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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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お祝いはご近所のお店で

 サブクラスゲットのお祝いとして、雪乃さんおすすめの食べ物屋に行くことにした。

 結局、銀座ではなくクランハウス近くの商店街になった。初めて行く場所だったけど、にぎやかで庶民的な雰囲気がなかなかいい。普段からもっと利用してもいいかも。


 みんなで夜の商店街を歩いて到着したのは、めっちゃいいにおいがするお店の前だった。そこはなんと、


「お好み焼きじゃん!」

「雪乃さん、ここですか?」

「商店街の会長をされている方のお店だそうです。私も入るのは初めてですが、評判のよいお店と聞いています。たしか、銀子さんの好物でしたよね?」

「ああ、前に話したがことがありましたか」


 思えば、こういうお店は来たことはなかった。テンション上がるわ。


「ツバキは関西だし、お好み焼き好きだったりすんの?」

「うちはたこ焼きが好きや」

「たこ焼きもありますよ。ほかにもいろいろ」


 おお、いいね!

 においのせいで、めちゃおなか減ってきたわ。


 時代を感じる古めかしいお店の扉を、雪乃さんが上品な仕草でガラッと開いて中に入る。

 思ったより中は混んでいたけど、私たちが座れないほどではない。にぎわっていて、雰囲気もいいね。


「いらっしゃい! 全部で……8人? そっちのお座敷にどうぞ。お水はセルフだからね」

「ほーい」


 元気ハツラツなオバちゃんだ。うんうん、いい感じだよ。

 靴をぬぎぬぎして、みんなで座布団に座る。鉄板の付いたテーブルが、いかにもな雰囲気でたまらん。

 こういうのって、これまでにないからやっぱ楽しいわ。まだ何もしてないのにね。


「うちのお好み焼きは山芋をたっぷり使っててね、とっても美味しいよ」


 やまいも? よくわからんけど、自信あるみたいだね。


「アタシはとりあえずレモンサワー、雪乃も飲むか?」

「では私は瓶のビールをお願いします。グラスはひとつで結構です」

「はいはい、レモンサワーと瓶ビールね!」

「ほかはウーロン茶でいいか?」


 お酒はハタチになってから。飲めるメンバーはまゆまゆと雪乃さんだけだ。意外なことに銀ちゃんはアルコールが苦手らしい。

 立派な成人女性なのに、変な年齢制限のせいで私もまだ飲めない。よくわからんルールだよね。


「よっしゃ、お好み焼きだよ! なんにしよっかな」

「うち、たこ焼き……」

「あたしはやっぱり基本の豚玉かしらね」

「私は海鮮で。あ、焼きそばもありますね。サラダも注文しましょう」

「豚玉か海鮮か、どっちもいいですねえ。でもわたしは、ネギ焼きにします」


 わいわいと壁に貼られたメニューを見ながら、おばちゃんに注文していく。


「イカ焼きもあるな。皆で食べるか?」

「いいな、アタシは食う。じゃあイカ焼きと塩ホルモンも追加で。あとは、なんか辛いのが食いてえな。おばちゃん、なんか辛いもんある?」

「辛いのだとチャンジャがあるね。お好み焼きなら、激辛ミックスがおすすめだよ」

「じゃあそれ、両方頼むわ」


 うーむ、どうしたもんか。

 私のお好み焼き屋デビューに相応しい、これというものにしなければ。

 基本に忠実なメニューもいいけど……これは久々に悩むわ。


 みんながあれこれ注文しているのを聞き流しながら考えていると、いい感じのを見つけた気がした。

 やっぱり挑むべきは、一番ハードそうなメニューがいいよね。


「……あれに決めた! おばちゃん、私はスペシャル大王ミックス!」

「はい、スペシャル大王ミックスね。ちょっと大きいけど、大丈夫?」

「全然、大丈夫!」


 いやー、わくわくするね。スペシャル大王ミックスが、どんなのか全然想像つかんけど。



 続々と飲み物が運ばれてきて、みんなの視線が私に集まった。

 わかっているよ。ここはクランマスターの出番だよね。ウーロン茶の入ったジョッキを片手に、立ち上がります。


「えっと、とりあえず銀ちゃんと私、おめでとう! 花園はまだまだここから快進撃を始めていくよ。よーし、私たちの未来に、カンパーイ!」

「乾杯!」


 わいわいしていると、サイドメニューの数々や具材の突っ込まれた銀色のボウルやらがテーブルに置かれ、一気ににぎやかになった。

 私のスペシャル大王ミックスは、ほかのやつよりも具材の量が明らかに多い。いい感じにハードそう!


