みんな個性が長所です
慣れない人たち相手で、人見知りを発動中のツバキはずっと無言を貫いている。
そんな妹の精神状態が気になるのか、マドカは心配そうに近くで話しかけていた。仲良きことは美しいね。
よし、ここは私が話を進めようではないか!
初めてウルトラハードモードのダンジョンで戦った割には、冷静に上手くやっていたように思う4人組だよ。
気になったことをバンバン聞いてみよう。やっぱスキルが気になるわ。
「じゃあさ、あの『止まれ』ーってやつと霧のスキル? あれってなんなん? モンスターがおかしくなったよね」
振り返ってみると、あれが一番変だったかな。
「ウルフの動きを止めたのは、私のスキル『静止の蛮声』だ。効果があるかはわからなかったが、瞬間的に止めることはできたようだな」
ほーう? 動きを止めるって、単純だけどかなり強いね。
「霧のほうはアタシの『酩酊の霧』だ。さっき『酩酊の濃霧』に強化されたみたいだがな。まあその名のとおりに、霧を吸わせて酩酊状態にしちまうスキルだ。それに合わせて、もうひとつのスキル『耐性喰い』も使った。こいつもその名のとおり、対象の耐性を弱体化させる効果がある。どうだ、使えるだろ?」
「え、強くね?」
「だろ?」
沖田ちゃんは、4人の役割が前衛と後衛、それにサポート役が2人と言っていたね。このキャバ嬢スタイルの派手なお姉さん、サポート役として超優秀なスキル持ってるわ。
「そっちのお姉さんは? 盾でがっちり防いでたし、魔石もスキルで集めてたよね? あれ、めっちゃよくない?」
ごつい白の鎧にごっつい盾のフェミニンお姉さん。この人も謎だった。あの装備からして、沖田ちゃんと同じ前衛クラスのように思えたけど。
「あれはわたしの回収スキルで、とても重宝しているものですよ。スキルが強化されたので、とてもありがたく思っています。あと防御スキルは『不動防御』といって、動けない代わりによほどの攻撃でもはね返せます。でも戦闘はあまり得意ではありませんね」
このお姉さん、しゃべり方と声がいいね。優しい感じで聞き心地がいいわ。
「梨々花には後衛の守りか、おとり役を任せることが多い。防御面では非常に頼りになる」
「ほうほう。攻撃はできないけど、すっごい防御能力があるってことかー」
「ほかに『精神安静』のスキルを持っていますので、精神系の異常にも耐性があります」
「へー、ちゃんとした強みがあるのはいいことだね」
「ありがとうございます」
ニコニコ笑顔も素敵ですわ。
そして魔石の回収スキルを持っていると。特にそれがうらやましすぎる。
私たちは大量にモンスターを狩りまくるから、魔石を拾い集めるだけで毎度ちょっと大変だからね。
「そこに沖田ちゃんの攻撃能力が加わるってわけね。蒼龍からもらったあの刀、めっちゃ強そうじゃん」
「これはいまの私には分不相応かもしれません」
「んなことはないよ。使えるもんはバンバン使わないともったいないわ」
ふーむ、それにしてもだよ。私が思った以上に、沖田ちゃんたち強いかも。
スキルの組み合わせがめちゃいい感じ。これまで4人でやってきただけのことはあるね。
あとは銀ぶちメガネの銃の腕前を活かせる強い武器さえあれば、もっともっと強くなるわ。
「大蔵さん、あたしからもいいですか?」
ツバキとの話が終わったのか、マドカが入ってきた。
「なんでも聞いてくれ。そちら以上の秘密など、我々にはないからな」
「では借金と犯罪歴について少し聞いても? 話しにくいことだとは思いますが」
「聞かれなければ、こちらから話していたところだ。そうだな、では私から話そう――」
細かい話はマドカに任せて、ちょっと想像してみる。
この4人と私たち3人が組んだらどうなるか。
接近攻撃が私と沖田ちゃん、マドカも散弾銃とバトンで攻撃に加わって、ツバキと銀ぶちメガネが後ろから援護する。
派手な女のサポート能力でモンスターを弱体化して、後衛組をごつい鎧のお姉さんがバッチリとガードする。
ツバキはモンスターに近づかれても粘れるスキルがあるから、防御役のお姉さんの力も合わされば、いきなりピンチになることはたぶんなくなる。ほぼ万全になるよね。
攻撃担当の私たちは味方の守りをあまり気にする必要がなくなって、自由に暴れまわれる。
私とマドカと沖田ちゃんで連係して戦って、遠い位置にいる面倒なのはツバキと銀ぶちメガネに任せたっていい。
戦い終わったあとの魔石回収なんて、スキルでパパっと終わりにできる。
聞いてみないとわからないけど、リンクしたら便利そうなスキルも4人のうちの誰かは持っていると思う。
現時点での実力はともかく、組み合わせと将来性はなかなかすごそう。
この7人パーティー、めっちゃ強くなりそうじゃね?
問題は沖田ちゃんたちの借金関連と、性格が合うかどうかだよね。
でもこの期に及んで、そんなもんはどうでもいい気がする。
お金はたくさん稼げるから、どれだけの借金があろうが、もう絶対に返せるはず。
性格の問題なんか、どうでもいいっちゃ、どうでもいい?
いやー、大事は大事かな。ただ一番重要なのは、ダンジョンでどれだけ協力して動けるかどうか。いまの時点では嫌な感じの奴はいないし、そこはよかった。
むしろ、ちょっとアウトロー感あるこのお姉さんたちと組めたら、小娘の私たち3人にとっては悪くない気がする。なめてかかってくる奴らはいっぱいいるからね。
犯罪だって過去のこと。どんな気まぐれや事情があったにしても、私には関係ない。一緒に組んでから、変なことさえしなけりゃそれでいいし。
「ねえ、ツバキはどう思う? 沖田ちゃんたちのこと」
「まだ慣れへんけど、うちはええ思う。今日見とった感じでは。葵姉はんは?」
「なかなか悪くないと思ったよね。あとはマドカ次第かな」
「まどかおねえも褒めとった」
「そうなん? まあ実際、よかったからね」
何やら小難しいことを話していたっぽいマドカたちの話も終わったようだ。
「おーい、マドカ。話は済んだ?」
「ちょっと、アオイも聞いておいてよ」
「こまけえことはいいよ。それで、どうする? 私とツバキはオッケーだけど」
「パーティーを組むってことよね? あたしもとりあえずは仮パーティーということなら賛成よ」
あ、まずは仮か。お互い、そのほうがいいよね。
マドカと私の話が聞こえていた沖田ちゃんパーティーも、ひとまず話がまとまってほっとした雰囲気だ。
はっきり言えば、私たちだってまた最初からメンバー探しをするのは超めんどくさいです。このまま決まってくれれば、それに越したことはないのです。
「しばらく一緒にやって、最終的に判断するということいいか? それなら期間は決めたほうがいいな」
「では、1か月を目安に結論を出すということで。あ、年末年始は予定あるかしら?」
「そうだな、債権回収の仕事絡みがどうなるかまだわからん。年が明けて2週目あたりを目途にして構わないか? 期間としては少し伸びるが」
「構いません。具体的にいつダンジョンに入るかは、あとで連絡を取り合いましょう」
よし、また一歩前進だ。
上手いこといって、正式にパーティーが組めたら、次はクランかな?
ほかにもよさそうな人がいたらクランメンバーに誘いたいし、やることは盛りだくさんだね。
私たちって、やっとスタートラインに立てるかどうかって、ところなのかな。
まだまだここから、がんばっていこう!




