どきわくのサブクラス
「アオイ、早く教えてよ。あたしも気になるわ」
ひどすぎクラス仲間のマドカも、私の結果には気が気でないようだね。
それはわかるけど。
仕方ないね、ほかのみんなも気になってるみたいだし、そろそろ覚悟を決めようか。
ふいー、大きく深呼吸して……うん、わかった。
「よっしゃ、いくよ」
今度こそ目をかっぴらいて、身分証をしっかり見る。
自然と力が入ってしまうわ……どれどれ。
こいこいこい! 超絶すっごいクラス!
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:20(レベル上昇に必要な経験値:1,282,728)
クラス:はぐれ山賊
サブクラス:しゃにむに悪鬼
しゃにむに悪鬼……?
ああん?
しゃにむに? しゃにむにってなに?
あっき……悪鬼? 悪い鬼?
は? なんで?
なんでなんでなんで?
「うわああああああああああああ!」
「ど、どうしたの?」
ハンマーを足元に落として、すぐ近くにいたマドカの肩をつかむ。しっかりとつかむ。
「なんかよくわからんけど、これは違うだろ! 和風でもなんでもなくない? 思ってたのとは、もう全然、違うじゃん!」
「アオイ、まさかまた……?」
「意味わからんクラス! なんじゃこれー!」
「葵ちゃん、落ち着いて」
「……葵姉はん」
「わからん、わからん、わからん! ホントに意味わからん! いったいなんなん? なんでなん? うおいっ! もうちょっとカッコいいのでもいいだろ! あああああああああーーー! うおーいっ、どうなって――」
ふう、ふう、ふう、ふいー。
散々わめいたあげく、みんなになだめられてちょっとだけ落ち着いた。
「大丈夫?」
はあ、マドカの心配そうな顔が心にしみるわ。
「あーもう。私ったら、こういう運命ってこと? それとも実はすごいクラスだったりする?」
「どんなサブクラスになったんですか? 葵、具体的なクラス名は?」
「私も気になる。早く教えてくれ」
「アタシらにとっても、他人事じゃねえからな」
ほいほい、言いたくないけどね。
秘密にするわけにもいかないからね。いいよ、教えてあげますとも。
「どうぞ、聞いて驚いてください。私のサブクラスは……」
「サブクラスは?」
「なんとー! 『しゃにむに悪鬼』に決定したのです! やっぱし、この世に、神は、いない! いるわけねーわ!」
ふざけんな! なにが悪鬼だよ。まったくもう。
東方征伐大将軍とか、勇猛果敢な英雄侍とかでもいいだろ。なんならもうヤマトタケルでいいだろ。なんなのよ、まったくもう。
「しゃにむに悪鬼、か。葵は気に入らないかもしれんが、言い得て妙ではあるな」
「むしろ順当だよな。そのまんま葵じゃねえか」
「え、なんでよ? てゆーか『しゃにむに』ってなに?」
意味わからん。
「遮二無二とは、ひとつのことに集中して取り組む、というような意味だ。まさに葵だな」
「特に最近は戦闘ばかりしていましたし……」
「たしかにそうね。サブクラスを目指して、戦いのことばかりだったように思うわ」
いやいや、一生懸命にやったら『しゃにむに』なんて変な枕詞になるんかい。おかしいだろ。
もっとマシ、というかカッコいいワードがあるだろ。ほかになんかさ。
「でもまあ、悪い意味じゃないってこと?」
カッコいい感じは全然しないけど。
「そうなるな」
「じゃあ悪鬼は? これはおかしいよね? なんで私が悪い鬼なわけよ」
どう考えてもおかしいだろ。
私ったら、英雄とか勇者感強めじゃない? モンスターをバンバン倒しまくってるんだからさ。
まゆまゆと銀ちゃんは順当とか言ってるけど、どう考えてもおかしいよね。そうだよね。
いったい全体、どういうことなんだよ。
「私もあまり詳しくはないが、地獄の獄卒というものを知っているか?」
「ごくそつ?」
「ようは、地獄で亡者を苦しめる鬼のことだ。獄卒には数々の呼ばれ方や種類があったと思うが、その中のひとつが悪鬼だ」
「な? まさにいまの葵だろ?」
神楽坂ダンジョンの中層は、地獄みたいな光景だなと思ってはいた。
全体的に暗くて、マグマの川に針の山、それと真っ赤な池もある。おまけにモンスターは骸骨ばかり。
地獄っぽいステージで、無数の骸骨くんをぶっ殺しまくった。それはもう数え切れないくらい。
でもさ、和風なんだよ。
ここでは多くのハンターたちが、和風のクラスをゲットしているって聞いたんだよ。
