文化祭
28
文化祭のクラスの盛り上がりは開始早々すごかった。主に樹と翼、舞菜のおかげだろう。女性客は樹と翼に、男性客は舞菜に集まり大繁盛だった。悠佑と詩は親子連れに人気だと、遥人が褒めてくれたが、朝から詩の様子が何となくおかしい。接客の時や、悠佑達と話しているときは大丈夫なのだが、遥人が話しかけるとあからさまに動揺する。
心配しつつも、接客が忙しすぎて話を聞くこともできずに、あっという間に一日が過ぎていった。予想以上の混雑で休憩に入ることも出来なかった悠佑達は、帰りにファミレスに寄ることにした。
「お疲れ様~!」
翼の合図と同時に乾杯をする。
「ていっても明日もあるけど」
「恐ろしいね(笑)」
「明日は休憩取れるかな……」
それぞれ今日のことを振り返る。詩は珍しく静かだった。席に座るときも、いつも遥人が隣にいるのに今日は端っこの席で、その隣に悠佑を呼んだ。悠佑が遥人の方を見ると、遥人もこちらを見ていて目が合った。遥人は何とも言えない顔でスマホを見て、何かを打ち込むと、悠佑のポケットのスマホが震えた。
{後で、話したいことがあるんだけど、電話してもいい?}
そう文面で書かれていた。悠佑は遥人の方を見ると、大きくうなずいた。
詩は疲れているのだろうとみんな気を遣って、翼を中心に他愛もない話で盛り上がり、明日に備え、早めのうちに解散した。
「今日、詩と遥人、おかしくなかった?」
帰り道に樹が言った。樹も気づいていたのだ、詩と遥人の違和感に。悠佑は少し迷ったけれど、以前遥人と二人で話したことを伝えた。遥人が詩を好きだと知った時、樹はすこし驚いていたけれど、動揺はしていなかった。むしろ、今までの行動にも納得がいったと笑っていた。
「でも、だからって二人に何があったのかは僕もよく分からなくて。今日、遥人から話したいって言われて、電話することにした」
「そっか」
「うん、でも…」
「ん、大丈夫。詩は俺に任せて。電話してみる」
悠佑の不安を察したように、頭をポンポンした樹の手は、僕の心を落ち着かせた。
その日の夜、お風呂を終え、部屋に戻って髪をタオルで拭いていると、悠佑のスマホが鳴った。着信は遥人からだ。
「もしもし」
「あ、もしもし悠佑?今大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だよ」
そう答えると、遥人は黙った。どう話を切り出すのかを考えているのだろう。悠佑も急かすことなく、静かに次の言葉を待っていた。二人の間にしばらく沈黙が流れた後、スマホの向こうで遥人が大きく深呼吸したのが聞こえた。
「実は…昨日、詩に告白したんだ」
「えっ⁉」
思わず大きな声が出て、慌てて口を押さえる。
「えと、今日詩の様子がおかしかったのって…」
「うん、俺のせいだと思う」
「でもどうして急に告白を?」
「急でもないんだ。あの日からずっといつ告おうか、考えてた。それで昨日、詩が家に来た時にあまりに無防備だったから、なんかイライラして気づいたら言ってた。急ではないけど、こんな形で伝えるつもりじゃなくて……」
電話越しでも遥人が焦っているのが伝わってくる。今日、遥人はいつも通りだと思っていたけれど、内心は不安に思っていたのかもしれない。
「ごめん、実は樹に遥人のこと話しちゃった。それで、樹が詩に電話かけてくれてるみたい。だからっていうのもなんだけど……大丈夫、だと思う」
そう言うと、遥人がふふと笑ったように聞こえた。
「悠佑は樹のこと信頼してるんだね」
「えっまあ、うん。……遥人がさ、詩に気持ちを伝えたこと、すごいと思う。どんな形であれ、勇気がいることだから。詩は、今は戸惑ってると思うけど、二人ならきっと大丈夫だよ」
無責任なことは言えないと、最後は確信的には言えなかった。
