えねえクラス名なんだが」
「え、ダメな感じ? サブクラス、ダメな感じ?」
「いや、まあ納得はできるサブクラスだ。新スキルも悪くねえ」
そう言いながら、まゆまゆは身分証を見せてくれた。
どれどれ、どれどれどれ。
■星魂の記憶
名前:黒川まゆ
レベル:20
クラス:やけくそ闇落ち夜鷹
サブクラス:裏したたか混沌術師
生命力:154
精神力:162
攻撃力:69
防御力:78
魔法力:178
抵抗力:175
スキル:毒針術/麻痺針術/酩酊の濃霧/魅惑の視線
クラススキル:耐性喰い/猛毒耐性/昏睡の誘い/侵食の福音
加護:―
ほうほう、『裏したたか混沌術師』ね。裏?
まあ勇者とか暗黒闘士みたいな超カッコいい感じとは違うかも。でもまゆまゆの普段の感じとか、能力には合っている気がするね。
うん、なんかこれはこれで結構カッコいい気がしてきたわ。
「変な名前ってわけじゃないし、なかなかよさそう! いい感じじゃん」
「そうか? 新しいスキルは『魅惑の視線』と『昏睡の誘い』、それと『侵食の福音』だ。状態異常のレパートリーが増えたな」
「クラススキルの『侵食の福音』はどんな効果があるんですかねえ」
「侵食のっては、たぶん状態異常付与の強化だ。どっかで聞いたことあるな。付与の成功率とか、効果時間とか、あとは効果そのものを強化する感じだろうな。その辺は使ってみながら、探るしかねえ」
まゆまゆの状態異常系のサポートはマジで強いからね。この先、ダンジョン下層に挑戦する時にはきっと頼りになるわ。新スキルもよさそうな感じだし。
「しかし、まゆのサブクラス名も言い得て妙だな」
「アタシはもっと派手でシャレたクラス名がよかったんだがな。まあ、闇落ち夜鷹よりはずっといいか」
普段は特に気にしないけど、みんな自分のクラスについてはいろいろ思うところがある。
裏したたか混沌術師はたしかに派手だったりオシャレだったりはしないけどね。でも不思議なカッコよさはあると思う。裏ってなんだよとは思うけど、そこがなんかいいわ。
さてと、そしてだよ。まゆまゆのことでわいわいしつつも、みんなツバキのサブクラスも気になっている。
みんなの視線が自然とツバキに集まると、
「これ」
言葉で説明するのが面倒なのか、ツバキは最初から身分証をみんなに見せてくれた。
うおー、どうなったんだろうね!
■星魂の記憶
名前:九条つばき
レベル:20
クラス:箱入り怨念巫女
サブクラス:黄昏境界まじない師
生命力:49
精神力:266
攻撃力:39
防御力:33
魔法力:288
抵抗力:182
スキル:呪符/深窓からの呪詛/魔力の大源泉Ⅱ/呪詛返し/清浄なる矢
クラススキル:人形儀式/たしなみの大結界/護符刻印
加護:座頭法師の加護
うお、『黄昏境界まじない師』って結構カッコいいかも。なんだろうね、謎の強者感があるよ。
なんだよ、ツバキもいい感じじゃん。
「悪くねえサブクラスだな。なんかアタシとシンパシー感じるしよ」
それはあるかも。スキルは全然違う感じだけど『裏したたか混沌術師』と『黄昏境界まじない師』だもんね。ふたりは意外と仲がいいし、クラス名もちょっと似た系統な感じがする。
「新しいスキルは、まず『清浄なる矢』よね?」
「これまでとは系統の違う魔法系スキルだろうな。邪気や呪いを払う梓弓を使っていた影響か?」
「可能性ありそうです。サブクラスや新スキル獲得への影響を考えると、私にとっても参考になりますね」
沖ちゃんはレベルに20に上がるまで、もうちょっと先になるだろうからね。いまからでも理想のサブクラスゲットのために、がんばれることはきっとある。
「つばきちゃん、『たしなみの結界』が『たしなみの大結界』になってますよ。これでますます防御が厚くなりますねえ」
ホントだ。大結界になってるじゃん。このスキルは結界の中に入った敵の動きを、ぐっと鈍くしてくれる効果がある。その範囲が広くなったってことかな?
どうなったにしても、使い勝手のいいスキルのパワーアップはかなりいいね。
「そして最後に『護符刻印』のスキルね。ツバキ、これはどういうスキルなの?」
「……たぶん魔法系のスキルやけど、検証してみいひんとわからへん」
「呪符作りに慣れたつばきなら、コツをつかむのは早いだろう。護符と言えば代表的なのはお守りだが、様々な効果が期待できるかもしれん」
おおー、なるほど。できることの範囲が広がるのはめっちゃいいね。
まだよくわからんけど、たぶんすごく強くなったわ。そんな気がするね。
ふたりともいい感じだよ。
「次のダンジョンはまた第一階層からだから、いくらでも試す機会はあるわ。マユの新しいスキルも検証が必要よ」
「スキルに関しては、あれこれ試しながらやっていくしかねえかなら。トップクランが主催してる勉強会やら交流会やらに行ければ、その辺は楽ができかもしれねえが。まあ、あれこれ試すのも楽しみってもんだ」
そうそう。
「うん、ホント楽しみだよ。マドカもたぶんレベルアップ近いと思うし、沖ちゃんとリカちゃんがサブクラスゲットするまで、この調子でやっていこうよ!」
なんか早くも、それぞれがめっちゃパワーアップしてる感が出てきたね。
実際に私は悪鬼のスキルで攻撃力が上がって遠くも狙えるようになったし、銀ちゃんは狙撃の範囲も命中精度も跳ね上がった。
サブクラスをゲットすると、単純に数字上のレベルアップよりもずっと強くなれる。全員がゲットしたら、これはもういよいよ次の段階にいけるよね。
でもその前に、まずはダンジョン巡りで経験を積み上げつつ、パーティー全員のレベルアップを地道にやっていこう。
沖ちゃんとリカちゃんはまだレベル18だったし、レベル19からが長いからね。ホントに。
そうだ、さらにその前にだよ。
おめでたい日は、ちゃんとお祝いしないと!
ちょっとの前進を喜んで噛みしめていくのが、長く続けていくには大事だからね。たぶん。
少なくとも、私のクランはそうやっていこう。
ことあるごとに祝っていくぞ。今日も商店街のどこかでパーティーだよ!




