ねんがんのレベルアップ!
やれることは全部やった。
最初はひとりでがんばって、次にマドカとツバキと一緒にがんばって、さらに銀ちゃんたちを加えてがんばった。
そうやってずっとがんばって、フォーチュン・オルタナティブの幸運まで手に入れた。
頼れる仲間を集めたからには、もうはぐれ者とは全然違う。
戦ってきた環境的に、山賊や海賊になる余地はないと思っているし、盗賊系のクラスはたぶんないはず。
江戸の町風ダンジョンでずっと戦っていたから、きっと和風のカッコいいサブクラスになる。絶対、そうなる。
メジャーっぽいクラスの侍系や忍者系は、私にはちょっと違うかなと思っているし、具体的には想像できないけど、それでもなんかいい感じの戦士系クラスになれると思う。
あれだよ、タマトタケルとか? スサノオのなんとか?
伝説の戦士とか侍みたいな人にあやかった、すっごいやつ!
和風ならひょっとして、大名とか将軍とかもあるんじゃない?
そんな感じになれるよね、今度こそ。いや、マジで。
人事を尽くして天命を待つとは、いまの私の状態のこと。超がんばった!
もうこれ以上、やれることはない。断言できる。
いざ、レベルアップの時。サブクラスをゲットするぞ。
神楽坂ダンジョン第二十五階層での戦い方は、この前のでコツはバッチリつかんでいる。
でっかい銃声で100匹くらいの骸骨くんをおびき寄せては、そいつらをぶっ倒しまくる。たぶん、あとちょっとやれば私はレベルアップする。
どうしても緊張しちゃうけど、やるしかない。立ち止まってはいられないからね。
「今日はアオイのレベルアップを確認したら、クランを作るためにすぐ動くわ。これでいいわね?」
「うん、それでいいよ。雪乃さんにもそう言ってあるし」
どうせやるならクランランキングを駆け上がりたいからね。
今日は私のレベルが20になったら、そこで引き上げだ。クランハウスに戻って、クラン設立申請の最後の準備をする。なんか本格的にハンターっぽい感じになってきたわ。
仮に……もしも仮に、納得できない変なクラスになったとしても、悲しむ時間なんかもったいない。そんな暇があったら、上級クラスを目指すのみ。そう決めた。
うあー、でもやっぱ緊張するわ。
「じゃあ、さっさと始めようぜ」
「我々のクランか。今日はひとつの転換点になるな。では、始める」
大きな銃を構えた銀ちゃんが、ドカンと一発ぶっ放した。
号砲が地獄っぽい江戸の町に鳴り響き、たくさんの骸骨くんが向かってくる。
いまのところ、特に異常はなさそう。想定どおりの数だし、変なモンスターが混ざってもいないね。
ちょっと拍子抜けな気はするけど、サクッとやれて損はない。サクサクいくぞ。
前回の経験もあって、戦いに慣れた私たちはスムーズに敵を倒しまくる。
サポートと攻撃を分担し、こんなに効率よく戦えるパーティーがどれだけいるのかちょっと疑問に思う。レベルの高いほかのパーティーの戦いをどこかで見物してみたいものだよね。
よし、集中だ。敵の位置を常に捉え続け、次の行動のための準備を惜しまない。
仲間の位置と戦いぶりにも気を配り、それでも私自身の戦いからも気を抜かない。
斧を適当にぶん投げ、必殺のハンマーを振り回し、隙あらば骸骨くんの足を蹴って行動力を奪う。
ほんの少しの無駄も許さない戦いぶりが、私の真骨頂なんだよ。
がんばったから強いんだよ!
だから頼むよ、なんかすごいクラス!
来たれ、なんかすごいクラス!
「うおおおーーーっ、なんかすごいクラスーーー!」
高まる気合いを叩きつける。
私の心意気とすごいクラスへの渇望を、この世界に示せ!
骸骨、骸骨、骸骨、ぶっ壊せ! どんどこ、どんどこぶっ壊せ!
「オラオラオラ、オラーーー!」
――成敗、完了。
重量感のあるハンマーさんをドスンと肩に担ぐ。
暴れまくって熱い衝動をちょっとは発散できた気がするね。
「片付いたわね。アオイ、どう?」
「ちょっと待った! うん、ちょっと待ってよみんな」
視線を集めながらも、深い呼吸で心を落ち着ける。
倒したモンスターの数からして、レベルアップはたぶんしていると思う。
レベル10になった時以来……いやいや、あの時以上の緊張感がある。わくわくの期待が半分、どきどきの不安が半分。
深呼吸、深呼吸。よーし、よしよし。
もう迷わないって決めたからね。いくぞ。
「ふいー、じゃあ見てみるよ」
いいね? 見ちゃうよ?
みんなの顔を一度見まわし、ポーチから身分証を取り出した。
手で隠すように持って、まずはチラ見。
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:20(レベル上昇に必要な経験値:1,282,728)
クラス:はぐれ山賊
うおおー、レベル20に到達!
よしよしよし、ここまではいいね。
緊張のあまりに目を逸らしてしまったけど、クラスの次にサブクラスが刻まれているはず。そう聞いたからね。
サブクラスを実はゲットできなかった、なんてことだってあるはずないからね。バチッと刻まれたに決まっている。
いまだけ、いまだけはまだ好きに妄想できる。
なんかすごいクラス! 超絶すごいクラス! 私はきっとなれている! そうなったはず!
でもなー。
見てしまったら、そこで確定なんだよね。もう決まっちゃうんだよ!
次の上級クラスまで、めっちゃ遠いんだよ!
うわー、やっぱ見るのこえー。