「うん、なんか話したら落ち着いてきた。……俺は詩と恋人になりたい。だから、もし今回ダメでも頑張ってアピールする!悠佑みたいにね」
前向きな遥人の発言に悠佑はほっとした。僕は遥人のことを応援している。将来、二人が隣にいることを想像し、そうなることを望まずにはいられないのだ。
29
文化祭二日目、最終日だ。あれだけ時間をかけて準備したのに、楽しい時間は本当にあっという間に過ぎていく。詩と遥人の様子はというと、いつも通りとまではいかなくとも、詩のよそよそしいというか、遥人を避けるような態度は無くなり、遥人はとても嬉しそうだった。悠佑は遥人のことをポーカーフェイスだと思っていたが、意外と喜怒哀楽が分かりやすいし、特に詩の前では感情がだだ漏れだった。
昨日一日中働いていたこともあり、悠佑達は、午前のシフトが終わると早々に教室を追い出された。女子達はとても残念そうにしていたが、男子たちが「楽しんで来いよ」と気をきかせてくれたので、ありがたく甘えることにした。翼は颯爽と舞菜を連れて校内に繰り出していった。悠佑達も二人ずつに分かれて回ることにした。樹の提案だった。悠佑も遥人と詩がしっかり話せるいい機会だと思った。
「樹、さすがだね」
詩と遥人の姿が見えなくなると、悠佑は樹に話しかけた。
「え?」
「詩と遥人が二人で話せるようにしたんでしょ。上手くいくといいよね」
と言うと、樹は何かを思い出したように口を開いた。
「あ、いや、俺はせっかくだから悠佑と二人で回りたくて、でも確かに向こうも二人になるよな」
顎に手を当ててぶつぶつと言っている。樹はこういう恥ずかしいことも普通に言うので、理解するのに数秒かかる。
「と、とりあえずどこ行く?」
お互いに照れながら歩き出す。恥ずかしいけれど、こんなやり取りも嫌ではなかった。親も奈月ちゃんも夏目くんも、昨日文化祭に来てくれたので今日は本当の二人きりだ。しかも今日は後夜祭もある。夜の学校に好きな人といれるなんて変な感じだ。今から考えてもドキドキする。
「そういえば、昨日遥人と電話どうだった?」
どちらからともなくそんな話題になった。悠佑は昨日の遥人との会話を思い出しながら、樹に伝えた。今度はちゃんと遥人に許可を取っている。そして樹から、昨日の詩との電話の話を聞いた。
「詩は遥人のこと好きだけど、それは多分恋愛感情じゃないって。詩は遥人の気持ちに全然気づいてなかったからこそ、いきなり告白されてびっくりしてどうすればいいか分からなくて避けちゃったって言ってた」
「うん、そうだよね。遥人も好きだって気づいたのは最近だし、詩が気づかないのも当然だと思う」
「でも詩はこの先、遥人が自分の隣からいなくなることは考えられないって話してた。遥人に恋人ができるのも想像できないって。どんな形であれ一緒いたいんだって」
「それって…」
「うん、詩も遥人のこと相当好きだよね。途中から惚気聞かされてるのかと思ったもん(笑)。多分、詩は恋人ってより家族って気持ちが強いのかな」
「詩は遥人よりもずっと先のこと考えてたんだね」
今頃二人はどんな話をして将来どんな形になるのか、悠佑には分からないけれど、どうなっても二人を応援するし友達なことには変わらない、そう改めて感じた。二人は悠佑の大切な親友だから。
だが、その結果は思ったより早く知ることになった。
後夜祭が始まる少し前、翼から皆で集まろうと連絡が来た。指定された場所に行くとクラス全員が固まっていた。ステージで後夜祭の出し物が始まる前に、来場者を含めたクラス投票の結果発表があった。悠佑達のクラスはなんと総合優勝を果たし、クラス全員で喜び合った。
実は文化祭準備期間に、もし総合優勝したら後夜祭後の打ち上げで焼き肉に連れていくと担任の先生が宣言していたのだ。後夜祭のステージはダンスを踊ったり、歌を歌ったりして盛り上がっていた。こんな時間まで学校の人と騒いでいるのが新鮮で、ここにいる人全員が心底楽しそうなのが伝わってきて、悠佑も興奮が冷めやらなかった。
