ありがちでも珍しいモンスター
暴れ足りないまゆまゆとツバキは、次々と動物型モンスターの群れへと襲いかかった。
カバくんの群れのように、最初にまゆまゆが切り込むパターンもあれば、ツバキの呪符が最初に炸裂するパターンもある。
呪符がめっちゃ強いのは前から知っていたけどね。毒攻撃が効きやすい敵のせいもあってか、まゆまゆのナイフ攻撃も相当なものと思った。見た感じ全体的に動きがいい。普段は魔法のサポートで活躍しているのに、どうしてあれができるのか謎だわ。
「なんか、まゆまゆ強くない?」
「意外か? 私たちは以前から訓練を続けている。私もそうだが、普段前衛に立たないからといって、格闘戦がまるでダメでは話にならん。敵に近づかれたら終わりだからな。ダンジョンではどのような状況も発生し得るし、以前の仕事柄必要なことでもあった」
まあそれはそうかも。
「でも練習なんてしてたっけ?」
私とツバキはよく護身術の練習をしているし、ほかのみんなともたまにやるけど、あれはちょっともう違うよね。護身術の感じじゃないし。
「夜間にな。短時間だが基本的には毎日やっている」
「え、毎日? ダンジョンアタックで疲れてんのに?」
「習慣のようなものだ」
マジかよ。私ったら早寝早起きだから知らなかったわ。仲間になったのに、知らないことがまだまだあるね。
「いやー、それにしてもだよ。ここってウルトラハードな第二十五階層だよ? まゆまゆったら、すごいわ」
モンスターの群れに突っ込んで立ち回れる時点で、だいぶおかしい気がする。
たしかに私や沖ちゃんほどの身のこなしじゃないけど。なんだろう、堂々とした戦いぶりがカッコいいわ。
「さすがにナイフだけでは、ああはいかんさ。スキルリンクの効果は絶大だ。それにまゆは魔法を使ってモンスターを弱らせている。しかも、つばきの援護で背後を気にする必要がない。目の前のことに集中できればあの程度はやれる」
いつもは効率と安全のために、フォーメーションと戦い方は決まったやり方をしている。それは少しずつ変わっていくかもしれないし、私たちにはいろんな可能性があっていい。
みんなのやれることが多くなれば、それだけパーティーとしてのレベルが高くなるってことだよね。私ももっとがんばらないと。
うん、やっぱ私たちったら将来有望だわ。
なんとなく腕時計を見れば、この階層で戦い始めてから30分くらい過ぎていた。
いまのところいい調子だね。これであとはレベルが上がってくれていれば、満足感がもっと高くなるのに。
ひょっとしたら、もうレベルアップしてたりして?
どうかな。いったん休憩にして、レベルの確認してもらおうかな?
「葵ちゃーん! 銀子さーん! あれ、あいつ、倒してー!」
ちょっと離れた場所で、ひとり魔石の回収をやってくれているリカちゃんだ。それがなんでか、私と銀ちゃんの上のほうを指差していた。
「なになに?」
見上げても、これといったものは見当たらない。ダンジョンの中なのに、謎の空があるだけだ。空が飛べたらどこまで行けるんだろうね。宇宙とかあるのかな。
「後ろだ、トリ型のモンスターがいる」
「え、うーん? 結構遠くね?」
すぐ上にいたり、襲いかかってくる感じは全然ない。1匹だけだし、わざわざあれを倒す意味ある? まあやってもいいけど。
「……あれは、まさか」
「あ、なんか光ってない? キラキラした鳥? 銀ちゃん見える?」
空が明るいからわかりにくいけど、そんな気がする。
「なるほどな、あれは珍しい」
「知ってんの?」
「特定のダンジョンに、稀に出現するタイプのモンスターだ。姿かたちはそれぞれだが、特徴的なのは色だ。貴金属のような色をしていることから、メタル系モンスターと呼ばれている。私は初めて見たが」
