現在に続く過去
いつものように、まゆまゆの運転するボロい車でクランハウスに戻った。
この車も買い換えたいね。クランハウスの立派な感じと全然、釣り合ってないわ。
やっぱり見た目って、なめられないためにも大事な要素だからね。車のことはわからんけど、なんか超すごいやつにしたいよ。
「ただいまー」
「お帰りなさーい」
仮のクランハウスに入ると、雪乃さん部下二号の綾乃さんがわざわざ出迎えてくれた。
雪乃さんの部下のおふたりは、たぶんいっぱい働いてくれている。完全お任せ状態でも、それくらいはわかる。
マジメっぽい部下一号の詩乃さん、フレンドリーな部下二号の綾乃さん、どっちもいい感じの人だ。
「綾乃さん、お疲れ様です」
「まどかさんもお疲れ様です。あ、雪乃さんがお話あるみたいでしたよ」
「あたしにですか? それともみんなに?」
「えー、どっちもですかね」
なんのこっちゃ。みんなして、なんとなく顔を見合わせてしまった。
そのまま雪乃さんの執務室に7人で行き、ソファに腰を落ち着けた。
「ふあーーー、この部屋はいつもいい匂いすんねー」
くんかくんか。甘くてさわやか、でもしつこさは全然ない。清々しい気持ちになれる。
「自作のアロマなのですが、気に入ってもらえてよかったです」
「ほー、自作なの? すごくない? マドカ、あとで分けてもらおうよ」
「え、それは嬉しい……ってそれより雪乃さん、話があるって聞いたんですけど」
雪乃さんもタブレットを持ってソファに座った。
「まどかさんの耳には入れておいたがいいかと思いまして。こちらを」
テーブルに置かれたタブレットにはニュース? のページが表示されていた。
どこぞの奴らがクランを作った? 大きな見出しから読み取れるのはそんな内容かな。なんだろうね。
「……雪乃さん、これって」
「かつてのまどかさんの同僚の方たちですね。ハンター兼アイドルグループの」
ほうほう、そいつらがクランを作ったと。芸能人だから大々的に発表会とかした感じっぽい。
「まだレベル20には遠かったはずなのに、クラン? どういうこと」
「引き抜きです。若手の有望株、それもルックスのよい女性ハンターを引き抜いて、クランマスターに仕立て上げたようですね。そうした内容のニュースです。数十分ほど前に記者会見があったばかりですが」
マドカの独り言のようなつぶやきに雪乃さんが答えてくれた。
それはそうと、私たちには関係ない気がするけどね。マドカにとっても昔の話だし。
「それを知らせたかった、ということですか?」
「問題は記者会見の終わり際です。記者のひとりから、まどかさんをどう思っているかといった主旨の質問がありました」
変なこと聞く奴だね。やめた人のことをどうのと。もうマドカは芸能人とは違うのに。
「そういう展開ですか。どう答えたんです?」
「戻ってほしいと。そう呼びかけていました」
はあ? あんですと?
「……ありえないわ。どういうつもりよ」
「おい、まどか。ケンカ売られてんじゃねえのか?」
マドカは元仲間が仕組んだ罠にはめられた。それでアイドルをやめることになった事情は、すでにここにいるみんなが知っている。
いまさら呼び戻そうなんて、普通にありえない話だね。どんなつもりがあるにしろ、とても許せんわ。
「マドカに売られたケンカは、私に売られたも同然だよ。買ってやる!」
「おう、上等だ。ハンターはなめられたらしまいだからな。葵、いまからそいつらの事務所に乗り込むか?」
「やったるぞ! まゆまゆ、車出してくれい!」
「落ち着け。まゆも煽るな。まだ雪乃さんの話が終わっていない」
おっと。銀ちゃんの冷たくて鋭い目を見てしまうと、ちょっと冷静になれるわ。まあ、ふざけた奴らは許さんけど。
「はい、落ち着いてください。あちらもまさか、本気でまどかさんが戻るとは考えていないはずです。これは明らかな挑発ですね」
挑発って、やっぱりケンカ売ってるってことじゃん。許せんわ。
「出る杭は打たれる、そういう状況になったわけですね」
「おそらくは。まどかさんはどこのクランにも入らず、葵さんと組んでハンターを続けていました。この時点であちらの業界での注目度は高かったのでしょう。そして蒼龍杯で活躍した瑠璃さんとその仲間だった皆さんを迎え入れ、クラン設立条件のほとんどを満たしました。新規クランの設立は時間の問題と考えたのではないでしょうか」
めっちゃ目立つクランが新たに登場!
元人気アイドルのまどかが所属しているとなったら、これは大注目なんてことにもなりそうだよね。私たちは、そんなこと全然考えていないのに。
でもそれはハンター兼アイドルとして活動している奴らにとっては、見過ごせない存在になってしまうってわけだよね。
しかも、罠にはめて追い出したはずのマドカが、自分たちよりも活躍して目立ってしまう!
ふざけた話だけど、そいつらにとっては許せんって感じなんだろうね。
「ケンカ売れば、こっちのパーティー内部を引っ搔き回せるとでも考えやがったか?」
「単純にこちらに注目を集めることも目的だろう。なにしろ、我々が仲間に加わっているのだからな」
「あー、アタシら前科モンだしな……」
「評判を落とすために叩く、それが目的ということですか? 私たちの過去を暴いて、それも利用して?」
「もしそうなら。まどかちゃんの元同僚や事務所は、どうしてもわたしたちを潰したいみたいですねえ」
仲間だったはずのマドカにひどいことする奴らだからね、どんな手だって使うよね。
でもあれだ。ムカつくけど、だからなにって感じもする。
そもそも私たちは芸能人じゃないし、スポンサーとかも慎重にしようねって話したくらいだし。知らん奴らに叩かれようと、どう思われようと、ダンジョン探索できるなら、別にどうってことはない。
まあムカつきはするけど、言ってしまえばそれだけだわ。
「……みんな、ゴメン」
「まどかおねえが謝る必要なんてあらへん」
いつになくキッパリした、そして大きな声を出すツバキ。いいね。
「そのとーり! 自力でクランも作れない奴らが、なに言っちゃってんのって感じだよ。レベルの高い他人をよそから引っこ抜いてさ、それで作ったクランなんて絶対しょぼいわ。私たちが負けるわけないわ」
「葵さんの言うとおりです。クランとなれば、クランランキングで明瞭に順位がつきます。いまどれだけ吠えようと、やがて負け犬の遠吠えとなります。気にする必要はありません。恥をかくのはあちらです」
さすがだよ、雪乃さん。
「それに裏工作はこちら側でも実施します。いつまでも好き放題にさせるつもりはありません」
それは怖いわ、雪乃さん。
「結局、我々がやることは変わらない。金を稼ぎながらレベルを上げ、クランを立ち上げる。それだけ、ということだな」
「そうだよ! ちょうど第二十五階層は稼ぎスポットっぽいし、気合入れてがんばっていこう! マドカ、奴らに吠え面かかせてやろうよ!」
乗り込んでぶっ飛ばすのもいいけど、誰にも文句のつけられないランキングで圧倒してやったほうが悔しがるよね。
「……ええ、そうね。あたしもすぐにサブクラス取るつもりで、やってやるわ!」
みんなもマドカに応じて気合の声を上げた。
やっぱり気のいい奴らだわ。




