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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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ダンジョンハンター業界の大ニュース

 お祝いの次の朝。目が覚めると起き上がって、とりあえず部屋の窓を開けた。

 3月も下旬の春だというのに、まだ朝の空気は冷たい。でも、窓は開ける。


「……なんで? お好み焼きくせーわ。あー、あれか」


 においの発生源はたぶんアレだ。ハンガーにかけた虎の刺繍がカッコいい、テカテカピンクのスカジャン。

 服は洗濯機に突っ込んだのに、スカジャンは部屋に置いたままだった。


「ういー、洗濯するかー」


 ちゃっちゃと洗濯してから、いつものように庭に出る。

 これを日課にしてから、なんだか文明レベルの上昇を意識できる。もう私ったら、そこらの人より確実に文明レベルが高くなった気がする。


 バラを愛でながら広い庭を散歩していると、素振り中の沖ちゃんの後ろ姿が見えた。

 足を前後に動かしながら木刀を振り、鋭く空気を切り裂くような音がビシビシ聞こえて気持ちいい。邪魔しないように退散するかなと思ったら、沖ちゃんは手を止めてこっちに振り向いた。


「おはようございます。葵はいつもの散歩ですか」

「うん、今日もいい天気だわ。沖ちゃんは朝からがんばってるね」


 ホントに毎日、大したもんだよ。


「そういえば、葵は素振りしないのですか?」

「素振り? ハンマーって素振りするもんなの? どんな風に?」

「得物にしている人は少ないのであまり見ないですが、話には聞いたことがあります」

「へー、じゃあやってる人はいるんだね。ちょっと気になるわ」


 私は毎日のようにダンジョンで使いまくっているから、外でハンマーの練習をしたことはない。ステータスの力が全然出せないダンジョンの外だと、ハンマーって重いし。


「今度、一緒にやってみますか? 古タイヤに向かって振り下ろすのがいいでしょう。それをやれば足腰から背中まで鍛えられますし、インパクトの瞬間を見極める練習にもなると思います。剣にも通じるところがありますね」

「ほうほう、そうなんだ。たまにはいいかも?」

「では用意しておきます!」


 そんな嬉しそうに言わんでも。私の場合はスキルを駆使したハンマーの使い方に慣れているから、外だとだいぶあれこれ違うはず。

 まあハンマーの練習ってよりは、単純なトレーニング目的と思えばいいのかな?


「あ、そうだ。沖ちゃんさ、昨日の服はちゃんと洗濯した? めちゃお好み焼きくさいよ」

「においが移りますよね。私は夜の内に洗濯しました。あれ、葵も洗濯していませんでしたか?」

「スカジャンだけしてなくてさ。朝起きたら、いきなりお好み焼きのにおいだよ? いくら昨日いっぱい食べたからって、びっくりしたわ」

「そういうことですか。ああ、驚いたといえば昨日の晩は驚きましたね。まさか、まどかの昔の知り合いと鉢合わせるとは……」


 結局、昨日の晩は、必殺空中お好み焼き返しの技を伝授してやっていたのに、奴らはスケジュールがどうのこうのと言いながら途中で出て行ってしまった。


「迷惑な奴らだったよ、まったくもう」

「まどかは大丈夫でしょうか?」

「なにが?」

たもとを分かつことになったといえ、かつての仲間だった人です。最近はメディアを通して、よりを戻すよう呼びかけられてもいましたよね。要らぬ心労が重なっていそうで少し心配です」


