レベルアップ前最後の準備
ちょっとだけ難しくなった気がする、第二十五階層での戦いをコツコツ繰り返す。ひたすらがんばる。
みんなのがんばりもあって、もう少しで私のレベルはアップしそうになっている。
記念すべきレベル20の節目だから、気になってちょこちょこ確認してしまう!
どうにもこうにも落ち着かないわ。
もう少し。そのもう少しで、サブクラスをゲットできる。
でもここに至って思う。ホントの本当に、このままレベルアップしていいのかな。
後悔はしない、よね。
ホントに大丈夫? マジで?
あー、やっぱ、ちょっと待って!
いったん落ち着くべき。急いては事を仕損じるとかなんとか、そんな言葉があったはず!
というわけで、
「よーし、今日は終わりね!」
本日の労働に感謝を!
ちょい強めのモンスターを相手に、私たちはよくがんばりました。とてもえらい、すごい!
「終わり? アオイ、まだ早いわ。コツがつかめたところだし、もう少しやっていかない?」
「そうだな。あと1時間はやれるだろ。それにもう少しでレベルも上がるんじゃねえか?」
「だからだよ、まゆまゆ。私の鋭い女の直感がさ、いまじゃないって告げているんだよ」
「……葵姉はんの、直感?」
この世に祈るべき神様はいないけど、せめて仏様には祈っておきたい。今度こそ、たのんます!
いやいや、祈るだけではダメだね。どうにかして、運気を高めたい。ほんのちょっとでも。
「あ、そうだよ。フォーチュン・オルタナティブ! あれで作ったアクセサリーって、そろそろできなかったっけ? そんな感じじゃなかった?」
「所有者に幸運をもたらす宝石、紫翠変石か。あれを持った状態でレベルアップしたい気持ちはわかるな。梨々花、今朝雪乃さんと話していなかったか?」
「はい、明後日にはクランハウスに届けられると言っていましたねえ」
「ちょうどいいじゃん! まさにそれだよ」
わざわざ山梨まで原石を取りに行ったのは、こういう時のため。いまの私に必要なものだよね。
追加でたくさん取ったやつは、原石から磨き上げてネックレスにしてもらうべく、雪乃さんがどこかのお店に預けていた。
「後悔はしたくないですからね。私は葵に賛成します。自分の時にも持っていたいですから」
「だよね、沖ちゃん! みんなだってそうだよね? どうせだからね」
「そういうことなら仕方ないわね。あたしもレベルアップの時には絶対ほしいわ」
カッコいいクラスの獲得は、私とマドカががんばる原動力のひとつだ。
どうなるにしても、やれることは全部やってその時を迎えたい。
ふー、勢い任せでレベルアップしちゃうところだったわ。あぶねー。
ダンジョンからクランハウスに帰り、次の日は休みにした。
レベルアップとサブクラスが気になって気になって、気が休まらないし、遊びに出かける気もいまいち起きない。
リカちゃんとまゆまゆは買い物に出かけたけど、その他のメンバーは午前中は適当に過ごしつつ、暇な午後はみんなで護身術のお稽古をやって一日を終えた。
そして、さらに次の日。
なかなか眠れなくて、うだうだした挙句の果ての睡眠。
結局、お昼を回ってから起きてしまった。横になったまま少し反省していると、部屋のドアをノックされた。
「アオイ、入るわよ」
「ういー」
「まだ寝てたの? いつも早いのに、珍しいわね」
とりあえず起き上がるとしよう。勢いをつけて身を起こし、ベッドからも出た。
「ちょっと待ってて。顔洗うわー」
のそのそ洗面所に移動する。目を覚ますべく、冷たい水で顔を洗ってスッキリ爽快!
タオルで乱暴に顔をぬぐえば、いつもの私だ。
「んあー! ちょっと寝つき悪くてさ」
「サブクラスのこと?」
「そうそう。期待と不安でうわーって感じ? マドカだってレベル20に近づいてるし、そんな感じじゃないの?」
「まあね。でもなるようにしかならないわ。それに、あまり悪い予感はしていないの。こっち、座って」
言われて鏡台の前に座ると、ブラシで髪をとかしてくれる。
誰か人にやってもらうのって、なんか気持ちいいんだよね。
「あ、そういやマドカは『第六感』のスキルあるし、その予感はバカにできないね」
「恩恵をあまり感じないスキルだけど、こんな時ばかりは心強い気はするわね。あたしの場合は、さすがにいまのクラスよりは悪くならないだろうし」
うん、それはそう。どん底アイドル崩れ、なんてひどいクラスより悪くなる可能性なんてないわ。そんなもんあるわけないわ。
そういう意味だと、私もそうかも。パーティーを組むようになったし、山のような場所ではほとんど戦ってない。
つまり、はぐれでも山賊でもない、まったく違うクラスになることは決まったようなもん!
不安な気持ちが急に晴れ渡ったような気がする。さすが心の友、いいことを言ってくれるわ。
「なんか私もよさげな予感してきたよ。そうだ、フォーチュン・オルタナティブって届いたのかな」
「それを言いに来たのよ。雪乃さんがさっき受け取ったって」
「やった、予定どおりだね」
これでレベルアップの準備はできた。心構えもできた気がする。
「今日はこのあと、どうするの?」
もうお昼を過ぎているね。いまから着替えてご飯食べて、神楽坂まで移動してダンジョンとなると、時間的に中途半端な感じがするわ。どうせやるなら、朝からバッチリ始めてからレベルアップを果たしたいよね。
「とりあえずフォーチュン・オルタナティブかな。どんなのになったのか早く見たいわ」
「そうね。じゃあ、あたしは先に行ってるわ。いつもの応接室にみんなもいるはずだから」
「わかったよ」
マドカが部屋を出ていき、私もささっと着替える。そしてささっと移動。
するとテーブルの上に、綺麗なネックレスがたくさん並べられているのが目に入った。
「葵さん、おはようございます」
「おはよー、雪乃さん。これ、めっちゃ綺麗じゃん!」
原石の状態とはもう全然違う。形を整えて磨いたせいか、元々小さかった石がもっとちびっちゃくなってしまったけど、輝きが別物になっている。
銀色のよくわからんシャレたチェーンもあいまって、高級感もすごいある。なんかすごい!
みんなも私を待っていてくれたのか、まだネックレスを配ってはいないらしい。
「では皆さんそろいましたので、こちらをどうぞ。クランメンバーの証にするということでしたので、デザインも石の大きさもほぼ同じです。クランマスターの葵さんから、皆さんにお渡ししてはどうですか?」
なんと。それはいいね。
おそろいのアイテムで結束感も強まり、おまけにフォーチュン・オルタナティブは幸運を授けてくれる特殊効果付きだからね。
とってもいい感じだよ!
やばいわ。すごくいい予感してきたわ。もう超絶すごいクラスになる未来が見えたわ。




