表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/210

文明レベルがアップした夜

 ほかほかの牛丼と豚汁、おまけのサラダ。


 こんな贅沢していいのだろうか。

 いや、客観的に、冷静に考えて現代日本でこれを贅沢とは言えないはず。でもいまの私にとっては、全財産の半分も投入する贅沢には変わりない。

 王様のような気分になりながら、存分に贅沢な時間を楽しんだ。


 大丈夫。第二階層で取れる魔石の売却価格は、どどんと跳ね上がると聞いた気がする。

 先を見越した、堅実な消費と言えるだろう!

 まずは体力をつけないと。ダンジョンハンターは体が資本だからね。


 お腹いっぱいの状態でまたダンジョンアタックをキメる気にはならず、食休みを兼ねて涼しい図書館に入ることにした。

 端っこのソファー席を陣取り、ダンジョン管理所でもらったパンフレットや冊子に目を通す。


 ソロダンジョンでは誰にも助けを求められない。余分にレベルが上がったから、第二階層のモンスターに負けるわけはないと思いつつも、ちゃんと予習しないと。


「げー、第二階層はネズミのモンスターか。やだなあ」


 第一階層のダンゴムシと同じくらいの大きさで、大ネズミと呼ばれるモンスターのようだ。

 おとなしいダンゴムシくんとは違い、ネズミは生意気にも攻撃するらしい。


 冊子によればネズミの攻撃力は低く、安物でも防具を全身に身につけていれば怪我をする心配はないようだ。

 特に足回りを固めておけば、怪我の可能性は無視できるほど下がる。ネズミの防御力については、あのダンゴムシよりずっと弱いくらい。


 問題はちょろちょろした動きで案外素早いこと。ダンゴムシくんとは違って、予測が難しい動きが多そうなイメージがある。初めて戦う場合には苦労するかもしれない。


 私の防具はちょっと心もとないけど、肝心の足元はロングブーツがあるから何とかなりそう。

 攻撃のほうも防御力がダンゴムシ以下なら、倒す分には問題ないと思う。

 やっぱり、ちょろちょろ動く的にハンマーやキックを当てられるかどうかだ。これはやってみなければ、わからない。


 地図を見る限り、第二階層の構造は基本的に第一階層とあまり変わり映えしない。

 違いは碁盤の目状に走る通路が、場所によって行き止まりになっているパターンがそこかしこにあるくらいだ。

 そして期待の隠し部屋はひとつきり。でも、あるだけありがたやー。


 まあ、こんなもんかな。あとは実戦あるのみ。

 落ち着いたら急激に眠くなってきた。

 周囲には居眠りを決め込む人たちが多いし、遠慮なく寝てしまおう。ダメなら怒られるだけだ。


「……ぐう」


 ……

 …………

 ………………


「起きてくださーい。閉館時間ですよ、ほら」


 面倒くさそうな、義務で仕方なくやっているような、そんなやる気の感じられない声で目が覚めた。

 ぼやけた視界に映ったのはおばさんだ。


「あっ! 汚いな、このガキ。よだれ垂らしてんじゃないよ!」


 なんかいきなり怒鳴られた。これ私に言ってるよね?

 腰のポーチの存在だけ手で確認して、そそくさと立ち上がって退散する。

 世の中には短気な奴もいたもんだ。嫌だねえ。


 すっかり日の暮れた街を歩いて、思い立ってコンビニに入る。

 今後の稼ぎに期待して、なけなしのお金をはたいてタオルと菓子パンを買った。

 人目がないことを確認しつつ、公園で顔を洗って体も拭く。嫌だねえ、宿なし生活ってのは。

 でもタオルのお陰で文明レベルが上がった。はー、気持ちいい。


 身綺麗にして噛みしめるように菓子パンを食べたら、そろそろ労働の時間だ。

 稼ごう。でなきゃ野垂れ死ぬ。


「たのもー」

「いらっしゃーい」


 相変わらず眠そうなお姉さんだ。ほかに誰もいないし、眠くなるのは仕方ないのかな。

 もう慣れたもので、言われる前に身分証をカウンターに差し出す。


「お姉さん、私ったらもうレベル4だから。スキルもまた増えたし」

「また? すごいけど、あんまり他人に言ったらダメよ? でももうレベル4なんだ」

「ダンゴムシ殺しまくったからね、がんばった。これから第二階層に挑戦するよ!」

「そういえば、次元ポーチ手に入れたんだって? その白いの?」

「うん、そう。微妙とか言われたスキルの『ソロダンジョン』てさ、案外いいよ。武器とかも手に入ったし」

「そうなの? 見せてよ」


 よほど暇なのだろう。話し相手ができて嬉しいのかな。まあいいけど。


「仕方ないなー。ほら、なかなかいいでしょ?」


 ハンマーとブーツを見せてあげた。


「へえ、結構いかついね。それなら第二階層どころか上層には十分そう。鑑定はした?」

「鑑定?」

「具体的な能力を調べられるのよ。どうする? 記録も取るから時間かかるけど。あとお金もかかるけど」


 それはお話になりませんな。


「お金ないから無理。明日のご飯代もないんだから」

「じゃあ頑張らないとだ」

「そう。ちなみに第二階層で取れる魔石って、いくらになるっけ?」

「えーっと、普通の魂石で50円、高品質なら300円、色付きなら700円になるわね」


 全然、違うじゃん。

 第一階層とはもう全然、違うじゃん。


「第二階層からは、それなりに危険があるってことよ。それに普通は高品質の魂石なんて、なかなか落ちないから。ひとつ300円の見込みで計算するのはおかしいことだからね?」

「それでも50円でしょ? これまで必死に10円集めてた私からすれば、一気に収入アップ!」

「もう一度言うけど、ダンゴムシと違って大ネズミは攻撃してくるからね? ホントに気をつけてよ、上層でもソロは危ないんだから」

「わかってる、わかってる。ほんじゃ、いってきまー」

「ホントにわかってる? 無謀な挑戦は絶対ダメだからね? 危ないと思ったら、すぐに引き返すのよ?」


 はいはい、わかってるって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
少し過疎風のダンジョンで働いてくれるハンターが育ってほしいって気持ちも勿論あるでしょうけど、それでもこうやってアドバイスしてくれたり、こんなのがあるけどお金かかるよって教えてくれるお姉さん優しい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