 自分たちから裏切ってマドカを追い出したくせに、ふざけた奴らだよ。そんな経緯を思えば、余計に腹立つね。私のマブダチになにしてくれちゃってんだよ、あいつら。

 またちょっかいかけてきたら、ちゃんと文句言わないと。


「いたいた。おう、葵、瑠璃!」


 呼びかけながら登場したのは、朝からパッチリメイクを決めた派手なお姉さんだ。


「まゆまゆ、おいすー! 朝から散歩?」

「一緒に素振りしますか?」

「おう、散歩と素振りはまた今度な。銀子とまどかがロビーに集まれってよ」


 なんだろう。朝っぱらから珍しいね。



 真のクランハウスのロビーに行くと、すでに雪乃さん含めたクランメンバーが集まっていた。

 未来的で金属感バリバリのロビーには、大きなモニターが設置されている。その前に並んだ椅子に、みんな座っている状況だ。


 進行役なのか、マドカと銀ちゃんがモニターの脇に立っていた。ふたりとも姿勢がいいからか、立っているだけなのになんか絵になるね。カッコいいわ。


「おいすー! みんな早いね」

「アオイ、ルリ、おはよう。マユもありがとう。これで全員そろったわね。座って」


 ほいほいっと。空いていた席に適当に腰かける。


「では私から話そう。今朝、まどかとニュースを確認していたところ、トップクラン『天剣の星』が昨夜に大きな発表をしていたことがわかった」


 あん? どこのクランよ、それ。私たちになんか関係あるのかな。


「トップクランと我々に関わりはないが、問題は別にある。これを見てくれ」


 私の疑問を見越したように銀ちゃんが続けた。そうしてモニターに表示された中に、見覚えのある顔があった。


「昨日のあいつじゃん」


 マドカの元アイドル仲間だった小娘。名前はなんだっけな、とにかくお好み焼き屋さんにいた奴だ。

 奴らのクランを私たちは勝手にライバル認定している。すぐに追い越す、手頃な目標として。


 あれ? でもなんの話の繋がりが?

 さっきはトップクランがどうのと言っていたのに。


「そうだ。まどかと因縁のあるクラン『フローラリア・レゾナンス』が、トップクラン『天剣の星』のダンジョンアタックに協力するらしい。それも日本では初の第五十階層到達が目標だ」


 ほうほう。第五十階層とか、すごそうな挑戦だね。未知の領域すぎて全然イメージわかないけど。


「なんだって? そいつはおかしくねえか? フロレゾの連中、クランマスター以外はアタシらよりレベル低いはずだろ? それがなんで第五十階層に協力できんだよ」

「足手まといになりますよねえ。ということは、戦力以外での協力でしょうか?」

「そういうことよ、リリカ。間違いなく、フロレゾは広告塔としての起用でしょうね」


 ダンジョンアタックするのに広告? なんで?


「マドカと銀ちゃん、私には話がよくわからん!」


 そもそも朝っぱらから集まって、この話を聞く意味もわからん。そんなに大事なこと?


「すまん、順に説明する。現在、日本におけるダンジョン探索は、最深部で第四十八階層までとなっている。海外の例を見れば、第五十階層以降には新たな資源が眠っていることが確実視されている。これまでに数々のトップクランが第五十階層到達を目標に掲げてきたが、残念ながら第四十八階層を越えられていない」


 ほーん?


「それって神楽坂ダンジョンのこと? やっぱ一番人気あるし」

「神楽坂含めて、いくつかのダンジョンで第四十八階層までは到達しているが、どこも同じ階層で壁に当たっているのが現状だ」


 ほうほう。よくわからんけど、なんか難しいみたいだね。


「続けるぞ。天剣が第五十階層に進むことは日本にとっては大きなニュースだが、我々にとってはあまり関係ないように思うだろう。だが前提として第五十階層に挑むとなれば、入念な準備が必要になる。最前線に挑むクランの事情など私には想像も難しいが、わかりやすいところではポーションだ。いくらあっても困らんし、いくらでも必要になるはずだ」

「でもそれを買い集めるのは大変だし、ものすごくお金もかかるわ」


 まあそうだよね。怪我をパパッと治せる魔法の薬を買い占めたりなんかできないわ。そもそも結構お値段もするし。


「しかしポーションの確保については、先日行われたイベントによって解消されている。わかるな? 葵と瑠璃も出場した蒼龍杯だ」

「おー、あれね。蒼龍のおっさんがいっぱい集めて、それをまとめて売り払ったってこと?」

「それが目的だったみたいね。そして物資を集める資金源として、広告塔も大事になるってわけ。フロレゾはそういう意味での協力者と言うわけよ。発表のタイミングからして、ポーションとは別の目的の資金確保だと思うけど」


 なるほど。でもそれと私たちになんの関係が?

 ポーション集めはもうとっくの前に終わったことだよ。


「つまり、フロレゾにもかなりのスポンサー収入があると予想できる。我々花園は、奴らの上を行くのが当面の目標のひとつだろう?」

「あ、そういうことか。なんだよ、そんなすごいクランに引っついて、ずるいじゃん」

「それがクランを運営するということであり、クランランキングを上げるのが大変な理由のひとつでもあるわけよ。で、集まってもらったのはこのニュースを伝えるためと、今後のあたしたちの活動方針について確認するためよ」


 ちょっと朝から難しい話っぽいね。

 うあー、お腹減ってきたわ。

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更新お疲れ様です。 目標ですか…とりあえず絶対達成したいのは到達記録更新・全国に名を知らしめてから、今まで自分達を馬鹿にして来た奴等(例:昨日の身の程知らずなバカ共)に「NDK?NDK?」と言いなが…
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