八重する企みと囚人たち Lv.4(二十三話)
枯れ木の山は暗くなり、皆が静かな夜を過ごし始めた頃。
ただ、一羽の鳥が闇に紛れ飛んでいる。
一つ目の門の近くにある小屋で、静かに待つ男がいた。
ダインだ。
彼はただジッと座り、蝋燭を眺めている。
キャリーは少し退屈そうにして外を眺めた。
荷物を運び、後は刑務所内に運び切れば終わる仕事だ。しかし、頼りにしていたアン、リードたちは来られず、終わらなかった。
歯がゆい気持ちで、三日目になるとは思いもしなかったのだ。
そんな時にダインが一枚の手紙を持きた。
難しい事は分からなかったが、手紙と彼の説明で分かった。
幸の脱獄を行う。
その為に部外者の協力が必要との事が、手紙に書かれていた。
合図は出せない為、日が沈んでから蝋燭が燃え尽きたら行動するとの事だ。
ダインは一瞬も見逃すまいと見つめている。
キャリーはと言うと……
「はぁ〜」
退屈で眠たかった。
なんとも緊張感のない。
もしかしたら、眠ってしまいそうだ。
「それにしても、以外ですね。てっきり、断るかと思いました」
ダインはポツリと呟く。
「キャリーは今、問題を起こしたらダメな立場にいると言うのに即答でやってくれるなんて」
キャリーは、そっか! と目を見開く。
「そうだったんですか! ふふ」
ダインの顔が少し和らいだ気がする。
「あたしね、依頼は出来る限り引き受けたいの」
顔を赤くしながら呟く。
これが得意、あれをすれば損と考えたりするのは嫌いだ。
まるでお母様の様で考えるだけでムカムカしちゃう。
「メア姉も多分、助けに手を貸していたと思うし」
「メアリーさんも?」
キャリーはこくりと頷く。
「困っている人や仲間がいたら、メアリーは迷わず手を差し伸べていたんだ。あたしもそんな風になりたいの」
「いいですね……私もそうありたい」
らしくない話に、キャリーはこそかゆくなった。
「ダイン」
「なんですか?」
「蝋燭が消えるまで退屈だからさ。旅の話しない? お互い一つずつ言い合う感じで」
「いいですね」
キャリーは綺麗な白龍の事を話し始めた。
そこで出会った少年のことも添えて。
看守長室では、このファドン刑務所の地図が広げられていた。
「作戦はこんな感じよ」
いつになく真面目に語り終えたアシュメ。
その場にいたルークとシャーフはホッと胸を撫で下ろした。
いつ話が脱線するか分からなかったからだ。
会議がひと段落した為、シャーフは見回りに行く事に。
「それじゃあ、行って来ます」
「気をつけて」
シャーフがいなくなった後、自分もついて行くべきだったとルークは後悔する。
「ねぇ、ねぇ、ルークさん♡ 私、ちょっと、緊張で熱っちゃったの。手が震えてボタンがね、取れなくて……外してくれる」
「お断りさせていただきます」
ここで何かあっては、母さん、妻、子供に顔向けできない。
何か話題を逸らさなくてはと口を開く。
「いつ、来るんだろうな?」
「子宝?」
「違う厄災だ!」
アシュメはそっと目を閉じてからうっすらと開く。
「分かりません。全ては彼女らの気分次第な所があるので……」
こう、いつ来るか分からず警戒し続けるのは、どれだけ訓練しても大変だと改めて骨が折れる話だ。
ため息が溢れる。
「ねぇ、怖いですーそばにいてくださ~い♡」
そして、逸らし話がそこをつきそうで大変だ。
また、何か話を振らなくてはとルークは内心焦りまくる。
見回りに出たシャーフ。
暗い牢屋が続く中、蝋燭の淡い光だけが頼りだった。
わずかな光に吸い寄せられる様に、一人の囚人が鉄格子越しから姿を見せる。
「夜分遅くまでご苦労様です」
真っ白な長い髪、枯れ木の様に長い手足をした男。
「カニンチェン! 起きていたのか」
貴族の生まれである彼は、生活リズムを崩す事はないと思っていた。
驚きながらシャーフは彼の前に立つ。
カニンチェンは、ほくそ笑みながら言う。
「いいや、僕はただの囚人」
「あぁ、そうだな。貴様もいい加減寝ろ」
先へ進もうとする。
ふと、カニンチェンは口を開いた。
「そう言えば、シャーフ看守長補佐官はいつから、アシュメ看守長の下で働いてるのですか?」
首を傾げたが答えない理由もない。シャーフは素直に話した。
「ここにきてからだ。そんな事、聞いてどうするんですか? 囚人の貴様には縁のない話だろ?」
「いいえ、この刑務所生活では退屈が一番の天敵なんだ。だから、色々と聞きたい。例えば、貴方には頼れる同期がいたそうだね。彼とは今も仲良くしてるのか?」
不敵に笑うカニンチェン。
腹の中を探る様な視線は名前に反して肉食獣の様だ。
