世の中、お金がかかります
フォーチュン・オルタナティブこと、紫翠変石を売り払った翌日。
さっそく、借金持ちの4人がクランハウスにやってきた。
「はい、これが内訳よ」
マドカが宝石の値段をまとめた紙をテーブルに置いてくれた。
いくらになったのかは、すでにメッセージを送って伝えていたけど、具体的な数字を見ると実感が湧きやすい気がするね。
紙には事細かな分類や数字とは別に、ざっくりまとめた数字も書かれている。こっちのほうが私としては見やすい。
それによれば。
0.3カラット以下の石が、679個で合計、395,514,000円。
4億近い!
1.0カラット以下の石が、105個で合計、230,094,000円。
2億3千万!
特別に大きな石が2個でそれぞれ、6,500,000円と15,000,000円。
全部で、647,108,000円となった。
うん、やっぱたった一回の成果にしてはでかいわ。でかすぎるわ。
「6億と4,700万……こいつはすげえ」
「パーティー7人とクランに入れる分を考えて……ひとり頭、ざっと8千万か。本当に借金をチャラにできるだけの金が手に入るとはな」
「ちょっとまだ現実感が薄いというか、なんというか」
「ふふ、よかったですねえ」
ホントによかったよ。これで本格的なダンジョン探索に集中できそう。
「銀子さんたちは、そのお金で借金を完済してください。もし揉め事になった場合には、詳細な報告をお願いします」
「わかっています、雪乃さん。おそらく問題なく精算できるはずです。貸主とはこれまで良好な関係を続けてきましたので」
「問題が起こるとすりゃあ、こんだけ稼いだ手段を聞かれることだな。それと銀子の取り立て能力を惜しがる場合もあるか。アタシら仕事の達成率はちょっとしたもんだったからな」
仕事のできる女たちだ。カッコいいわ。
「だからこそ、これまでの貢献は無視できまい。ほかの連中の目もある。それと念のため、頼れそうな伝手には声をかけておく。この日のために、方々で貸しを作ってきたのだからな。稼いだ方法についてはハンターとしての守秘義務で押し切る。これについて文句は言わせない。言われたところで誤魔化すだけだ」
微妙に心配だけど、なんとかしてほしいわ。もしもの時には私も殴り込みには参加しよう。仲間だからね。
あ、もしもの時には蒼龍のおっさんも誘ってあげようかな。なんせ山に5人は埋めてそうな奴だからね。血の気は多いに違いないよ。どうせ暇だろうし、誘ったらきっと喜ぶわ。うん、もしもの時にはそうしよう。
「では銀子さんたちには、まずそちらを清算していただきましょう。こちらには、いつ引っ越していただいても構いませんので」
取りまとめている雪乃さんがボスのようにしか見えない。頼りになるわ。
「ねえ、アオイ。そろそろ正式にクランの設立を目指さない? ギンコたちの問題も片付きそうなことだし」
「おー、そうだね。前に聞いたかもしれんけど、クラン作るとなにがいいんだっけ?」
たしか、お得なことがあった気がするけど。
「いくつもあるけど、わかりやすいのはクランランキングに参入できることかしらね。ランキングに応じて、医療関係費の補助とか、装備品の購入でも補助が出るようにもなるはずよ」
「ほかにも、ハンターとしての活動を目的とするためであれば、自動車や不動産の購入でも優遇措置を受けられますね。ほかにもいくつかの権限や支援も得られます」
「へえー、なんかよさそう。逆に損することはないの?」
うまい話には裏がある。それくらい知っているよ。
なんか嫌なことがあるんじゃないの?
「ないはず、ですよね。雪乃さん」
「損をするということはないですね。クランの設立条件を満たせるのであれば、できるだけ早く作ったほうが得です」
そうなんだ?
「じゃあ作るしかないね。条件って、私のレベルが20まで上がればクリアできる?」
クランマスターはレベル20以上でないといけないとか、そんな話があったと思う。
「設立の五条件と言われているわ。ひとつはアオイがいま言った、クランマスターのレベル。あとは拠点と所属人数、初期資金とクラン規約の準備だったはずよ。ですよね、雪乃さん」
「はい。拠点はこのクランハウスがありますし、所属人数は最低5人なので足りています。初期資金も問題ありません。あとはマスターのレベルとダンジョン探索実績として、最高到達階層が第二十階層以上であること。それとクラン規約の準備ですね」
ほうほう。だいたいクリアできてそう。
「なるほどー。私は神楽坂で第二十階層まで行ってるから、それはクリアだね。するとレベル上げと、あとクラン規約? それを作ればいいの? てゆーか、クラン規約ってなに?」
「クランの中での決まりごと、みたいなものかしらね」
「葵、あれはクランの活動方針をあらかじめ明確にしておくもので、行動規範や報酬についても定めておく大事なものだ。規約違反に対する罰則も明記するし、当然クランマスターも従う義務がある」
なんか難しい話だね。
「クラン規約にはひな型がいくつかありますから、それを参考に私のほうで準備します。あとで皆さんで確認して、中身の調整をしましょう」
そんなもの私には作れないからね。お任せしますわ。
ま、なんにしてもだよ。
「さっき雪乃さんが言ってたけどさ、みんな借金返して、早くこっちに引っ越してよ。これからバリバリ、レベル上げてお金も稼ごう!」
タワマンという目標はなくなったけど、お金はいくらあっても困らない。
ちょっと調べたところだと、すごい絵とか壺はうん億円とかするらしい。どうせなら私はすごいやつを買いたいから、全然足りない。私は超すごいやつか、超気に入ったやつしかほしくないからね!
「私からもお願いします。皆さんの活動は、これから想像以上の注目を集めると思います。嫌でも数々のトラブルに見舞われるでしょうから。可能な限りそれらを事前に排除、あるいはスムーズに解決するため、資金はいくらあっても足りないくらいです。ぜひ、たくさん稼いでください」
「たしかにな。葵とまどかは元より注目されている上に……」
「アタシらみたいなモンとくっついて、正式なクラン設立だ。そりゃあ、あることないこと言われるだろうな」
あー、そうなっちゃうのか。まったく、考えただけで鬱陶しいわ。
「マスコミ対策は必須よね」
嫌そうな顔でマドカも言った。過去にあれこれあったみたいだからね。
「投資や寄付の名目で、まずは可能な限りの味方を作りましょう。結局はそれがクランの力にもなります」
「うえーっと、それってつまり?」
「言い方は悪いですが、お金で味方を買う、あるいはお金で黙らせる、ということですが必要なことです。そういった事情もありますから、葵さん、皆さん、たくさん稼いでくださいね」
やっぱなんかおかしくない?
私たちったら、6億円以上のお金を稼いだばかりだよね?
別に無駄遣いなんて、まったくしてないよね?
なんか、早くも全然足りない感じ出てない?
稼いだら、その分出費が、増えていく。
永倉葵、心の俳句です。
うおいっ! 世の中いったい、どうなっとるんじゃ!
お金は湯水じゃねーんだよ! 湧いてこねーんだよ!
ふいー、なんか。活躍するって大変なことなんだね。
でもまあ、私はカッコいい上級クラスになれるまではがんばりたいからね。仕方ないのかな。
わかったよ、いっぱい稼ぎまくってやるわ!