 みんなで紙のエプロンを装着しつつ、ひとまずボウルを手に取ったはいいものの、ちょいと悩む。なんとなく想像はつくけど、やったことないからね。


「これ、どうやんの?」

「なんだ葵、やったことねえのか? とりあえずボウルの中で具材を混ぜてよ、ドバッて鉄板の上に広げりゃいい。あとは焼くだけだ」

「ほうほう。まぜませして、ドバッとね」


 お好み焼きを自分で焼く。これほどのわくわく感が気軽に味わるなんて。

 このシステム、実はすごくね? あなどれないわー。


「あたしがやろうか?」

「ダメダメ! これは自分で焼くことに意義があるんだよ。マドカの見て真似するわ」

「特に難しいことはないけどね。じゃあ、見てて」


 マドカに続いて私が焼き始めれば、みんなもそれぞれの鉄板の縄張りにお好み焼きのもとをドバッと投入した。ツバキだけはすでに完成品のたこ焼きをさっそく食べている。そっちも美味そうだね。

 あー、焼ける音とにおいが食欲を刺激する。もうすでに美味そう。


 よし、スペシャル大王ミックスに集中しなければ。焦がすなんてことがあってはならない。完璧に焼き上げるぞ。

 わいわいと楽しげな会話もいまだけはシャットアウト。私には話しかけてくれるなよ、集中だ!


 刻一刻と火の通っていく、お好み焼き。これはほかのお好み焼きよりも具材の量が多く、見た目からしてボリューム感がすごい。

 もう食べる前から、そのスペシャルっぷりと大王っぷりを見せつけてくれている。

 さすがはスペシャル大王ミックス。これは我ながらいいチョイスをしたものだよ。


 横でマドカが何かを言いながら、ヘラを使ってひっくり返した。ほう、そろそろかね? 返しちゃってもいい頃合いかね?


「全体がぷくぷくしてきたら、裏返す頃合いね。起こしてから倒すイメージでやれば、上手に裏返せるわよ。そろそろいいんじゃない?」


 ほうほう、なるほど。いや、待て待て! 私はじっくりよく焼き派だからね。もう少し、気持ち長めに焼くとしよう。

 まだまだ……まだまだ……。


「うおおーっ、いまだよっ!」


 慣れないヘラを巧みに使い、起こして倒す、いやもっと大胆に! 大きなお好み焼きを空中で一回転半ひねりだよ!

 重量感のあるお好み焼きが、鉄板にふわりと着地。すると理想的な焼き色になっているではないか!

 がははっ、初めてなのに完璧だよ。こいつは完璧だ!


「上出来ね。あとはソース塗って、お好みでマヨネーズかけて、鰹節や青ノリも振りかけて。こういう感じね」

「……まどかおねえ、上手や」


 ホントにね。お嬢なのに器用なもので、まるで店員さんが作ったかのような手際と仕上がりだ。お嬢でアイドルだったマドカに、もしやバイト経験が?


「アオイのもそろそろじゃない?」

「うん。じゃあ、仕上げに入るよ!」


 ソースをベッタベタに塗りたくり、すべてのトッピングを多めに投入したら、これで完成!

 奇妙なほどの満足を覚えながら、小さなヘラで切って食べます。


「う、うまいっす。これ、うまいっす!」


 自分で焼いたせいもあるのか、とても美味しいです。

 みんなのお好み焼きもひっくり返させてもらいつつ、ちょっとずつ交換し合って食べるのも楽しいね。オプションのイカ焼きやホルモンやらも美味しいっす。


 そんな至福の晩メシタイムを過ごしていると、騒がしい連中が店に入ってきた。

 ドヤドヤと集団で、やかましい奴らだよ。まったくもう。


「――取材オッケー? ほかのお客さんとかちょっとしか映らないし、いいっすよね?」

「いや、だから困るって」

「そこをなんとか! 俺、クビになっちゃいますんで。どうにかお願いします! お願いします!」

「そんなこと言われたってねえ」

「おかみさん、お願いします!」


 うおー、マジかよ。土下座とか、初めて見たわ。


「そんなこと、やめてくださいよ! はあ……しょうがないね。くれぐれも、ほかのお客さんに迷惑かけないでくださいよ」

「いいんですか!? ありがとうございます。よし、オッケーだって! タレントさん入れて!」


 チッ、うるせえな。

 崇高な食事の時間を邪魔するなんて、不届き千万にもほどがあるだろ。

 まったくもう。ぶっ飛ばすぞ!

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― 新着の感想 ―
アイドルにお好み焼き食わせるのか
更新お疲れ様です。 あ~…これはトラブルの予感がしますなぁ。グルメ系番組や企画の取材って、依頼をしに来た時は低姿勢→いざ取材や撮影が始まったら契約と違うことしたり一般人に迷惑かけたり、ゴミ等を片付け…
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