シャーフは早い事、見回りを終わらせるため、話を区切る。
「余計な詮索はやめてもらおう。囚人の貴様には話しても意味のない事だ」
「いいえ、僕はもう、囚人ではなくなる」
彼の言葉に眉を動かす。
その時、どこかから布が擦れる音が聞こえた。
次の瞬間、背中に刺す様な痛みが走る。
「!」
何事か、見るとレイピアが脇腹を貫いていた。
「ど……どう言う事だ?」
訳が分からない。
背後に目をやると後ろの牢屋から刃先が伸びている。
そこには赤い髪に熱い炎を目に宿したノアルアが立っていた。
「お前の悪行はここで、おしまいにしよう」
彼はレイピアを抜き取る。
シャーフはプツンと糸が切れた様に鉄格子に寄りかかり倒れてしまう。
「どうして……君が?」
「彼は僕らと手を組んでくれたんだ」
ノアルアは迷いなくシャーフの懐からマスターキーを取り出す。
カニンチェンの牢を開けた。
続けて、隣の囚人たちの方も。
さらにまた隣の牢屋もと、次々と開けていった。
「つまらない話だったが、気を引くには十分か、ありがとう」
カニンチェンはペコリと、意識が朦朧とするシャーフに頭を下げる。
「貴様……何を企んで……」
「話せない。が、これから何をするかは教えてやろう。ここにはアシュメに強い恨みを持つ者が多くいる。彼女のせいで言われのない罰に怯えて過ごす羽目になった。補佐官の君にはその責任をとってもらうとしよう」
背後の牢屋から三階の牢にいるはずのリードまで出てきた。
一体なぜだ。
まずい、早く応援を呼ばなくては!
シャーフは笛を鳴らそうとする。しかし、あっさりとカニンチェンに奪われてしまった。
「応援を呼ばれると困るので。諸君、彼の始末は頼めるか?」
チラリと見ると出てきた囚人たちが続々と集まっていく。
「では、任せよう」
吐き捨てる様に、他の囚人に任せる事にした。
「シャーフ、テメェには色々と世話になったな」
「たっぷりとイタぶって、殺してやる」
「その後、看守長も可愛がってやるから安心してくたばりやがれ」
刺された場所を押さえながら、何もできないシャーフは彼らを睨みつけた。
「貴ィサぁまらァァァァァ!」
バコン!
鈍い音が響く。
続け様に鉄格子が揺れた。
骨が折れて、返り血がフルーツの果汁が如く、溢れ出る。
こんなに愉快な事はない。
立場の逆転により相手を痛ぶる事に快感を覚える囚人たちは笑い出した。
近くにいたリードは、こう言う時ほど、祝福の力が目障りだと思う。
「おい、クソやろ」
「カニンチェンだ」
「どっちでもいい。この後、どうするんだ? まさか、一人ずつあの看守に開錠の呪文を唱えさせるのか?」
リードの質問に肩をすぼめる。
「まさか、君はもう少し賢いと思っていたが。まぁ、良い……鳥の子」
「はい、カニンチェン様」
どこからともなく黒髪の少女が姿を現す。
彼女は跪き、主人の命を待った。
「君にはファドン刑務所の全囚人に開錠の呪文を唱えて欲しい」
「はい」
「呪文はフリー・ユー……いや、これは一人用だな。こうするか、フリー・ギフト・デリバーズ。全員に聞こえる様に唱えてくれ」
「はっ!」
返事と共に鳥の子は立ち上がる。
突然、鉄格子の窓へ走り出した。
ぶつかる寸前、体を捻りジャンプする。
瞬く間に彼女は鳥の姿に変わり外へ飛び出していってしまった。
「なんだ、あいつは?」
思わず、リードは聞く。しかし、カニンチェンは肩をすくめて答えた。
「さぁ、僕に付き従えてくれる鳥だ」
外へ出て文字通り飛び出た鳥の子は、近くの岩場に舞い降り、人の姿に戻る。
すかさず、隠していた機械仕掛けの箱を取り出した。
「これはカニンチェン様に人間どもを扇動してもらう為に持ってきた。一声を何十倍にもしてくれる技術。まさか、私が使う事になるとは」
瞳を閉じ胸の思いを確かめる。
彼女にはただ一つ、カニンチェンに付き従うことだけだった。
夜の空気を吸い、電源を被れる。
力が巡る音。
凪を揺らぐ予感。
立ち上がり口を開いた。
「フリー・ギフト・デリバーズ(自由を与える配送)!」
キーンと耳鳴りと共に彼女の声は、瞬く間にファドン刑務所全土に響き渡った。
同時に麓の村に大きな火の手が上がる。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ノアルアが裏切った!
今までの動き的に別に不思議なことではなかったですかね?
ついに始まる混沌の夜、次回もお楽しみください。
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