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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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場末のぼろビル

「アオイ、よくやってくれたわ。雪乃さんになら、蒼龍の執事並みに仕事を任せられそうな気がするわね」

「はっはっはー! 我ながらいい仕事しましたわ」


 雪乃さんが休みの日を使って、さっそくマドカとツバキを交えて話し合った。

 律儀できっちりした雪乃さんは、自分の履歴書まで用意してくれていて、今後の仕事内容や諸々の条件面でも特に問題なく話がついた。というか、雪乃さんからいろいろ提案してくれた。


「葵姉はん、お見事や」


 そうだろう、そうだろう。

 ダンジョンアタックを繰り返すだけなら、パーティーメンバーが充実すればそれだけで事足りるのだよ。

 でもクランを運営するなら、面倒なことがあれこれと降りかかるらしいのだよ。それでもクランを作ることには、超でっかいメリットがあるわけだよ。


 うん、なんかそんな感じらしいのだよ。よく知らんけど。


 とにかく、クランは実際に作れる条件を満たしてからでいいとして、拠点を手に入れてしまったからには仕事がたくさんある。そいつを雪乃さんにお任せできるとなれば、これはでかいよ。


 まず、クランハウス全般の管理がすごい大変そうだから、それをやってもらえるだけでもありがたい。

 働く人が増えればその人たちの管理もあるし、来客対応なんかもお任せできちゃう。私たちがクランとして頭角を現せば、ちょっと面倒なあれこれやスケジュール管理みたいなことだけでも、結構大変な感じになるだろうし。


 私がクランマスターになるにしても、めんどくさいことはやりたくない!

 そういうことだよ、うん。


 ついでに雪乃さんなら交渉事でも活躍してくれそう。

 なにしろ、私たちは3人しかいなかった。ダンジョンの中では超強い3人だけど、まだ全員がティーンエイジャーの小娘だからね。それだけで、なめられちゃうに違いないよ。ビシッとしたオトナな雰囲気のお姉さんがいると心強いわ。



 雪乃さんのいなくなった神楽坂のおしゃれカフェで、私たち3人はまったり話しながら軽食をつまむ。

 次の戦いに備えて束の間の、のんびりした時間だ。英気を養うのだよ。


「午後は沖田ちゃんのトコだよね? なんでわざわざこっちから出向くことにしたの?」


 沖田瑠璃ちゃんのパーティーと合流するかどうかの話し合いをする予定になっている。とりあえずは話をして、いきなり決裂みたいなことにならなければ、次は仮のパーティーでダンジョンアタックする感じにしたい。

 今日の予定はマドカがセッティングしてくれたけど、場所は向こうの希望みたいだ。


「込み入った話をするだろうから、外で会うなら場所は考える必要があったのよ。沖田さんに希望を聞いてみたら、事務所に招待されて」

「へえー、事務所?」

「事務所兼寝床だって。汚い場所だから、覚悟はしておいてとメッセージにあったわね」

「覚悟?」


 なにその不穏なメッセージ。いや、汚いなら外で会えばいいだろ。

 その気持ちはツバキも同じだ。言葉にしなくても目と目で通じている。私たちったら、綺麗好きなんですよ。


「……まどかおねえ」

「わかってるわよ。あたしだって嫌な予感するけど、よく考えてみて?」


 むーん、そんなこと言われてもね。わざわざ汚い場所に行く理由なんてある?

 単に汚い場所なんでってことなら謙遜かと思うけど、覚悟しろはちょっと怖いよ。


「もしかして、沖田はんの生活環境を見るため?」

「そう。相手の拠点なら人となりの理解もしやすいと思うし。沖田さんもそのつもりで呼んだんじゃないかしら」

「おー、そういうことか」


 まあ沖田ちゃんはいい感じだけど、ほかの3人とは初対面だからね。夕歌さんの資料で簡単なプロフィールはわかっているけど、参考にできる情報は多ければ多いほどいい。


 あ、汚いって言っても事務所なら仕事で使う場所だ。客を招き入れるなら、多少なりとも掃除はしているはず、だよね。

 多少ぼろかったり古かったりする感じで、実際に汚いわけはないよ。そりゃあね。覚悟だなんて、大袈裟だよね。


「場所はちょっと遠いんだっけ?」

「足立区の綾瀬よ。そろそろ行きましょ」


 言われてもそれがどこだか、いまいちわからん。タクシーとマドカに任せて、私はついていこう。



 窓から流れる景色をぼけっと眺めていたら、ゆっくりと停車するタクシー。

 たぶん1時間くらいかかったかな。下車して周囲を見回すと、どこかさびれた雰囲気だ。駅からは遠いし、周囲にはこれといった商店も見当たらない。


「あのビルよ」


 マドカの視線は、通りの反対側のビルに向いている。その可愛らしい顔はいつになく無表情だ。理由はビルを見ればわかる。

 シミだらけでヒビだらけの古くて小さいビルだ。小汚いという表現が似合いすぎている。


「マジかよ、アレなの?」

「あそこの3階よ」


 私たちの視線の先には、訪れるべきビルがある。あるのだけど、ちょっとね。

 狭い道路に面したビルのガラス戸、その入り口の前にホームレスのおっちゃんが寝そべっていて、めっちゃ入りにくい。


 しかもだよ。ぐっすりと寝ているわけではなく、肘をついて無遠慮にこっちを見ているのがホントに腹立つ。


 見てんじゃねーよって、こっちも見ているしお互い様か。

 でもさ、入り口をふさぐなよ。まったくもう、邪魔だろうが。


「どかしてくるわ」

「え、ちょっと、大丈夫?」


 あんなのに時間を取られてたまるかっての。言って聞かないなら、蹴っ飛ばしてやる!

 いくらホームレス仲間だからって、迷惑モンには容赦しないよ。


 ずんずん近づくと、まだ距離のあるところでおっちゃんが身を起こした。身の危険を感じたのかな。私ったら、めちゃ強いし容赦しないからね。かしこい判断だよ。


「嬢ちゃん、ここになんか用か?」

「うん、用事あるよ。だからちょっとどいてよ」

「しょうがねえな」


 おっちゃんは敷物にしていた段ボールや空き缶などはそのままに、体だけ移動して場所を空けた。

 素直でよろしいけど、あとで掃除はしとけよな。まったくもう。


 どいてくれたので、連れのお嬢ふたりに目配せして、一緒にガラス戸を開けて中に入る。

 入る時に、かなりきっついアンモニア臭の攻撃を受けてしまって、テンションが下がりまくる。

 立ち小便はやめてくださいよ。まったくもう。


 なんなのよ、このビルは。


 入ってすぐ正面にあったエレベーターのボタンを押そうとして、なんか汚いものがボタンに付着しているのに気づいて手を止める。罠か、罠なのか。

 床も汚れまくっていて、なんかすごいベタベタするし、空気も悪い。臭いんだよ。


 なんなのよ、このビルは。


「……階段から行こっか」


 ところがだよ。横手の階段をちょっと見ただけで微妙に思った。

 いったいどうすればこうなるのってくらいに汚れているし、全部の段にゴミが投げ捨ててある。もう食いかけの弁当とかカップ麺とか転がってるよ。せめてカップ麺の汁はちゃんと捨ててくださいよ。


 なんなのよ、このビルはさあ!


 きったねーよ!

 想像を絶する勢いで、きったねーよ!

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