地獄がどうのなんて話はなかったはずじゃん。
「はあ~……まあ、よくはねーけど仕方ない。うん、よく考えたらちょっとカッコいい? カッコいい、かもしれないよね。悪鬼ってさ」
しゃにむに悪鬼で考えちゃうとカッコよくない気はするけど、悪鬼だけで見ればちょっとよさげな気がしてきた。
あれだ、ヒールっぽいクラス? 実は悪くないかも。暗黒騎士みたいな感じでさ。
「気の持ちようや」
「だよね。取れちゃったもんは変えられないし」
「葵ちゃん、クラススキルは何を覚えたんですか?」
「あ、それか。それが強かったらいいよね」
もう一度身分証を確認だ。
私ったら、スキルの運はいいからね。それは期待しているよ。
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:20(レベル上昇に必要な経験値:1,282,728)
クラス:はぐれ山賊
サブクラス:しゃにむに悪鬼
生命力:97(+1,600)
精神力:97(+3,200)
攻撃力:97(+3,400)
防御力:97(+1,600)
魔法力:97(+1,700)
抵抗力:97(+1,500)
運命力:613
スキル:ウルトラハードモード(試練を与える。ダンジョン難易度の上昇、難易度に応じた報酬獲得率アップ、成長率が難易度相応に変化)
:ソロダンジョン(専用のダンジョンに入ることができる)
:武魂共鳴(装備品が使用者と結びつき、レベルに応じて成長する)
:毒攻撃(攻撃時に毒ダメージを与える)
:星の糸紡ぎ(星魂紋の詳細が可視化される)
:状態異常耐性(状態異常への耐性を得る)
:カチカチアーマー(カチカチしたシールドを召喚する)
:キラキラハンマー(キラキラするハンマーが追加攻撃する)
:生命力吸収(攻撃時のダメージに応じて、対象から少しだけ生命力を吸収する)
:念動力(念じることより物体に干渉する)
:健康体(病気知らず)
:メラメラハンマー(メラメラするハンマーが追加攻撃する)
クラススキル:拘束具破壊(拘束具を簡単に破壊できる)
:威嚇(威嚇対象に恐怖感を与える)
:荒野の生存者(過酷な環境への耐性を得る)
:黒縄(焼けた縄を召喚する)
加護:弁財天の加護(魅力・芸術能力・財運アップ。五頭龍をソロ討伐し弁財天に認められた証)
:厄病神の加護(災厄を返し悪因悪果を与える。疱瘡悪神をソロ討伐し厄病神に認められた証)
:瀬織津姫の加護(精神力増強、攻撃力増強、スキル威力増強。戦闘技術を磨き瀬織津姫に認められた証)
:座頭法師の加護(演奏能力・呪いへの耐性アップ。暗闇での視界が利くようになる。座頭法師に認められた証)
なんかいろいろ増えた。
通常のスキルで『メラメラハンマー』、クラススキルが『荒野の生存者』と『黒縄』が増えているね。
ちょっと久しぶりにスキル覚えたから嬉しい。強いといいな。
「とりあえず、新しいクラススキルの『黒縄』ってやつ使ってみるわ」
縄を召喚ってことは、敵を縛り上げたりできるのかな?
さっそく遠くにいる1匹の骸骨くんに狙いを定める。なんだか、ここからでもいけちゃう気がするね。
ほいほいっと念じるように力を込めると、地面から生えた2本の真っ赤に光る縄が、骸骨くんを絡めとるように縛り上げた。すごいスキルだなーなんて思っていると、そのまま骸骨くんは光に変わってしまった。
「うお、倒しちゃったわ」
「まさか……黒縄、黒縄地獄にちなんだスキルか?」
「なんか知ってんの? 銀ちゃん」
物知りだね。
「いくつもある地獄のひとつに、黒縄地獄というものがある。そこでは焼けた鉄の縄で縛られるという話があったはずだ。葵のスキルはそれを再現かはわからないが、近いものだろうな」
「ははっ、おもしれえ。地獄の悪鬼らしいスキルってことだな? かなり使えそうじゃねえか」
それはまあ、たしかに。
ちょっと消耗が重めな気はしたけど、強いっちゃ強いわ。
あれ、なんか。割と私のサブクラスっていいのかも?
地獄の悪鬼とか、カッコいい気がしてきたわ。
うん、きっとそうだよ。そうそう、悪くないよね!
それにしても、ついにサブクラスをゲットしてしまった。
山賊に続いて今度は悪鬼かー。
まあまあカッコいい気がしてきたからよかったけど……いや、ちょっと待ってよ。
「私ったら山賊と悪鬼じゃん」
なんだよ、この組み合わせ。マジかよ?




