インパクト強めの自己紹介
新メンバーを迎えての改まった自己紹介タイム!
なんだか、ちょっと緊張しちゃうわ。
まずは私たちが軽妙でいい感じの自己紹介を済ませ、今度はそっちの番だと言い放つ。流れに乗って、ぶっちゃけてほしいよね。
とりあえずは端っこに座る人に目線をやってウンとうなずく。
銀ぶちメガネに黒スーツのお姉さん、あんたからだよ!
「わかった、では我々も包み隠さずいこうか。以前、立ち話では一度話したことがあったが改めて」
あれ、聞いたことあったっけ?
まあいいや。4人のまとめ役のお姉さんは、そう言いながらピシッと背筋を伸ばした。いい姿勢だね。
「私は大蔵銀子だ。22歳のレベル17、クラスは『崖っぷち債鬼』という。借金は4,700万、前科は暴行と恐喝だ。前科の経緯としては、債権の回収絡みでトラブルがあってな。借金はその仕事で下手を打ったツケだ。それと好物はお好み焼き、酒は苦手だ。今後とも、よろしく頼む」
ええ、なによ。その自己紹介。付け足したように好物とか言われても。とにかく借金の額と前科の内容を自己申告するとか、インパクト強すぎなんだけど。
よろしく……したくねー気がしてきちゃったけど、もう仲間にするって決めたからね。
「沖田瑠璃、18歳です。レベルは15、クラスは『逃亡さんぴん侍』です。借金は5,800万円で、これは親族が騙された結果背負うことになりました。賭博の前科も親族が賭博場を運営していた事件に関連してなのですが……」
「自分では言いにくいだろう? 私から補足する。瑠璃は知らずにその賭博場を訪ねてしまい、事件に巻き込まれただけだ。それ以前からも親の借金の都合で夜逃げを繰り返していた。私と違って、瑠璃自身に落ち度はない」
あー、うん。マジかよ。沖田ちゃん、不幸すぎない?
しかも逃亡さんぴん侍って。生い立ちからしてそんなクラスになったっぽいね。あの強い沖田ちゃんからは想像しにくいわ、ホント。
気まずい空気が流れる中、それをぶち壊すように手を叩いたのは派手なワンピースのお姉さんだ。
「次はアタシだな。アタシは黒川まゆ、21歳。クラスは『やけくそ闇落ち夜鷹』で、レベルは16になったばかり。借金は4,300万の、前科は詐欺。詐欺はスケベ親父を騙したツケだが、借金はアタシも詐欺に遭っちまってな。詐欺師が詐欺師に食われるなんて、恥ずかしくて誰にも言えねえよ。ははっ」
笑いごとじゃないですが。いや、まあ笑うしかないか。
このお姉さんもまた、ひっどいクラスしてますわ。なんだよ、やけくそって。
騙して騙されての人生なら、そんな枕詞にもなるのかな。もう笑ってしまうわ。笑うしかないわ!
「最後はわたしですね。水島梨々花、歳は19です。レベルは15で『不動の池ポチャ回収師』という珍しいクラスを得ています。以前はゴルフ場でロストボールを回収する仕事をしていましたが、縁あって銀子さんたちと一緒に働いています。借金は3,500万円でして、前科は賭博罪と窃盗罪です。わたしの場合はどちらも自業自得ですが、いまは反省しています」
反省しているなら……うん、まあいいんじゃね?
フェミニンな優しい雰囲気で美人のお姉さん。そんな人が騙されたとかではなく、自業自得の借金と前科ですかい。人は見かけによらないわ。
クラスも意味わからんし。なんだよ、不動の池ポチャ回収師って。なんなんだよ、それ!
「察しはつくと思うが、私は自分の借金以前から借金取りの仕事をしている。そうした中で見込みのありそうな連中に声をかけ、私の仕事を手伝わせると同時に、金稼ぎの足しに全員でハンターをやっていたというわけだ」
「あ、そうすか」
しっかし、改めてだよ。
なんだ、こいつら。どいつもヘンテコなクラスだし、結構ハードな人生送ってない?
