埋蔵金発掘の試み
沖ちゃんのスキル『春雷歩法』を使って、すっごいスピードでダンジョンを走り抜ける。
スキル特有の普通ならあり得ない瞬発力で、浅い水を豪快にバシャバシャやりながら走る。めっちゃ濡れるのが嫌だったけど、だんだんどうでもよくなった。そうなってしまえば、なかなか爽快感があって楽しい。
普通ならすぐに魔力切れとなってしまう乱暴なスキルの使い方でも、私たちはいくつものスキルの連係によって無理なことを可能にしてしまう。
マドカのリンクスキルはどう考えても反則級だね。すごすぎる。
がははっ、これぞ将来有望なパーティーというものよ。
私たちったら、うぬぼれや誇張抜きにすごい気がする。これからもっと成長するのにね。
広大なダンジョン内の移動で、たぶん各フロアの移動距離は平均5キロくらいはあったと思う。もしかしたら、もっとかも。
スキルを駆使した怒涛の勢いで駆け抜けて、第十階層まで2時間半くらいで到着してしまった。
普通に移動したら、急いでも倍以上はかかったはず。かなりの短縮になったわ。
「ういー、結構疲れたー」
「はあ、はあ……あ、あまり飛ばすなと、言っただろう」
みんな体力ないね。様子を見ながら加減したし、いくつものスキルをリンクしているのにさ。特に『体力超人』なんてスキルまでリンクしているのに。
文句を垂れる銀ちゃんは、第十階層になってからちょっとだけ深くなった水の中に座り込んでいる。もう全身びしょびしょだから、関係ないって感じだ。
ほかのみんなも開き直ったのか、水の中に座り込んでしまった。まったく、マドカまで。優雅じゃないわねー。
それにしてもだよ。ここは最深部だからか、ちょっとこれまでの環境とは違う。
足首くらいだった水深が膝下くらいまで深くなっているし、風が結構強い。これは嫌な環境だわ。このダンジョンが人気ないのがわかってしまうね。
「モンスターいるから、ちょっと片付けてくるわ。みんなは休憩してていいよ」
サンプルの宝石狙いは私ひとりでやってもいい。ささっと手に入ればラッキーなんだけど。
どうせなら一発目から巨大な宝石をゲットしたいわ。景気よく巨大宝石、ドロップ頼む!
さーて、モンスターのトカゲくんは牛くらいの大きさかな。そんなのがいっぱいいる。
強そうには見えるけど、所詮は第十階層のモンスターだよ。敵じゃないね。
水が深くて歩きにくいし、風が強いのが地味に嫌だわ。まあ仕方ない、やりますかね。
足元をドボンドボン言わしながら、力任せに走った。
「おりゃー! 巨大宝石!」
近場にいたトカゲくんをハンマーのひと振りで光に変える。たぶん、パワー自慢のモンスターかな?
足を止めることなく走って、次のトカゲも次のトカゲも光に変える。反応は鈍いし、動き出しも遅い。なにか特殊能力があっても、あれなら使われる間もなく倒してしまう。
「幸先悪いね。巨大宝石どころか、ちっさい宝石も出ないじゃん」
雑魚すぎて戦っても面白くないわ。面白くはないけど、早くサンプルの宝石落としてくれー。
仕方ないね、走り回って巨大なトカゲくんを倒しまくろう。
「オラオラオラオラー!」
ドボンドボン走ってはハンマーで殴り、斧を投げ、たまに魔法の矢を放つ。いっぱいいるから、ストレス発散しながら倒しまくる。
巨大宝石、巨大宝石、早くこい!
トカゲくんは弱くてつまんないけど、暴れ回っていればちょっと楽しくなって調子も出てくる。どんどんいくよ!
