注目の新クラン!
クランの設立には、審査のために少しばかり時間がかかるらしい。
どうせなら、ちゃんと設立してから本格的な活動をしたいところだけど、大した意味もなく労働をサボることはできない。日々の稼ぎは大事なんだとみんなも言っている。
サブクラスをゲットした私にとって、次の目標は当然ながら上級クラス!
ただ、それはめちゃくちゃ遠い道のりだとわかっている。だから、個人の目標とは別に今度はクランとしての目標を少しずつ達成することで、日々の活動をがんばっていきたい。そうしていれば、自然と上級クラスに近づいていく。
なにしろ私はクランマスター!
クランとしての目標を先頭に立って、成し遂げていくのだよ。
ひとりで好き勝手にやっていた時とは違うし、みんなで成り上がってやることが楽しみで仕方ないね。
まだほかのみんなはサブクラスのために張り切っているし、クランも立ち上げたばかりだと思えば、リーダーの私が気を抜くわけにはいかない。
これまでと変わらず、いや、これまで以上に気張っていくべし! やったるぞ。
あれこれと話し合った次の日。
働き者で希望に満ちた私たちは、夕歌さんのアドバイスを参考にしながら、近隣のダンジョンを荒らしまくることにした。
様々なモンスターや環境に対する経験を積み上げつつ、いい感じの稼ぎスポットを求めて。
練馬の拠点を中心に、ひとつひとつダンジョンを攻略していく。
せっかくのダンジョン攻略なので、雑に回らず、時間をかけてやっていくことになった。
「ホントに隠し部屋も見ていく? 装備とか、私しか使えないよ?」
ソロの時にはなるべく取るようにしていたけど、手に入るのは使わない武器か防具、それか売ってもあまりお金にならない銅のインゴットが多くて、時間をかけても割に合わなかった。
そもそも隠し部屋の場所に行くのが面倒だし、隠し扉を開けるのも結構大変。神楽坂で骸骨くんを倒していたほうがずっと稼げる。お宝探しは最初のころは楽しかったけど、ハズレばっかり続いてすぐに飽きてしまった。
いっぱい取れる装備は、制限さえなければお宝なんだろうけどね。
「踏破に時間のかかる中層以降は、判明している隠し部屋自体が多くない。今後を考えれば、経験を積む意味でもあえて見逃す手はないと思うが」
「もしかしたら、アオイが気に入る物だって取れる可能性はあるわよね?」
「そうなんだけど、全然出ないんだよね」
すでに私の装備は『武魂共鳴』で成長しているから、基本的にいまのを変更することはないと思う。あとは追加で装備したいと思える何かが見つかるかどうか。見つからないから、どうでもいい感じになったんだけども。
「装備制限を外せる可能性はあるのですよね? もしそうなれば、刀を融通してほしいのですが……」
「わたしも盾がほしいですねえ」
前に夕歌さんに預けた装備品は、その後の結果が不明なままだった。刀とブローチだったと思うけど、あれの装備制限を外せるかどうか実験するとかなんとか言っていた。
夕歌さんからその後の話がないということは、まだ実験中なんだろうね。急かしても夕歌さんが困るだけだろうし、放っておくしかないわ。
「まあ、あんま期待しないでよ」
こればかりは仕方ない。だからこそ、ソロダンジョンを発動せずに入れる私たちの練馬ダンジョンに期待している。
あそこは蒼龍の記録を見る限り、隠し部屋系は全然発見できていないっぽいし、モンスターからのドロップがあれば私専用にはならないから誰でも使える。
もっと強くなって、早く挑戦できるようになりたいね。
急がずじっくりと、パーティーでの連係を確認しながらモンスターを倒していく。
あちこちのダンジョンを第二十五階層まで攻略して次に進む。隠し部屋とモンスターへの対処法を確認しながらだと、だいたい5日間くらいかかった。まあまあのペースなのかな?
そうして特に稼ぎスポットと思えるダンジョンが見つからないまま時は過ぎ、稼ぐことがメインではなくても経験値は積まれていく。
私以外のいまのレベルは、レベル19が銀ちゃんで、レベル18がマドカとツバキとまゆまゆ、レベル17が沖ちゃんとリカちゃん。
ステータスの詳細が見えるスキル『星の糸紡ぎ』は便利だけど、あれは私が自分のを確認することにしか使えない。
だから銀ちゃんがいつレベルアップするのか、みんな気になっているところだ。
どんなサブクラスになるんだろうね。私のように地獄の悪鬼系になるか、武器や戦い方にちなんだクラスになるか、それとも全然予想外のクラスになっちゃうかも。
「皆さん、おそろいですね。クランの件、無事に審査が終わりました」
真のクランハウスのロビーで、明日のダンジョンについてみんなで話していると、雪乃さんが登場して教えてくれた。
「おー! やっとだ」
「これでランキングに関われるわね」
「ただ、ひとつ問題がありまして……」
なんだろうね。みんなの疑問の目が雪乃さんに向く。
「私のほうでも確認すればよかったのですが、クラン名に誤字がありました。こちらです」
誤字? 見せてもらった紙にはいろいろ書いてあったけど、肝心なのはクラン名だよね。
普通に『絶望の花園オルタナティブ』と書いてあるけど。どこに誤字が?
「……アオイ、これはわざと?」
「なにが?」
まゆまゆは笑い転げ、マドカと銀ちゃんは呆れた顔をしている。ほかのみんなは困ったような表情だ。
「葵姉はん、これは絶望や。うちは絶佳、言うたはず」
おう? 書き間違えたってこと? しかも、ぜつぼうって。マジかよ。
「えっと、間違えたわ! 雪乃さん、これって直せるよね?」
「修正はもちろん可能ですが、即日とはいきませんね。またその間、ランキングからは除外されてしまいますが」
せっかくランキングに入れたのに!
うわー、やっちまったわ。
「いいんじゃねえか、別にこれでも」
「マユ、本当に? これで認知されていくのよ?」
「絶佳の花園もいいんだけどよ、絶望の花園のほうがアタシららしい気もしてな。どう思う?」
「わたしたちは、それぞれ辛酸をなめてからここに集まっていますからね。らしいと言えば、らしいかもしれませんねえ」
「リリカまで……」
「うちも、これはこれでええ思う」
絶佳の名前を考えてくれたツバキも、そんな風に言ってくれるんだね。私は……うん、直したほうがよくね?
「本当にいいの? ギンコとルリは?」
「元より私は何でも構わん」
「私もそうですね。みんながよければ、それで」
あんまりこだわりない感じか。
「アオイは? わざとじゃないのよね?」
「わざとじゃないけど……やっちまった私としては何も言えないわ。マドカが嫌なら直そうよ」
「あたしは、そうね。もうみんながいいならこれでいいわ。アオイは修正したい?」
どっちでもいいっちゃ、どっちでもいいわ。直したほうがいい気はするけど……。
「うー、私はそもそも『オルタナティブ』が入ってればそれでよかったし」
「そんなこと言ってたわね……」
「あ、雪乃さんは? 雪乃さんもクランメンバーなんだから、意見あったら言ってよ」
「皆さんがよろしければ、私は特に異存ありませんよ」
なるほど。
「じゃあもう『絶望の花園オルタナティブ』でやってこうよ。そうだよ、これも運命!」
「そういうことだな。アタシらはこれから『絶望の花園オルタナティブ』だ。ああ、案外悪くねえ」
「だよね! ほい、みんな! いくよ? クランランキング、駆け上がるぞー!」
「お、おー!」
ぐだぐだなスタートも、きっと私たちらしいよね。
ランキングに殴り込みだ!




