女子人気の低そうなトップクラン
大きなモニターに映ったのは、ゴリラっぽい顔のハゲのおっさんだった。
精悍な顔つきはまあまあカッコいいと思うけど、女子からの人気は低そうな気がするね。それを思えば、ちょっと気の毒な感じするわ。苦労しているに違いないわ。
「この人がクラン『天剣の星』の代表、宮本蓮よ」
「へー、そうなんだ」
この女子人気の低そうなハゲのおっさんが代表、私と同じクランマスターってことか。
でもなるほど、さすがはトップ層のハンターだね。目つきが怖いし、なんかめっちゃ強そうな雰囲気がある。只者じゃないね。女子人気は低そうだけど。
「会見が始まったところみたいです。音量上げますね」
「――デマや憶測を避けるため、急ぎ会見を開くことにした。では早速だが、神崎から」
「副代表の神崎です。ざっとですが現在判明していることをお伝えします」
ゴリラっぽいハゲに続いて話し始めたのは、ウマっぽい顔でロン毛のおっさんだった。こっちも精悍な顔つきだとは思うけど、むさ苦しい感じがすごい。
あとふたりとも、暑いのか汗かきすぎだわ。だらだらと汗が流れまくる絵が、もう見るからに暑苦しい。やっぱ女子人気は低そうだね。
「冒頭で宮本から、今回の調査は一時的に中止するに至ったとお知らせしました。それは我々の先遣隊が敗走し、数々の装備や機材を失うことになったからですが、そもそもなぜ先遣隊が敗走したのか。その理由を簡単に説明しますと、それはモンスターが急激に強くなったからです。それも突然に」
どういうこっちゃ。意味のわからん理由には、メディアの奴らが勝手に質問を始めて画面の向こうがわいわいしている。
「お静かに。質問は後で受け付けるので、お静かに……では続けます。当クランは総力を挙げて、先だって浦安ダンジョン第四十八階層の調査をほぼ終えていました。今回の先遣隊の役目としては、まずは国内初の第四十九階層に至り、転送陣を設置することです。そうしてから惜しみなく人員と物資を投入し、クランの総力を挙げて新たな階層を切り開く予定となっていました。実際、効率のよいルートは確保できていましたので、少なくとも転送陣の設置までは順調に進むはずでした」
ふーん。未知の階層って大変そうだけど、トップクランがやるぞって決意して、ちゃんと準備したらそりゃ行けるよね。
まあそれでも難しいんだろうけど。だからすごいんだよね、たぶん。
「しかし先遣隊が行動を開始してから、およそ20分後に異変が起こりました。それがモンスターの突然の強化です。これは第四十八階層だけではなく、第十五階層で装備の点検をしていた我々自身も同様の現象を確認しています。ここまでで質問は……はい、そちらの方どうぞ」
ひとまずの説明が終わったのか、質問タイムが始まったらしい。
「つまりイレギュラーのような特別なモンスターが現れたのではなく、ダンジョンの複数の階層、もしくはダンジョン全体でモンスターが強くなった、強化されたということですか? そんなことがあり得るのですか?」
「本日はご配慮いただき、浦安ダンジョンは当クランとその協力関係にあるクランや関係者のみが入れる状況にありましたが、誰もが同様の現象を確認しています。姿からして普段のモンスターとは違い、強化は明らかでした」
ほうほう。モンスターが強くなるって? なんか、どっかで聞いたような話だね。
「神崎さん、続けてお聞きしたいのですが、モンスターが強化されるという現象はこれまでに例があるのでしょうか? 少し信じがたいと言いますか、かなり唐突で意味不明な現象に思えてしまうのですが……もちろんダンジョンに入れば実態がわかるので、疑うわけではないのですが」
「なぜこのような事が起こったのか、すでに原因は明らかになっています」
「原因がわかっているのですか!?」
「少しお待ちを」
配信の音声が切られたみたいで、音が消えて映像だけが流れる状態になった。そしてこの場でモニターを見ていた、みんなの視線が私に集まっている。心が読めなくても、なにを言いたいのかわかる気がするね。
「アオイ、今日はどこにも出かけてないわよね?」
「出かけてないよ。さっきまで寝てたし」
「そうよね。でもあの話は、アオイの『ウルトラハードモード』のような現象としか思えないわ」
「だな。まさかの話だがよ、葵のスキルが他のダンジョンにまで効果を及ぼした、なんてことはねえよな?」
え、いやいや。さすがにね?