私も若い身空でちょっとは苦労してるよね、と思っていたけど、そんな大したことなかったわ。
やっぱ、世の中広いね。
それにしてもだよ。ふーむ、なるほどね。ある程度のことはわかっていたんだよ。
金額までは知らなかったけど借金があることや、具体的な経緯はこれまたわからんけど、前科があることも夕歌さんのファイルでわかっていた。
でも本人たちからバシッと聞くと、なかなかインパクトがすごい。
マドカたちみんなも、それなりに理解や想像はしていたと思うけど、私と同じく少しばかり呑み込むのに時間がかかるよね。
仕方ないよね。でもそんなことはいいんだよ。うんうん、そうだそうだ。
あくまで私はダンジョン探索で頼れる味方になると思ったから、こうして仲間に迎え入れたのだ。過去ではなく、未来を考えた結果だから。
そうだよ、後悔は全然ない。後悔しているなら、いまからでも叩き出すし。
うん、前向きにいこう。
このメンバーなら、成りあがれる! そうに決まってる!
「……よし。まずは親睦を深めるために呼び方を変えようよ。私のことは永倉でもスカーレットでもなくさ、親しみを込めて葵って呼んでよ。大蔵銀子さんのことは、そうだね、銀ちゃんって呼ぶわ。沖田ちゃんは沖ちゃん、黒川さんはまゆまゆ、水島さんはリカちゃんって呼ぶわ。いいよね? みんなも堅苦しい呼び方は禁止だから」
断られてもそう呼ぶけど。もう決めたけど。
「ぎ、銀ちゃん? 私がか?」
「ははっ、いいじゃねえか。アタシもそう呼ぶかな」
「やめろ。いや、しかしお前も、その、まゆまゆ……はいいのか?」
「アタシにピッタリなあだ名じゃねえか、可愛いな」
悲惨な自己紹介で寒くなっていた空気が、いい感じに和らいだね。我ながらいい仕事しましたわ。
「沖ちゃんですか。では私は親しみを込めて、葵と」
「わたしは葵ちゃんって呼びますね」
うんうん、オッケーだとも。
「ギンコ、ルリ、マユ、リリカ、あたしは名前で呼ばせてもらうわね。あたしのことも同じように呼んで」
「おう、まどか。雪乃とつばきも、よろしくな」
「こちらこそ。まゆさん」
「……まゆ姉はん」
ツバキもどことなく嬉しそうな感じだ。
やっぱり呼び方ってのは大事だね。これだけで距離が近づいた気がする。
慣れるために、わざと名前を呼んだり呼ばせたりして、わいわいとした時間を過ごした。
「さてと。とりあえずなんだけど、銀ちゃんたちってここに引っ越せる? 前に借金絡みで、あのぼろビルに住まわされてるとか言ってたけどさ」
「それなんだが、完済するまで移動は無理だ」
「やっぱそうなんだ。借金取りの仕事もサボれないんだよね?」
「契約がある。それをやっているお陰で、利息の支払いでも融通が利いていた。回収の仕事に穴も開くし、簡単にやめさせてはもらえんだろうな」
なるほどね。
「じゃあ、まずは借金をきれいさっぱり返さないとだ」
さすがに私たちが肩代わりとかは嫌だし、今後もずっと一緒にやっていくことを考えたら、お金の貸し借りはやめたほうがいいよね。
恩を着せるみたいで、やりにくくなっちゃう。別に頼まれてもいないし、それこそこっちから言うのは恩着せがましいわ。
ただ、ちょろちょろ返済していくのは、まどろっこしい気はするね。
どうしたら効率よく稼げるかな。
ダンジョンに集中できれば、神楽坂ダンジョン第十七階層でひたすら魔石を集めまくる手は地道だけど堅実だと思う。あそこで稼ぎに徹すれば、7人で割っても100万円くらいは1日で稼げるはず。
でもいまの銀ちゃんたちだと、第十七階層にはついてこれないからね。おんぶにだっこ状態なら、お金をあげているのと変わらない。
なんかいい手はないもんかねえ。
ドバンと一気に稼げたらいいのに。
あ、そういえば。いやー、さすがにギャンブルはやめておこうかな。
うん、さすがにね?




