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ヒーロー  作者: 鳴宮琥珀
17/23

遥人の悩み

27

 あわただしい日々が過ぎ、気づけば秋、文化祭の季節が近づいていた。悠佑達のクラスは、文化祭を受験勉強の息抜きとして、全体的に気合が入っていた。話し合いが白熱した結果、王道のメイド執事喫茶をすることになった。樹の執事姿を想像するだけで今からワクワクが止まらない。準備期間にもほとんどのクラスメイトが集まり、やる気に満ち溢れている。


「悠佑も着るんだよ?」


 悠佑の脳内を覗き込んだかのようなタイミングで、声をかけてきたのは翼だ。


「え?僕?」


 悠佑は自分の執事姿を想像して、首を横に振った。僕には似合わないだろう。


「ごめん(笑)、もう女子達は悠佑くんに着せる気満々なんだ」


 翼の後ろから顔をのぞかせた舞菜がクラスの女子達を見て笑っていた。翼と舞菜の関係は相変わらずだ。悠佑が言うのもなんだがお似合いの二人だと思っている。


「樹も、悠佑が着るなら着るって」


 樹と詩と話していた遥人が、悠佑達のほうに近寄ってくる。


「どーせなら、五人で着ようぜ?」


「無理。俺は中に入るから」


 遥人が表情を変えずに即答した。確かに、遥人は接客をするタイプではない。顔は整っているので執事姿が似合うことは確実なのが、少し惜しいけれど。


「うーん、俺も中に入ろうかな。誰かさんが嫉妬しちゃうかもしれないし?」


「何で私の方を見るのよ」


「さあ何ででしょう」


「翼は接客して人集めないとでしょ?戦力なんだから」


「はいはい。舞菜様の仰せのままに」


 片手を胸のあたりに、もう一つの手を腰の後ろに置いて、少しお辞儀をした翼は、制服なのにまるで執事服を着ているように見えた。舞菜が照れ隠しのように翼を思い切り叩いた。二人のやりとりを微笑ましく見ていた悠佑は、何かの視線を感じた。その方を見ると、遥人が悠佑のことをじっと見ていた。


「遥人?」


 悠佑が話しかけると、珍しくハッとしたように身体を震わせた。


「ごめん」


 遥人の様子がいつもと違うような気がする。


「どうしたの?」


 遥人は視線を遠くにずらした。視線の先には、樹と詩が女子に囲まれて、主に詩が楽しそうに話している。


「ちょっと、いいかな」


 遥人に誘われ、悠佑は二人で教室を出て、人気のない所に向かう。通り過ぎる他の教室からも楽しそうな声が聞こえてくる。二人は屋上に続く階段に着いた。いつかの翼に話を聞いてもらった場所だが、今度は悠佑が話を聞く側だ。

 階段に並んで腰を下ろし、話し始めるのをじっと待つ。遥人が何を考えているのかいまいちわからなくて、緊張が走る。遥人が一呼吸置いて口を開いた。


「実は…」


 悠佑はごくりと息をのむ。続けて発される言葉を、黙って待つ。


「最近、詩がすごい可愛く見えて…」


「へ?」


 予想もしていなかった遥人の言葉に頭が真っ白になる。


「ん?えっと…」


 どう言おうか考えあぐねていると、


「あ、いや最近っていうか、正確には悠佑と樹が付き合ってるって報告してくれた時からなんだけど…」


 だんだんと理解が追い付いてくる。


「それって……」


 言いかけて、やめた。遥人がそれを自覚していないのか、悠佑が考えすぎなのか分からないが悠佑には、遥人が詩を……というように思える。でもそれを悠佑から言うのは違う気がしたし、遥人が自分で気持ちに気づかなければ意味がない。


「悠佑…?」


 途中で言葉を止めた悠佑を遥人が不思議そうに見つめる。


「あ、いや。具体的にどんなふうに見えてるの?なんでそうなったのか分かる?」


「…分からない。でも悠佑と樹を見て、恋愛もいいかもって思ったのはある」


 今まで全く恋愛に興味を示していなかった遥人からこんな言葉が聞けるなんて。それが樹と僕が要因だということに恥ずかしさもあり、嬉しさもあった。


「それで、その次の日から急に詩のことが可愛く見えてきたっていうか、なんか詩だけキラキラして見えるようになって、今までどうやって詩と接していたのか分からなくなってきた」