「それはない。もしそんなことになっていれば、被害は浦安ダンジョンだけでは済まんことになる」
「まあ、そりゃそうだよな」
「ということは、まさか……」
ここでモニターの向こうの音声が復活したみたいで、ざわざわした声が聞こえた。
「お待たせしました」
ウマっぽいおっさんだ。私たちも雑談はやめてモニターを見る。
「今回の事象の原因となった、当人から説明してもらいましょう」
うお、マジかよ。
知った顔が画面の外から、のこのこ歩いて登場したんだけど。なんだよあいつ。
「クラン『フローラリア・レゾナンス』の高千穂です」
パシャパシャと写真を撮られまくっているせいで、画面がピカピカうるさいわ。
あんな奴より、マドカのほうがよっぽど可愛くて美人なのに。無駄にちやほやされやがって、許せんわ!
しかも、うだうだつまらん挨拶をした後で、ようやく座って説明を始めたよ。前置きが長いんだよ、まったくもう。
「皆様は『ハードモード』というスキルをご存じありませんか? これは過去の記録にもあるスキルなのですが、ダンジョンの難易度を強制的に上げてしまうスキルだそうです。私もこのことは神崎さんからお聞きしたのですが」
「過去の記録から、そのようなスキルが存在したことは間違いありません。これはダンジョン管理所を所管する本局、特殊空間資源管理局にも確認を取っています」
特殊? なんか難しい言葉をまぜるなよ。わかりにくいわ。まったくもう。
「私たちフローラリア・レゾナンスは、第十五階層で天剣の皆様のお手伝いをするべく、邪魔なモンスターの討伐を行っていました。その折に私、高千穂がレベルアップをしたことが、今回の探索を一時中止することになった原因となります」
おー、レベルアップ。つまり、そういうことだよね。
最後まではっきり言えばいいのに、あの嫌味なアイドルは無駄に溜めを作っていやがりますわ。完全に狙い通りなんだろうけど、カメラも顔をアップにしている。
「ここまででお察しいただけるかと思いますが、スキルを覚えました。それも『ベリーハードモード』というスキルです」
ほうほう。へえ? ベリーハードね。まあ私のウルトラハードよりは下っぽい?
それはいいとして、なんか自信満々な顔でいるのがよくわからんね。今回は意気揚々と第五十階層まで行ってやるって話が、ダメになったっていう言い訳の配信じゃないの?
ここで耐えられなくなったのか、次々と記者の奴らが疑問の声や手を上げていた。指名されたっぽい、おばさんが立ち上がって質問を始める。
「そのスキルが原因で予想外にモンスターが強化され、先遣隊が敗走するに至ったというわけですね? 先ほど強制的にダンジョンの難易度を上げるとおっしゃいましたが、浦安ダンジョンは全体的に難易度が高くなってしまったという理解でよろしいですか? どの程度、難易度が上がってしまったのでしょうか? 元に戻すことはできないのでしょうか? その他にはどういった影響が考えられますか? これは多数のハンターや近隣の商業施設にまで影響が及ぶと思うのですが。また今回の失敗の責任をどのように感じていらっしゃいますか?」
うわ、うるせーおばさんだよ。マドカの敵はムカつくけど、なんだあいつ。偉そうに。
私があそこにいたら、絶対に言い返すわ。容赦なく黙らせるわ。
「高千穂さんに代わり、俺から回答しよう」
出た、ゴリラっぽいハゲのおっさん。
ここぞとばかりに若い女子をかばって、好感度を上げようとしているよ。あれは絶対そうだわ。
でもまあ、なかなか計算高いね。やるじゃん。
「先に言っておくが、スキルは誰もが自分の意思とは関係なく覚醒するものだ。高千穂さんに一切の責任はない。質問に答えると、どの程度難易度が上がるのかは、よく検証してみなければ不明だ。それと彼女がダンジョンに入らなければ、難易度は以前と変わらず何ら問題は生じない」
だろうね。私のスキルと同じだわ。
「いいか? 彼女がダンジョンに入れば、強制的に難易度が上がることは問題かもしれない。しかし、大きなメリットも存在することがわかっている。実は『ベリーハードモード』のダンジョンで戦闘行為を行えば、いずれか一つ、スキルが強化される。この強化は恒久的なもので、ハンターにとっては他に得難い恩恵と言える」
やっぱ私と同じじゃん。
あ、もしかしてあいつと一緒のダンジョンに入れば、私のスキルも強化されるのかな?
「今回は主に機材を失ったことで一時的に中止としたが、我らのスキルが強化された影響は大きい。それもかなり前向きな影響だ。これによって次の探索時には、大幅に第五十階層へと至る確率は上がったと考えられる。そして――」
熱く語り始めたおっさんだよ。
だらだら頭と顔から汗を流し、ツバを飛ばしながら熱心に語る姿は、どう見ても超むさ苦しいわ。あと汚いし。
やっぱりあれじゃ、女子人気を上げるのは無理だよ。




