捕らぬ狸の借金返済計画
お金稼ぎの話題になると、どこのダンジョンはドロップ品が高く売れるだなんだと雑談タイムになった。
みんなの話を聞いてみれば、いろいろな特徴を持ったダンジョンがあるみたいで、ちょっとわくわく感が高まる。
私が知っているのだと、富山のガラスの森ダンジョンはポーションで有名だし、神楽坂ダンジョンは次元バッグ系のドロップですごい人気がある。
ほかにも特定の鉱石? が狙えるダンジョンがあったり、武具がドロップしやすいなんて言われているダンジョンなんかもあるらしい。
ただ、基本的にほしいものがあったら、ドロップを狙うよりも買ったほうが早いし確実に手に入る。だからお金が稼ぎやすいダンジョンが好まれるわけだ。よっぽど珍しいものでなければね。
神楽坂ダンジョンは都心にあって立地がいいし、高く売れる次元バッグが狙えて、おまけに中層くらいまではダンジョン自体の難易度が高くないらしい。それは人気になるわけだわ。
「あとは特定の好事家が珍しいダンジョン産のアイテムを求めている場合もある。入手は難しいが、確実に高値で売れる」
「そうは言っても珍しいモンってのは、ドロップを狙おうったって簡単にいかねえからな。なんかのついでに、偶然手に入ればラッキーってくらいなもんだろ」
まあそうだよね。簡単に手に入るものなら、わざわざ高値で引き取ろうとはしないだろうし。
私の『ソロダンジョン』だと装備品系は私専用になっちゃうから、お宝は持ち腐れまくっている。だいぶ前に手に入れた次元ルームには、そういった使わない物が大量にあるわ。もったいないことに。
「ポーションを狙うのはどうかしら? 富山ダンジョンなら第十階層でも、この辺のダンジョンよりは稼げそうじゃない?」
富山は楽しかったし、それはありかも。でもマドカのナイスな提案に銀ちゃんたちは渋い顔だ。
「そうしたいところだが、富山は遠い。準備が少しな」
「いちいち話をつけねえと、アタシら遠出は無理だからよ。思い立って急には行けねえんだ」
「蒼龍杯の予選の時も、決まった時点で交渉を始めましたからね」
「わたしたち、制限の多い身ですからねえ」
うわー、そういう問題があんのね。ままならないわ。
借金て辛い、自由が少ない!
「好事家の話で思い出したのですが、紫翠変石という宝石を知っていますか?」
いかにも何か思い出したような顔をしながら雪乃さんが言った。私は聞いたこともない宝石だね。なんだそれ?
「それってフォーチュン・オルタナティブのことですよね」
「その呼び名は通称ですが、まどかさんはご存じでしたか。とても珍しい宝石です」
「私は聞いたことがないな」
「ここでその話が出るってことは、どこぞの好事家がほしがってるってことか?」
「そういうことです。山梨県の甲府ダンジョンでのみ、ドロップが確認されている希少な宝石です。ただ、ドロップ自体が非常に稀なことだったと記憶しています。もし小粒のものではなく、一定以上の大きさのものが手に入れば、かなりの値がつくのではないかと」
へえ、そんなのがあるんだね。
「あ、もしかして。アオイのスキルなら、ドロップ率のアップや大粒が狙えるかも?」
「可能性の話ですが、そう思いました。それに甲府ダンジョンは第十階層までしかなく、皆さんであれば危険も少ないのではないでしょうか?」
「雪乃さん、それは詳しく調べてみる価値があるな。甲府なら車で2時間程度……なんとかなるか。皆はどう思う?」
「もっと具体的な情報がほしいな。通常のドロップ率とか、売り値はどうなんだ? 最悪、小粒でもそこそこの値段になるなら、無駄足にはならねえかもな」
「いま調べてみましょう」
なんか方針が決まりつつあるっぽい。
でも宝石狙いなんてロマンあるわ。それに珍しいお宝なんだよね? ちょっと宝石自体にも興味が湧く。
「ねえねえ、フォーチュン・オルタナティブ? それってどんな宝石? 名前からして、めっちゃカッコいい感じするわ」
オルタナティブってなんだよ、カッコよすぎだろ。どういう意味かわからんけど。
「これを見てください」
雪乃さんがタブレットに表示した画面には、綺麗な宝石の写真があった。これがそのフォーチュン・オルタナティブ?
