あまりにキスしたくなる顔(むらむら)(7)
駅に着くとホームにいる人たちの視線がやたら目につく。外からはカップルにでもみえているのだろうか。でもそれも日常である。明らかに多い、どうして。
会話も別に変なこといっていないのに、雰囲気に流されて変なこと言ったか。
間違っても紫乃のブラをほかのやつらに見せるわけにいかない。今日は乳首まで見えてしまうのだから。俺が絶対に隠さないと。
幸いにも電車は割とすいていた。しかし、気負つけなくては、見えてしまう。
電車で見えてはいけないものまで。紫乃が俺に寄りかかるようにそっと抱き寄せた。
「なによ、私にまたギャルやって欲しいの?」
「今は化粧もしてないし、私のままだわ。面白くないでしょ」
いや、普段の紫乃がやらないから、別にギャルの言動っていうだけで面白い。朝の写真も見せるか。とにかく俺に体の向きを向けさせなければならない。
「これ朝の紫乃だよ。めったにないから撮っちゃった」
「何撮ってんのよバカ!、いつの間に写真とってたのよ。全然気づかなかったわ」
「なんかいっぱいいっぱいだっただろ。気づかなかったのか最後走っちゃうし」
「私、あんたにキスまでしちゃたわね。いやだった?」
「いやなわけないだろ。どんな紫乃でもいいぞ」
そうだった。今日の紫乃はキスした後走っていってしまったのだった。俺も体操着だったが追いかけなくて正解だっただろう。
制服着て登校しているほかの人たちに体操大好きな人たちが追いかけっこしてるとかみたいに思われてしまうかもしれない。あいつらなにやってんだよ草って。
制服だと走りずらいし。制服、制服。
せいふくぁぁぁあああああああああああああああああああああ。
思わず叫びだしそうになったので思わず手で口を覆った。紫乃お前は今何を着ているのか。制服ではない。体操着でもない。
地雷服である。
しかも水愛の。ブラジャーもそのまま借りて着ているのだ。
この衝撃の事実をどうやって伝えるか、一刻も早く言わなければ。体操着は持って帰ってきてるけど制服は学校に置きっぱなしであろう。
俺は両手で頭を抱えた。もう駅も近い。まっすぐ家に帰るしかない。
「大丈夫、金彦。なんかあったの?心配なんだけど。私が何かした?」
「ちょっと待ってくれ、問題ないから」
なんか紫乃がでれている。でれて欲しいのは今ではない。
今から衝撃的な告白をしなくてはいけないのだ。無情にも電車は駅についてしまった。これまでの経験上紫乃は意外なところで真面目である。
覚悟もしてないのにこんな格好でいることに気づくと多分叫ばれる。絶叫だろう。
「紫乃、俺も大事な話があるんだ」
「何よ、金彦。大事な話って?」
「降りてから言うからな。俺は今からパリピになるぞ。パリピだからな」
「私あんたが、クラブに行くようになるとは思えないんだけど」
「俺はちゃらいからな、一度しかいわないぞ」
ホームに降り立ち人が出口まで歩いて出ていくまで待った。二人の間に沈黙が流れる。
悪い、紫乃、俺がもっと早く気づいてやれれば。紫乃は何されると思っているのか、わからんがいつもならなんか話すのに全然話さない。
ビンタが怖いのでそっと軽く紫乃を抱きしめる。
「紫乃、今伝えることがある。」
「今着てるのは地雷服なんだ、学校からずっと着っぱなしだったんだ」
紫乃はなんだそんなことかみたいな顔をしている。自分の恰好を見て現実を認識したようだ。ぷるぷる震えだした。
目がめちゃくちゃ開いている。
じっと俺を見てきた。もう顔は真っ赤である。
「もっと早くいいなさい。バカ!」
俺はぐっと抱きしめて唇にキスをした。
ちゅ。
完全に紫乃はフリーズして、少し固まったあとそっと出口に歩きだす。なんか言ってくれ。
なんもないのか。無反応と言うか、どうしてしまったのか。やりすぎたか、いやだったのか。
ちゃらいとか予防線を張ったのが悪かったのだ。
キスしてちょっと混乱させてここまでの恥ずかしさを怒りで上書きさせたかったのだが。これは失敗か成功かどっちなんだ。
改札をでたところで俺に顔を向けずようやく言った。
「また明日。」
それを言ったっきりで家まで走り去ってしまった。
今日は長い一日であった。もう夕日が俺たち二人を照らしているようだった。
紫乃との関係は一歩進んだのであった。