調子に乗りまくり、気づけば転送陣からはだいぶ離れた場所まで来てしまった。
「うおっと、いったん戻るかな」
戻りがてらにトカゲくんを倒したら、光の粒子の中に魔石とは違うものを目ざとく見つけた。
「やった!?」
とっさにハンマーを手放して、素早く空中でキャッチ。ちっちゃいから、危うく風に流されそうだったわ。
「うおー、これって宝石だよね? 巨大じゃないけど」
もう何匹倒したわからんけど、殴って倒した場合には気をつけるようにしていた。やっと初ドロップだよ。
だいぶちっちゃな石は原石だからか、キラキラはしていない。それでも透明感ある緑色の石は綺麗だ。
水の中にいっぱいある水晶とは、どことなく違う感じ? でも混ざったらわからんかな。
うん、なかなかテンション上がるね。
邪魔なモンスターは倒しまくったし、巨大じゃないけど目当ての宝石は手に入れた。心置きなく戻るとしよう。
「おーい」
「あ、やっと戻った。アオイ、どこまで行ったのよ?」
「まあそこら辺よ。もう休憩はいいよね? 1個だけゲットしてきたよ」
「ゲットって、フォーチュン・オルタナティブ?」
「それそれ。空中でキャッチしたから、ドロップアイテムに間違いないよ」
ポケットから取り出してマドカに渡してやれば、みんなが近くに集まった。
「これはたしかに、水晶と見分けるのは難しそうね」
「水中に落ちたものは、これは目視では探せんな」
「ということは、やはり……」
「埋もれたフォーチュン・オルタナティブがたくさんある、可能性が高まったな」
思わずニヤついてしまうわ。お宝のにおいがすごいするね。
全員がちっちゃい石を手に取って見て、最後にリカちゃんが持つ。
「ちなみにそれって、いくらで売れるやつ?」
たしか細かく値段が違ったはず。
「見ただけではわからないわね。とにかく、そろそろ始めない?」
「梨々花、いけるか?」
「葵ちゃんがサンプルを持ってきてくれたので上手くできると思います。ではさっそく」
リカちゃんがスキル『広域回収』を発動するとだ。すぐに空中をちっちゃな石が飛んで集まってきた。それをリカちゃんは手を皿のようにして受け止めている。強い風にも負けず、いい感じだよ。
やっぱすごいスキルだわ。マジですごくね?
「うおおーっ、めっちゃ集まってんじゃん!」
「これが全部、ひと粒数十万単位で売れるのかよ。やべえな」
少しするとスキルの発動が止まった。
手の上に乗った小石を見たところ、ざっと数十個? それくらいはある。高値で売れる宝石が!
ただ残念ながら巨大宝石はないね。
「予想は的中だな。フロア内のすべてを回収するぞ」
「すべて回収……いくらになるのか、少し怖くなってきました」
「なに言ってんだ、瑠璃。この調子なら、一気に借金がチャラになるぜ? こいつは楽しみでしょうがねえ!」
まだまだここからだし、楽しみすぎるわ!
リカちゃんのスキルは範囲がかなり広いみたいだけど、ダンジョンのフロアのほうがずっと広い。
あと何回かは同じだけの宝石が集まるとすれば、これはちょっとした金額になるかも。
「どうせならモンスターも倒しまくろうよ。運がよければドロップするし、巨大宝石ほしいわ」
やっぱり狙いたいよね。
「そうだな。回収は梨々花に任せて、私たちはモンスター狩りに出るか」
「待って、それはやめたほうがいいわ。ここはいま、アオイの『ウルトラハードモード』のダンジョンよ? イレギュラーモンスターが出た場合、危険になるわ」
「イレギュラーだと? 滅多に出るものではないはずだが……」
「あー、たまにやたらと強いやつ出るよ」
「だからなるべく固まって行動したほうがいいの。回収はリリカに任せて、遠距離攻撃メインでモンスターは倒しましょ。周辺の警戒も怠らずに行くわよ」
みんなマドカの言葉を受け入れて、警戒をしつつモンスターは近づかずに倒す。
命中率の悪い私は魔法の矢を放ちまくり、銀ちゃんは丁寧に対物魔導銃の1発で仕留め、ツバキは呪いの人形で確実に倒していく。
あふれかえるほどのモンスターがいるわけではないから、3人の攻撃だけで十分に倒しきれた。
数時間もかけて広いフロアを丁寧にドボンドボン歩き回り、埋蔵金のお残しはないと判断した。
これはもう、やばいくらいの成果を叩き出してしまったかもしれない。しかも結構、楽々と。巨大宝石がゲットできなかったのは、めっちゃ心残りあるけど……。
「戦利品の確認はクランハウスに戻ってからやるとしよう」
「とりあえずはアオイが持っていて」
「うん、なくさないよ」
なくすわけないけどね。大金に化ける宝石と思えばちょっと緊張してしまう。
転送陣から地上に戻ると、ささっとシャワー室を使って、濡れねずみの状態からさっぱりな私たちになった。
そうしてから受付に行けば、おっさんが堂々と居眠りしていた。
「おーい、起きろー!」
「……あ、おう。悪い悪い。あー、もう帰るのかい?」
「そうそう、帰るよ」
「こんな時間か、居眠り運転には気をつけてな。そういえば、紫翠変石は取れたの?」
「バッチリね」
「それはよかった」
まさかの大量ゲットなんて、想像もできないだろうね。
ゲットした宝石をちょろっと見たら、昼と夜で色が変わるというのは本当だった。
あのダンジョンの中はずっと昼だから緑色だったけど、夜中のいまは紫色になっている。間違いなく本物だ。
徹夜の私たちは興奮しながら車での移動中もしゃべり倒して、一睡もしないまま東京に帰り着いた。
まだ日の出前の時間だから、のんびりと牛丼屋に寄ってからクランハウスに戻る。絶対、からあげ食べたい。
巨大宝石は取れなかったけど、雪乃さんにとびっきりの報告ができるね。
あー、やっぱ心残りあるわ。