 話を聞けば聞くほど、遥人が詩を…と思わざるを得ない。悠佑は遥人にどう言おうかしばらくの間考えていた。核心はつかないように、でも少しでも遥人が自分の気持ちに気づけるように伝えるにはどうすればいいだろう。


「遥人は、詩のこと、どう思ってる?」


 疑問形にしてみた。遥人の今の気持ちが知りたい。


「詩のこと?普通に好きだけど…」


 おおよそ予想通りの答えだ。


「…うーん。……じゃあ、詩が誰かと話してるのとか、距離が近いのを見て、何か感じる?」


「…詩は誰にでも距離が近い所があるから。でも悠佑とか樹はよくても他の人と詩が話してたり、触ってたりするのを見るのは、なんかもやもやするかも。なにこれ、心理テスト?」


「まあ、そんなとこ(本当は違うけど)」


 もう悠佑の中では答えが確定していた。でもそれをどうすれば遥人に気づかせられるだろう。


「悠佑はさ、何で樹なの?どこが好き?どうして付き合ったの?」


 考え込んだ悠佑に、今度は遥人が質問をした。付き合った報告をしたときに、大まかには話したけれど、確かに樹のどこが好きなのか、ちゃんと人に話したことはなかったかもしれない。


「えっと、僕にとって樹はヒーローなんだ」


「ヒーロー?」


 自分で言ってなんか違うなと思った。そんなことじゃない。


「いや、違うな。本当は樹がヒーローじゃなくてもいいんだ。確かにきっかけはそうだとしても、僕はいずれ樹を好きになってた。樹は、正義感が強くて、かっこよくて、優しくて、強い。でもかっこ悪くても好き。樹が樹である限り、僕は何度でも好きになる。うん、そうだ。僕は、樹じゃないとダメなんだ。……これは理屈じゃなくて本能かな」


 一度話し始めたら止まらなくて、恥ずかしいこともペラペラ話してしまった気がする。


「……俺も、俺もだ」


 悠佑の話を聞いていた遥人が納得したようにうなずいた。


「そうか、そうだ。俺は、詩が好きなんだ」


 遥人も自分の気持ちに気づけたみたいだ。胸に手を当ててポツリとつぶやいた。悠佑も、恥ずかしいことも言ったかいがあった。


「悠佑、ありがとう」


「ううん!全然!」


「悠佑と樹は俺にとって理想の恋人だよ。お互いにお互いを尊重しあってて。俺も詩とそんな風にありたい」


 遥人はそう宣言し、二人は教室に戻った。詩の遥人への気持ちは、今は多分恋ではないけれど、悠佑は遥人を応援したいと思ったし、この先二人が一緒にいる未来が容易に想像できた。



 文化祭の準備は順調に進んでいき、衣装を作るためにサイズを測るように言われた悠佑と樹は同じ更衣室に入れられた。教室に作られた簡易更衣室は、一人入ると少し余裕があるけれど、二人で入ると大分狭かった。でも一人でサイズを測るのは大変だからと女子達に熱弁された。更衣室に入らなくてもいいのではと言ったが、樹がそれを拒否した。


「じゃあ、先に悠佑測るわ」


 そう言って樹はメジャーを伸ばして、悠佑の背中に手をまわした。ハグされる時の距離感で、思わず身体が強張る。もう何度もハグしているし、キスもしているのに、いまだに近い距離感に慣れなくて、自分の心臓の音がうるさいくらいに鳴っている。


「そんなに期待されると、俺もなんか緊張するんだけど」


「は、はあ⁉きっ期待とか、そんなんじゃないし!」


 思い切り叫んでしまう。樹はその様子を見てくすくす笑っている。


(からかわれた…)