後夜祭が終わり、余韻に浸っているクラスメイトに担任が声をかけ、みんなで焼き肉に向かった。事前に予約してくれていたらしい。優勝する自信があったのか、はたまた結果がどちらにせよ連れて行ってくれるつもりだったのだろうか。
大きな広間のような個室に通される。席は自由だったのでいつものメンバーで座った。悠佑が樹と翼に挟まれ、向かいに詩と遥人が座っている。後夜祭の時は気づかなかったが、詩と遥人の態度がよそよそしくなっているように感じた。でも不穏な感じではなく、照れくさそうな恥ずかしそうな感じで、目を合わせてはそらしてを繰り返していた。
そんな二人の様子をじっと見ていた悠佑に気づいた遥人が口を開こうとしたら、人数分の飲み物が運ばれてきた。翼がそれを手に取り立ち上がって、クラス全体を見渡し乾杯の音頭を取った。肉が運ばれてきて、それを焼いていると、遥人が再び口を開けた。
「あの、」
その言葉に悠佑、樹、翼が手を止めて視線を遥人に集中させる。遥人は珍しく緊張しているようだった。詩と目を合わせて頷くと、意を決したように真剣なまなざしで言った。
「俺と詩、付き合うことになった」
「「「…え⁉」」」
三人の声が重なって、大分うるさくなってしまったと思ったが、幸い周りの騒がしさに吸収されていった。
「おめでとう!」
真っ先に悠佑は口にした。二人が幸せそうな空気感だったのでこっちまで微笑ましくなる。
「まじかー俺だけ仲間外れかよー」
そう言った翼が口をとがらせながら、飲み物を一気飲みした後、
「おめでと、二人とも」
と付け加えた。樹も「おめでとう」と拍手した。詩は恥ずかしそうに下を向いてもじもじしている。
「あー俺も、ちょっと舞菜のところ行ってこよっかなー」
翼が突然立ち上がって、女子達の中で笑っている舞菜のもとへ一直線に歩いて行った。僕たちの席は四人になり、焼いていた肉が焦げそうになっているのに気づいて慌てて引き上げる。
「二人がどんな話をしたか分からないけど…詩はさ、昨日告白されたばかりなのに、こんな早くに結論出したんだね」
悠佑の告白を悩み続けていた樹がそれを言うと説得力があり、思わず吹き出してしまう。
今までほとんど話さなかった詩がようやく口を開いた。
「うーん、正直付き合うってなると実感湧かないけど、遥人が家族みたいになりたいって言った時、すごいしっくり来た。多分、ずっと前から結論は出てたんだ、と思う」
隣に座る遥人が嬉しそうだ。
「それで、これからも二人には先輩として色々相談するかもしれないけど、よろしく。言い忘れてたけど二人とも話聞いてくれてありがとう」
遥人の言葉に詩がコクコクと頷いている。いつもと話す方が逆だなと思った。
文化祭が終わると、本格的に受験勉強が始まり、クラスも受験一色となっていった。あっという間に季節が変わり、受験日がやってくる。自分のこれまでの努力を信じて、それぞれの会場に足を運ぶ。
翼や舞菜はすでに指定校推薦の手続きを終え、残すところ卒業のみとなっていた。にもかかわらず翼は、学校にいるときは勉強を教えてくれたりして、面倒を見てくれた。
初詣は五人で学校の近くの神社に行き、翼は四人分のお守りを買ってプレゼントしてくれた。
無事に四人とも希望通りの進路が決まったときは、翼は誰よりも喜んでくれた。
受験を終えた悠佑達も残すところあとわずかな学校生活を楽しんだ。卒業式は泣かなかった。会いたい時はいつでも会えるから。そして春休みはめちゃくちゃに遊んだ。後から報告を受けたが、翼はついに舞菜と付き合うことになったそうだ。翼の幸せそうな顔を見て悠佑は胸がいっぱいになったのであった。




