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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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111/218

ほぼ埼玉の拠点

 なんやかんやで年末とお正月は、働かずにまったりと3人で過ごした。

 沖田ちゃんたちは借金取りの仕事が忙しく、思ったよりもダンジョンに行けた回数は多くない。

 それでもお互いの関係性は深まっていて、肝心のハンターとしての相性は悪くないどころか、予想どおりかなりいい感じだったと思う。これは気のせいではなく間違いない。


 まだ正式にパーティーを組むと確認したわけではないけど、そうなる流れにはなっている。

 うだうだしていても仕方ないから、リーダーとしてバシッと決めてしまおうかな。


 ぼんやりとした正月の空気が色濃く残る中、タクシーでの移動中はどうにも物思いにふけってしまう。

 休みボケもあるし、心も体もちょいとなまっている感覚がある。

 もうちょっとしたら、バリバリ働いてサビを落とさないとね。


「アオイ、起きて。そろそろ着くわよ」


 眠ってはいなかったけど、優しく揺すられて閉じていた目を開ける。


「んあーっ! 練馬のにおいがしてきたと思ったわー」

「どんなにおいよ。ツバキも起きて」


 わいわいしていると間もなく目的地に到着した。久々の練馬だ。

 どでかいお屋敷の壁は、どこまで続くように長い。改めて、すっごいのをもらったもんだよ。

 いまいち実感が湧かないけど、このすごいお屋敷は私がもらったんだよね? えらいこっちゃ。


 とにかく今日からは、ここが私たちの家となるクランハウスだ。

 いやあ、それにしても立派だねえ。ちゃんとクランを設立できたら、クラン名を書いた看板とか飾ろう。あ、クラン名はどうしようかな。


「葵さん、こちらですか」

「そうだよ、でっかい家だよね」


 もう1台のタクシーから降りたのは雪乃さん含めた3人。

 未来に作るクランの4人目のメンバーである、源雪乃さん。そして雪乃さんが連れてきた、ふたりの女の人。3人ともまだ肝心の屋敷も庭も見ていないのに、立派な門と壁を見ただけで感心した様子だ。


 代表してピンポンを押そうとしたところで、門の横手の小さな扉が開いた。


「おいすー、執事さん」

「永倉様、おはようございます」


 ザ・執事としか言いようのないスタイルの紳士が登場だ。

 この人に会うのは二度目だし、電話で何度か話している。もう驚かないよ。


「皆様もおはようございます。お約束のとおり、引き渡しの準備が整ってございます。どうぞお入りください」


 開かれた扉から中に入れば、そこは立派な庭園だ。

 真冬でもバラがそこら中で咲きまくり、噴水やらよくわからんオブジェやらで、お金持ち感あふれまくっている。

 やっぱここ、とんでもないわ。こんなんホントにもらっちまっていいのかな?


 真っ白いタイル張りの道を執事に続いてゆっくりと、庭の見物を兼ねて歩く。

 初めてこれを見る雪乃さんたちも、アホみたいに立派な庭には感心した様子だね。


 ちょこっと歩いて洋館に到着すると、執事が丁寧な手つきで扉を開けてくれる。

 前の時にはメイドさんが出迎えてくれたけど、今日はいないみたいだね。というか、人の気配が全然ない。

 靴を脱いで上がりつつ、一応聞いてみるか。


「執事さん。今日は蒼龍のおっさんはいないって聞いてたけど、ほかの人たちもいないの?」

「はい。引き渡しが済みましたら、わたくしもおいとまいたします」


 どおりで人の気配がしないわけだ。

 蒼龍のおっさんがいれば、今回は手土産くらい渡したのにね。電話では忙しいとか言っていたけど、とうの昔に引退したジジイが、忙しいことなんてあるわけないのに。まったく、見栄を張っちゃって。


「ありがとね。じゃあ、雪乃さん。あとはたのんます!」

「もう。ここはアオイがもらった家なのよ?」

「でもみんなのクランハウスだよ。それに雪乃さんにいろいろ管理してもらうから」


 マドカは呆れた顔をしているけど、ここは私だけの家とは違う。

 雪乃さんを見れば、その笑顔が頼もしい。頼りたくもなるよ。


「わかっています。私のほうで引継ぎはしますが、葵さんも聞くだけ聞いてくださいね」

「ほーい」


 応接室に入ったら、あれこれと書類にサインをしたり、分厚い冊子を渡されたり、なんだかんだと意味のわからん説明をされたりした。

 しょっぱなから激しく眠くなったけど、がんばって気合で起きていた。


「――では実際に確認いただきましょうか」

「はい、ありがとうございます。葵さん、大丈夫ですか?」


 終わった……んだよね?

 ふいー、私くらいの気合と根性がなかったら、とっくの昔に気絶していただろうね。

 それにしても人間には、やっぱり向き不向きがあるわ。


「くあーっ! 雪乃さん、あとはお任せしていい?」

「ふふ、仕方ないですね。ここで休んでいますか?」

「ちょっと真のクランハウスのほう見てくる。マドカとツバキはどうする?」

「あたしは雪乃さんたちと一緒に、お屋敷と庭の設備を確認するわ」

「……うちは葵姉はんと一緒にいく」


 ツバキはほぼ寝てたよね? いま起きたよね? 寒いから庭に出たくないだけだよね?

 まったく、仕方のない奴だよ。


「じゃあ、また後でね。ツバキ、行くよ」



 まだ眠そうなツバキの手を引いて、おぼろげな記憶を頼りに屋敷の中を歩く。

 我が物顔で歩く。ここはもう私の家のなんだよ。マジかよ、すっげー!


 お、あれだあれだ。

 左右の壁に大きな窓のついた渡り廊下。その突き当りには、洋館には全然似合わん未来的な扉がある。


「たしか、このパネルに手をかざせば……開いた!」


 シュイーンと扉が横にスライドして無事に開いた。前の時にもやっていたはずなのに、ちょっとドキドキしたわ。


「葵姉はん、うちも」

「うんうん、ツバキもやったんなさい」


 やりたいよね。シュイーンとさ。

 自動で閉まった扉をツバキがシュイーンともう一度開いたら、今度こそ中に入る。


「おー、いいね」


 天井吹き抜けの空間は、広々としていて気持ちがいいわ。

 クランハウスとしての本体がこの建物だよ。ゆくゆくは広いこのロビーで、暇なメンバーがくつろいだり、おしゃべりしたりするのかな。

 高価な感じの家具は撤去されず、そのままにしてくれているから、わざわざ買い集める必要がないのも楽でいい。

 いつか家具とか内装とかにこだわるようになったら、その時にはバンバン買い替えよう。絵とか壷は絶対買う。


「今日からここに住むんだよ。まずは自分の部屋決める?」

「まどかおねえと雪乃はんはええの?」

「早い者勝ちだよ。まあ部屋はいっぱいあるし、どこを選んでも別に大丈夫じゃない?」

「それもそうやな」


 共用部は前の時にひととおり見ているから、あとは実際に使う時にまた見ればいいかな。

 やっぱり自分の部屋になる場所が重要だよね。


 たくさんある部屋の間取りはどれも大差ないらしいけど、それでも全部同じわけではない。

 日の差し込み方とか、バラの咲きまくる庭の見え方も違うだろうし、このロビーからの移動距離も一番近い部屋と遠い部屋なら結構違うと思う。


 いろいろ考えて、どこにするか決めないと。

 うおー、超わくわくするわ!

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