「そんなことより、早く測ってよ」


「ごめん、悠佑怒った?」


「別に怒ってないし」


「ごめんって」


 別に本気で怒っているわけではないが、からかわれた恥ずかしさで不機嫌なふりをしておいた。


「悠佑、好きだよ?俺のこと、嫌いになっちゃった?」


 樹の弱弱しい声が聞こえて、悠佑は慌てて声を出した。


「き、嫌いになんかならないよ…」


「じゃあ、俺のこと、好き?」


 樹はうなだれたまま顔を上げない。不貞腐れたように、悠佑の頭に自分の頭をぐりぐりした。


「すっ好き、だよ。だから、機嫌なおして?」


 樹の耳元でささやいた。いつの間にか悠佑が機嫌を取る立場になっていた。樹が何も言わないので、心配で無理やり顔を覗き込んだ。すると、


「知ってる」


 嬉しそうな顔で悠佑を見た。またからかわれた、悔しい。樹にはいつも敵わない。悠佑は恥ずかしくなって、樹を自分の身体から離して、簡易更衣室から出ていった。


「あ…」


 すると、更衣室のすぐそばに耳を当てて聞いていたクラスの女子達が、見つかったとばかりに声を漏らした。何人かは鼻血を出しているように見えるが気のせいだろう。


(聞かれてた……)


 悠佑はすごい速さで全身に血が回っていくのを感じた。耳まで熱くなる。


「悠佑…」


 後から更衣室から出てきた樹に


「樹のばかっ!」


 と言い残して、教室を出ていこうとした。


「え、サイズは?」


「翼に測ってもらうし!行こ!」


 そう言い捨てて教室を飛び出すと、翼は舞菜の手を引いて悠佑に着いてきた。樹の方は、悠佑の気持ちを察した遥人と詩が抑えててくれた。悠佑は屋上に続く階段まで行って息を整えた。何だかここは恒例の場所になっているように感じる。


「悠佑くん、ごめんね」


 舞菜が頭を下げるが、確か更衣室のそばに舞菜はいなかったはずだ。


「ううん、赤羽さんは悪くないよ」


「そうそう、舞菜が謝ることはないじゃん、更衣室で盛る樹が悪い(笑)」


「さっさかっ⁉」


「ちょっと、翼!…私の友達、悠佑くんと月城くんのカップルを推してるみたいで、悪気はないと思うし、いい子たちなんだけど盗み聞きはよくなかったよね」


「いや、確かに聞かれたのは恥ずかしかったけど、もとはと言えば樹のせいだし。……そういえば、何で翼は赤羽さんを連れてきたの?」


 疑問に思っていたことを聞いてみる。


「え?好きな人とは片時も離れたくないじゃん?」


 翼はドヤ顔で舞菜を見る。


「そんなこと⁉」


 と言いつつも、舞菜の顔は真っ赤だ。悠佑も何だか恥ずかしくなってくる。


「え~俺にとっては大事なことなんですけど~」


 不服そうに翼が口をとがらせる。


「それに、サイズ測るんだったら二人きりで出ていくと、樹が嫉妬しそうじゃん?三人でいれば安心かなって思ったわけですよ」


 あの一瞬で咄嗟にそんなことが思いつく翼は頭の回転が速いし、気が遣える。以前、姉のおかげで機転が利くようになったと話してくれたことがあった。


「あ、サイズ…メジャーもってないや」


 悠佑は樹がメジャーを持っていたことを思い出す。


「あ~」


 翼が頭をかいた。


「じゃあ、戻る?」


 仕方なく三人で教室に戻ろうとすると、向こうの方からこちらに向かってくる足音が聞こえた。


「悠佑!」


 樹が飛び込んでくる。後ろには詩と遥人が追いかけてきていた。遥人は樹を止められなかったと、申し訳なさそうに悠佑を見る。


「ごめん、悠佑の反応が可愛くて、つい意地悪した」


 樹が悠佑の肩を掴んで真剣に話すので、悠佑は再び恥ずかしくなる。翼がにやにやしながら悠佑を見るので悠佑の顔は見る見るうちに赤くなり、頂点に達した。


「もうっ!ばか!」


 そう言い捨てて教室に向かって歩き出す。慌てて樹が後を追いかけてくるのを感じながら、悠佑は自分が恵まれているということを改めてかみしめていた。

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