やっぱりすごかった拾い物
狭い隠し部屋でどうするか考えていると、謎のモンスターが顔を出して私を捉えたのがわかった。
黄色っぽく光って見える目は、完全に獲物を見る目つきだ。
「あれ……あいつ、でかすぎるかも?」
全体がまったく見えないほどの巨体では、きっとこの狭い場所には入れない。
まさかの安全地帯? 逃げ道はないけどね。
ところが巨体は入れないまでも、大きな顔だけがにゅっと迫ってきた。どうやら首が長いみたい。モンスターらしく、噛みつくつもりだろう。
湧き上がる恐怖心を抑え込んで改めてよく見ると、その顔や長い首はまるで東洋の龍のようだ。どこか神秘的な感じもする。
いや、気のせいだ。
どんなに立派な形をしていようと、所詮はモンスターにすぎない。魔石に変えてやる。
「チッ、一張羅のカタキ!」
芋ジャージを破いてくれた恨みは忘れない。私は服、これしか持ってないのに。
恐れる気持ちを恨みに変えて、無造作に近づく龍の鼻っ面をハンマーで打ち据えてやった。でっかい龍の顔に小さなハンマーじゃ心もとない感じはするけど、案外効いている感じだ。
頼れるハンマーさんは、威力が思った以上にでっかいらしい。
ただ、モンスターに若干ひるんだ様子があったものの、退かせるまではいかない。さすがに一回じゃね。
「上等じゃん。何度だって、ぶっ叩いてやる!」
炎のブレス攻撃みたいなことをされたら一巻の終わりだけど、それがないなら粘れる。
わずかでもダメージが入っているなら、いつか倒せる。それが無理でも、龍が諦めて去るならそれでいい。
性懲りもなく近づく顔面をまた叩く。もう滅多打ちだ。
「オラオラオラオラオラオラ! あ、そうだ『毒攻撃』くらえ!」
スキルを発動して、追加でまたぶっ叩いた。
「うおおおおおおっ、効いてるじゃん!」
龍の顔面が明らかにどす黒くなり、苦しそうな表情を浮かべながら首が退いていった。龍でもそんな顔するんだね。
それにしても毒、つよ!
どっか行ってくれないかなと思いつつ様子を見ていると、龍は怒りの表情でまた顔を突っ込んできた。
「え、なんで? 回復した?」
毒に侵されたはずの顔面は、最初と変わりなくなっているじゃないか。
ふざけやがって。治癒能力を持っているってわけ?
「だとしても、私はこれをやるしかない! いけ『毒攻撃』じゃい!」
ガツンとハンマーで打ってやれば、またもやどす黒く顔を変色させる龍。
何べんでもかかってこい。
いや、できればこないで!
すごすごと首を引っ込めたと思ったら、けろっとした顔でまた現れる龍の顔だ。
もう、なんなん。なんなん、こいつ。
「くんなーーー!」
諦めないならとことんやってやるぞと、芋ジャージの恨みハンマーを乱舞させること、都合何回だろう?
そんなに多く叩いた気はしないけど、どうしてか急に顔を出さなくなってしまった。
治癒能力が切れたのかな。
「……あれ、まさかこのまま毒で倒せるとか?」
そのまさかだった。
狭い部屋から見える巨体の影が、光の粒子になって消えたじゃないか。
「な、なんか勝ったーーー! しゃっあ、おらああああああっ!」
やっぱ毒つえー。
「ふいー、あぶなかったー」
隠し部屋から通路に顔を出してみれば、遠くのほうにネズ公が見えるだけで、龍は影も形もない。
代わりに、そこには布っぽいものが落ちていた。
ドロップアイテムってことかな? 初めて見るね。
布を手に取って広げてみれば、どう見ても服だった。なんて都合のいい。
破れてしまった一張羅の代わりとして、非常にありがたいでござる。
人目がないのをいいことに芋ジャージを脱ぎ散らかし、束の間の解放感を存分に堪能した。
いそいそと触り心地のいい生地の服を着てみれば、これがまたいいのなんの。
どれどれ。自分の格好を見下ろしながら、くるりと一回転。
新しいお洋服には、やっぱテンション高まりますわー。というか私、新しい服なんていつぶりなんだろう。
当然だけど、普通の服とは違う。なんか魔法的なあれやこれやのおまけがついた服なんだろう。わからないけど。
形状は完全に女子向け魔法学園の制服っぽい感じだ。テンション上がる服だけど、可愛すぎて大丈夫だろうかと思ってしまう。
まあこれしかないから着るけど。
思い出の芋ジャージから、文明レベルがどれくらいアップしたのやら。
「そういえば魔石は……」
あれだけの大物を倒したんだからね。どでかい魔石を落としてもいいだろと思いつつ見回して、やっと見つけた。
「ちっちぇー、なにこれ。ネズ公のと一緒じゃん」
嘘でしょ? アレの討伐報酬が300円てふざけてるよね。魔法学園っぽい服はあったけどさ。
「あ、じゃあレベルだ!」
これこれこれ! ババンと大幅レベルアップとかあるんじゃないの?
いそいそと身分証を取り出してみれば。
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:4
クラス:―
生命力:8
精神力:8
攻撃力:8
防御力:8
魔法力:8
抵抗力:8
スキル:ウルトラハードモード/ソロダンジョン/武魂共鳴/毒攻撃
クラススキル:―
加護:弁財天の加護
「変わっとらん!」
嘘でしょ? あんな大物っぽいの倒したのに、レベルひとつ上がらないなんて。そんなことある?
もしかして毒で倒すと経験値もらえないのかな。
魔法学園っぽい服ひとつじゃ、割に合わなくない? 命が危なかったってのに。
「え、あ、違う。加護が増えてるじゃんか」
弁財天、どんな加護なんだ。説明プリーズ!
受付のお姉さんなら知ってるかな。
「そうだそうだ、まだあった。単眼鏡、こいつは何よ」
ポーチから取り出して、レンズ越しに覗いてみる。
ふーん? 特に変わったものが見えるとかないけどね。
おいおい、まさかのおしゃれアイテムかい。
ハズレかと思ってガクッと視線を落とした時に気づいた。なんか見えた!
■血風の鬼火踏み:生命力増強、防御力増強、抵抗力増強、踏めば魂を崩し精神力を奪うロングブーツ。
■星詠みの巡礼服:精神力増強、防御力増強、魔法力増強、抵抗力増強、星の導きを得る巡礼服。
なんか見える。単眼鏡は鑑定してくれる道具っぽい。鑑定でいいんだよね、これ。
鑑定結果っぽいのが本当にあっているのか、ほかの何かで試してみたい気はするね。
それにしてもだよ。
「私の装備、強そうすぎん? ほかの人のもこんなもんなのかな。ハンマーも見てみるか、あと指輪もだ」
■絶血の魂砕き:生命力増強、攻撃力増強、魔法力増強、スキル威力増強、魂を砕き生命力を奪うハンマー。
■瀬織津姫の指輪:精神力増強、攻撃力増強、戦闘技術を向上させる武神の指輪。
「あー、すっげー」
もうよくわからんけど、どう考えても強いよね。
これってまさに豚に真珠とか猫に小判の状態なんじゃ?
いやいいのか。ソロダンジョン産だし、どうせ私しか使えないし。
なら、オッケー!