「へー、そうなんだ」
もうちょっと近くに来てくれないかな。よく見えないわ。
のんきに観察していたら、鎧の重い音を鳴らしながらリカちゃんが戻った。
「リカちゃん、あんなのよく見つけたね」
「ここまで空を飛ぶモンスターはいなかったので気になって。そんなことより、あれってメタル系モンスターじゃないですか?」
「さっき銀ちゃんも言ってたね。なにそれ?」
「あれを倒したら、経験値たくさんもらえるって聞いたことありますよ」
マジかよ。それは絶対倒したいわ。
でも私の『黒縄』だとあんな高いところは攻撃できない。かなり遠いけど、銀ちゃんの腕前なら当たるよね。
「銀ちゃん!」
「わかっている。しかし、メタル系モンスターは非常に硬いとも聞く。撃ち落とせればいいが……」
そうは言いつつ、さっそく銀ちゃんが狙撃銃をぶっ放した。
青く輝く魔法の弾丸がすっ飛んで行って鳥さんに命中した、と思ったら弾丸が跳ね返ったように見えた。うお、あんなの初めて見たんだけど。
しかも何事も起こらなかったように、悠々と空を旋回している。全然、効いてないっぽいわ。
いやいや、第二十五階層のモンスターならどんなに防御力が高そうでも、余裕でぶち抜いて倒す攻撃だよ?
銀ちゃんは続けて何発も撃って、全弾命中したけど結果は変わらない。なんだあれ、ずるいだろ。
倒したら経験値がたくさんもらえるって聞いたばかりなのに。
どうしたもんかと思っていたら、鳥さんが旋回をやめて遠ざかり始めた。
ダメだ、迷ってる場合じゃないね。
「うおおー、逃がすかよー!」
数撃ちゃ当たるの精神で、消耗を無視して魔法の矢を放ちまくる。絶対、逃がしたくない!
「あーっ、当たんねー!」
こんにゃろーが! モンスターのくせに逃げるなんて。
「葵姉はん、あれ倒したらええの?」
「うおっ、ツバキ? え、あ、うん。倒せる?」
こっちの様子が気になったのか、みんな戻ってきたみたいだ。
「いくで……『人形儀式』」
スキルを発動した次の瞬間には、思ったよりもずっと大きい鳥がツバキの目の前に出てきた。魔法で作った人形だね。
そして奇妙な形の黒の短剣を突き刺すと、幻の人形は光へと変わってしまう。とっさに空を飛ぶモンスターに目をやれば、空に溶けて消えていた。
相変わらず、呪いへの耐性がないモンスターにはめっちゃ強いね。硬いとか速いとか関係ないし。
それにしてもでっかくて綺麗な鳥だったわ。赤茶っぽい感じだけど、メタリックでキラキラしてさ。
「つばきちゃんのスキルはすごいですねえ」
「呪い耐性のない相手なら、身も蓋もない攻撃よね」
「さっきのあの人形ですが、あれってメタル系モンスターですか?」
「おいおい、すげえな。初めて見たぜ」
あ、そうだよ。
「レベルは? レベルアップした? メタル系っていっぱい経験値もらえるらしいじゃん!」
みんなが身分証を取り出すのを見て、私も自分のを見てみる。
うーん? 必要経験値のけたが多いせいでよくわからんわ。まあ、たぶんいっぱいもらえたよね。
「あたしは変わらずレベル19ね」
「マドカはお預けかー。ツバキとまゆまゆは? 上がってんじゃないの? ねえねえ?」
もういい加減にそろそろ頼むよ。どっちかでもいいからさあ!
気になって気になって仕方ないんだよ!
身分証を見ていたまゆまゆは、ニヤっと笑いながら私たちを見た。ツバキは黒のヴェールで顔が見えない。
「上がったぜ。これであたしもレベル20だ」
「うちも」
ふたりとも!
「うおーっ、やった! どんなサブクラス? ねえねえ、どんなサブクラスだった?」
早く教えておくれー!




