ちょっとでも幸運が必要!
雪乃さんも交えた状況で、わいわいみんなで話すのは楽しい。ダンジョン以外の時間も大事だね。
特に借金組の未来が明るい感じになったことで、雑談での話が弾む。
話題にはやっぱり、その未来を感じるきっかけになった、フォーチュン・オルタナティブが何度も登場した。
「あ、そういや思ったんだけどさ。あの宝石、全部売り払ったじゃん? 自分用にもほしくない?」
昼と夜で色が変わるとかカッコいいし、そもそも名前がカッコいい。オルタナティブだし。意味はわからんけど。
私の横に座るツバキもうなずいている。わかるようだね、オルタナティブの魅力が。
「幸運をもたらす石……うちも気になっとった」
「だよね。珍しい宝石らしいし、運がよくなるならほしくない? 今後の稼ぎに影響あるかも!」
「わたしも興味ありますね」
「梨々花、お前はギャンブル目的だろう? わかっていると思うが、借金はするなよ」
「ご心配には及びません。たしなむ程度ですから」
おお、なんかカッコいい。私もお金持ちとして、たしなみたい。
どこかの機会でリカちゃんにあれこれ教えてもらおう。カジノに行こう!
「アタシも幸運には恵まれてえな。だが本当に効果あるのかよ。いくらダンジョン産とはいえ、幸運なんて効果が曖昧じゃねえか?」
「縁起物として考えればいいのでは? お守りのようなものです。今回は稼ぎ優先で、自分たちのためにとっておくという発想がありませんでしたが……」
「それだよ、沖ちゃん! みんなのお守りにしようよ。マドカもほしいよね?」
「そうね。あたしは原石よりも、きちんとカットして磨いた状態の宝石がほしいけど」
いや、それは贅沢すぎるだろ。
「まだクランを作れたわけではないが、いっそのことフォーチュン・オルタナティブをクランメンバーの証にでもしてみるか? そろいのアクセサリーでも作って。ハンター稼業は運がいいに越したことはない。縁起を担ぐのも悪くないと思うが」
銀ちゃんがそんなことを言うとはちょっと意外だ。
「うちも、ええ思う」
「私もいいと思います。集めた結果、もし大きな原石があれば売りに出すとして、小粒のものはクランで確保しておきましょう」
「よーし、とりあえず借金の返済をやってさ、そしたらまた石集めに行こうよ!」
今度はリカちゃんのスキルでサクッと集めることは無理だから、モンスターからのドロップを狙うことになる。連係確認の意味も含めて、しばらく石集めをするのはいいと思えた。
私がレベル20に上がるには、まだまだたくさんの経験値が必要になる。
パーティーでやっていくなら、銀ちゃんたちの特訓も必要だし、いきなり深い階層でのレベル上げはできない。お金がたくさんいるといっても、最初は地道にやっていこう。
とりあえずは幸運の石をゲットするぞ!
「そういえばアオイ、クラン名をどうするか考えないと。なにか案はあるの?」
「おー、クランの名前ね。特に考えてないけど、カッコいいのがいいわ。有名なクランと似てても嫌だし、いろいろ調べないとダメかも」
やっぱいまの気分だと、どこかに『オルタナティブ』は入れたいね。カッコいいし。
「トップクランの中では『天剣の星』や『夜鴉の翼団』、『武蔵野お嬢様組』は特に有名ですね」
「近年で勢いがあるのは『紅の魔法愛好会』と『海風舞踊団』あたりも目立っているな」
ふーん?
私は全然知らんけど、クラン名ってそういう感じか。
「ちなみにそのクランの奴らって、どんなクラスの人がいるの? 私たちって、割とマジでひどいじゃん。参考に知りたいわ」
そいつらは私たちよりずっとレベルが高くて、サブクラスどころか上級クラスにだってなっているはず。有名人ならクラスも自慢げにひけらかしているに違いないし。
超絶カッコいいクラスなら、ちょっと参考になるし希望が持てるかもしれない。
まあ、私はそいつらをさらに超えたすっごいクラスになるけどね。
「アオイ、本当に知りたい? ショック受けるわよ」
「そんなにカッコいいの? 私だって未来はそんな感じになるはずだからさ、知りたいよ」
「じゃあ、いくつか有名なクラスを言うわね? パッと思いつくのは『月下に光舞う剣聖』『青き誓約の守護騎士長』『雷鳴の七天魔導士』、それと『救済を約束せし覇天聖女』、そのあたりかしらね」
はあ?