「へー、緑のやつと紫のやつ? 種類があるんだ」
「フォーチュン・オルタナティブは紫翠変石といって、昼は美しい緑色に輝き、夜になると神秘的な紫色に変化する珍しい宝石です。さらに所持者に幸運をもたらす特殊効果があるとされています」
「ラッキーになれるの? すごいじゃん」
昼と夜で色が変わるなんて面白いね。普通にほしいわ。このクランハウスに飾るのもいい。
というか、そういうのをコレクションするのだって悪くないよね。
ハンターとして長くやっていくなら、いろいろな目的を作りたい。そのほうが面白いし。
「いや、これは厳しいぞ。甲府ダンジョンの環境が厄介だ」
今度は銀ちゃんが自分のスマホを見ながら、眉間にしわを寄せている。
「どうしたんだよ、銀子」
「これを見ろ。甲府ダンジョンの写真だ」
どれどれ。テーブルに置かれたスマホを覗き見ると、綺麗な風景写真が表示されている。
全体的に緑色っぽく輝いて、神秘的な環境っぽい。なにがどうなってんのか、全然わからん。
「ここは別名、水晶と水のダンジョンと呼ばれているらしい。見ろ、地面が水で覆われている。水深は数センチ程度の浅さだが、水の下は粒状の緑の水晶がびっしりと敷き詰められている」
富山はガラスの森で、甲府は水晶と水? カッコいいね。
「待てよ。その紫翠変石ってのは緑色なんだろ? 水晶と混ざったら見分けがつかねえじゃねえか。それともダンジョン内で夜の時間があんのか?」
「ずっと昼間らしい。稀に宝石がドロップしても、地面に落ちれば見分けがつかんようだ。しかも浅いとはいえ水中だ。さすがに大きな粒が落ちれば、見分けは付くだろうが」
「え、この水晶は売れないの? どっさりまとめて持って帰るとかは?」
「クズ水晶は売り物にならないわね」
「確実にドロップした宝石を持ち帰れるならまだいいが、ハズレばかりなら鑑定料だけで赤字だ。しかも稀にドロップでは稼ぎにならん。このサイトによれば、ドロップ率は0.5%程度。おまけにモンスターの数も少ないらしい」
超たまにしかドロップしない上に、そもそもモンスターが少ないだって? しかも地面に落ちたらクズと見分けがつかない? 無理じゃん。
「あ、鑑定だよ。鑑定の道具があれば、現地でちゃんと拾えない?」
「ざっと見回しただけで、鑑定なんてできるもんじゃねえ。水中から拾い上げて、ちゃんと確認しねえとな。そんなもん、やってられねえだろ。よっぽど暇な変人ならともかくよ。まあクズ水晶ごと、ごっそりまとめて外に持って帰って、夜の時間に確認すりゃあ本物だってわかるが……それじゃ確実とは言えねえな」
おおう、それはそうかも。私の鑑定モノクルでも同時にたくさんの物は鑑定できないし、パッと見ただけであれが宝石だよとはならないね。
でもまあ、ちょっと時間をかければやれないことはない。なら一応、イケるかな?
「待ってください。それって、わたしのスキル『広域回収』でなんとかなりそうじゃありませんか? 一つでもサンプルが手に入れば、の話ですけど」
瞬間、時間が止まったような感じになった。
よくわからんけど、スキルを使った回収方法なら簡単にやれそうってことだよね。すごくね?
「それだ、梨々花。お前のスキルなら、誰かが残したモノもまとめて回収できる……かもしれん。初めのドロップが鍵になるが」
「リカちゃん、こいつは一獲千金だよ! すっげーことになるよ! 私ったら鑑定の道具持ってるし!」
「マジか? だったらやれんじゃねえか?」
「雪乃さん、フォーチュン・オルタナティブって、いくらで売れますか?」
いくらになるの!
「常に好事家や企業が原石を求めています。相場は品質によって変わり、0.1カラットで20万円から40万円程度のようですね。細かく重さと品質によって値段が変化します。原石でも1.0カラット以上のものは、極めて珍しいようなので、もしこれ以上の大物が取れた場合には、きっとかなりの値がつくと思います。今後のクラン運営を考えると、お金はいくらあっても困りません。期待していますよ」
えらいこっちゃ。ホントに一獲千金の感じになってきたね。
大粒はともかく、小粒は拾い損ないをかき集められるかもしれない。私はソロダンジョンに入らないといけないから、今回の場合は別行動になるのかな。
それでも私が最初の1個を手に入れれば、それをリカちゃんに渡してババンとやれるよね?
あ、でも似たようなことをこれまで別の誰かがやっていないとは限らないのかな。
なんにしても試す価値はあるよね。それにお宝を求めるハンターっぽい感じでわくわくする。
こいつは面白くなってきたわ!




