難易度マシマシになってゆくダンジョン
カッパくんが放つ、苦し紛れの一撃。
口から吐き出された光るマグマを、スキル『キラキラハンマー』で叩き落とした。
「ほいよっとー!」
初心者の頃の私だったら、あぶなかったかも。つよつよになった私には、あのくらいじゃ全然通用しないわ。
でも、お皿を叩くはずのジャンプ攻撃はしのがれちゃったね。カッパくんも少しはやるじゃん。
まあ次は決めるよ。そう思いながら、ハンマーを軸に空中で一回転だ。体勢を立て直して、またぶち込んでやる。
さっきマグマを打ち落とした衝撃のせいか、霧が吹き飛んで視界が晴れているね。それで見やすくなったからか、すかさず銃弾が飛んできた。お仲間の援護は気持ちが高まるわ!
カッパくんの脚に弾丸が連続で命中して、マグマが冷えた岩の体をバンバン削っている。これは銀ちゃんの銃撃だね。
よし、どうせならいい感じの攻撃に乗っかるぞ。
「おらよっと!」
空中で体をひねりながら『キラキラハンマー』を脚にぶち当てた。
銃撃のダメージと合わさって、簡単にもげる脚と前のめりに傾くカッパくんの巨体。
こいつはいいね、次こそお皿にぶち込んでやる!
着地したら倒れる巨体に巻き込まれない位置に一歩で移動し、流れるようにまた『キラキラハンマー』じゃい!
地面を踏みしめて、横手から振り回すように繰り出した完璧な一撃!
ガツンとぶち当てたのに、でもあまりの硬さに弾かれた。お皿がそんな硬いとかアリ?
「いってー、硬すぎ! こんにゃろ、もう一発っ」
決められなかったけど、ノーダメージとは違う。ヒビが入った感触はあった。もう一発ぶち込めば、それで勝てる。ちょっと無理やりな感じで体勢を立て直していると、
「アオイ!」
「うおっと」
安心感のある声が聞こえた瞬間に、カッパくんから距離を取った。
直後に響く重い銃声。至近距離から強力な散弾銃を連続でぶっ放せば、いくら硬くてもヒビの入ったお皿は耐えられない。
光の粒子に変わっていく巨大なカッパくん。
「うおー、勝ったね! でもさっすが第二十四階層のイレギュラーモンスターって感じだったわ。なかなか強いじゃん」
これまでのモンスターの中では、最強の防御力だったと思う。私ももっとパワーを上げていかないと!
「ジャンプした時、危なかったでしょ? ヒヤッとしたわよ」
カッパくんがぽろっと落としたのは、普通サイズの魔石だけか。しょぼいわねー。
「あのくらいはよゆーだって。でなきゃマドカと会うまで、ソロでやれてないからね」
「怪我はないの?」
「全然ないよ。てゆーか、7人でやった初のイレギュラー戦にしては結構よかったよね」
「みんな判断が早いし、行動にもほとんど無駄がなかったと思うわ。とはいえ、あとで反省会はするわよ」
「それは当然!」
反省会はいる。あのでかいカッパくんが100体くらいまとめてかかって来ることまで考えないと、この先の『ウルトラハードモード』は生き残れないわ。
そもそもあれが、いわゆるイレギュラーかなんて実はわからない。今後は普通に出てくるモンスターかもしれないしね。
「葵、まどか、よくやってくれた」
「さすがです。次は私も前に出ないと」
「まあなんとかなったな。でも梨々花の盾が限界じゃねえか?」
「代わりがまだあるので大丈夫です。防御力は少し落ちますけど」
マグマ攻撃にさらされまくったら、それはそうなるよね。
「とりあえず、第二十五階層に行こうよ。もう近いからさ」
「また似たようなモンスターに遭遇するかもしれません。急ぎますか」
誰も異論はない。あのカッパくんはちょっとめんどくさいわ。
スピード優先で移動し、さくっと下への階段を見つけた。移動だけなら大したことはないね。
「ふいー、ひと段落かー」
「キリはいいけど、終わるには時間がまだ早いわね」
「下の様子を見て、やれそうならもう少し稼いで帰らないか? 梨々花、代わりの盾でもいけるな?」
「はい、わたしも賛成です。盾の性能は落ちますけど、モンスターによっては全然大丈夫なので」
普通の骸骨くんやカッパくんなら問題ないもんね。
そんじゃ、もうひとがんばりやっときますか。
みんなで意気揚々と階段を下りると、そこは小高い針の山のてっぺんだった。
物の例えではなく、草の代わりに太い針が地面からたくさん生えている。なんだ、これ。転んだらやばいわ。
とにかく、遠くまで見渡せるのはいいね。相変わらずの江戸を地獄風にした町並みに、ちょっとだけうんざりした気持ちになってしまうけど。
少しくらいさわやかさがほしいわねー、なんて言っていられない状況にみんな黙っていた。
ちょっとどころではなく、この階層はおかしかった。
「……葵姉はん。うち、今日はもう帰りたい」
「えー? めっちゃ楽しそうなのに。あそこに突っ込んでさ、暴れまくりたくない?」
「そんなのアオイだけよ。とにかく、いくら『ウルトラハードモード』でも普通じゃないわ。仕切り直さない?」
「アタシも仕切り直しに賛成だ。万全の状態でやったほうがいいだろ」
「事前に作戦も立てたいですね」
「もう少し稼ぐつもりだったが、あれを見てしまうとな」
「今日は素直に終わりましょうか。盾を修繕に出したいですし」
この階層には、いままでにない数の骸骨くんがいる。もう都心の繁華街とか、お祭りみたいな状況だ。
まさにモンスター大フィーバー!
わっしょい、わっしょい、お祭りに参加しなくてどうするよ!
いやー、こいつはやりがいあるし、あれなら絶対めっちゃ稼げる。
ここが求めていた、理想の稼ぎスポットだよ。
サブクラスのゲットまで、ぐぐっと近づいたことは間違いないね。