「ほかの有名どころでは『古の知恵継ぐ大賢者』『五行司る陰陽頭』『闇を纏いし華の勇者』も近年ではずっと活躍されています」
すらすらとマドカと雪乃さんが教えてくれた。
マドカはショックを受けると言っていたけど、感想としてはあれだ。
なんかもう私たちとは住んでいる世界が違うのかなって感じだ。ふざけんなという感想すら湧いてこない。
だって、私は『はぐれ山賊』なのに? マドカは『どん底アイドル崩れ』なのに?
リカちゃんなんて『不動の池ポチャ回収師』だよ?
本当に同じダンジョンハンターなのかよ。どんな格差だよ。
同じハンターって職業とはとても思えないわ。いや、マジで。
しかも絶対に、すごいクラスにはすごいクラススキルがあるはずだからね、その辺で格差があるに決まっている。
これはもう、あれだ。絶対に運も必要!
フォーチュン・オルタナティブの幸運を取り込んでいかないとだ。
そして、数日後。
青い腕輪を外した4人が、晴れやかな顔でクランハウスに引っ越してきた。
歓迎会でも開いてあげたいところだけど、それはまた今度だ。
ちょっと前から、全然レベル上げが進んでいないからね。
早く、早く!
7人パーティーになってから、あれこれ滞っているんだよ!
2週間の予定で甲府に入り、ひたすら宝石のドロップ狙いで地味な作業を繰り返す。
それでも本気の戦闘用スキルをリンクした状況での連係確認は、今後を見据えて入念にやるから退屈はしない。むしろ楽しい作業だね。そしてドロップがあれば嬉しいし、やりがいもある。
なかなか有意義と思える期間になった。
甲府でのダンジョン探索生活は、以前の富山遠征とは違って、サボることなく労働に勤しんだ。
ひたすら毎日戦い続け、ゲットした魔石の総数から約1,500体ものモンスターを倒す結果となった。がんばった!
「ドロップしたフォーチュン・オルタナティブは91個、ドロップ率は約6%でかなり確率が高いわ。完全にアオイの『ウルトラハードモード』の影響ね」
「通常は0.5%程度とか言ってたからな。しかも、アタシらは梨々花のスキルで拾い損ねが一切ねえ」
「さらに、その内の4個は粒が大きいです。91個は多すぎると思いますし、余剰分と大粒のもの、そして魔石を売れば結構な収入になりそうです」
第十階層のモンスターだと全然経験値稼ぎにならないけど、戦いの連係確認とお金稼ぎ、それと仲良くなる機会として思う存分活用できた。
なんにしても、目的のフォーチュン・オルタナティブがゲットできたのは嬉しい。これで幸運にまみれたハンター生活が送れるに違いないわ。そうに決まっているわ。
「雪乃さん。魔石と宝石売ったら、どれくらいになるんかな?」
「数が多いですからね。魔石だけでも2千万円以上、宝石は小粒のものはすべて残しても5千万円は下らないと思います」
「安めに見積もって7千万なら、実際にはもう少しいきそうですか」
「そうですね、銀子さん。鑑定や売却については、また蒼龍のところの柏木さんに相談してみます」
本当は巨大宝石が取りたかったけど、ちょっと大きめのくらいしかゲットできなかった。
巨大宝石、もしかして出ないのかな。いや、夢はあるよね。もっとがんばれば取れると思う。
とにかくだよ。ふいー、これでやっと準備が整った。
気になることが片付いて、ハンターとしての活動を本格的に進めていける。
実際のところ、私はレベル18でだいぶ足踏みしているからね。
ほかのみんなにもサブクラスを取ってほしいし、しばらくは本格的にレベル上げに集中したいわ。




