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八重する企みと囚人たち Lv.4(二十二話)

 白い光が差し込む面会室。


 ダインはいつもの様に、約束の時間よりも先に来ていた。


 今朝はキャリーの仕事にアンたちの姿が見えず、心配だったのだ。

 一様、荷物はまとめて残りをキャリーと看守長補佐官のシャーフが運んでいる最中である。


 指をこねて待っているとノックが鳴り響く。


 顔を上げると同時に扉が開いた。

 愛する彼女の姿にダインは思わず目を見開く。


 いつも明るく優しいアン。


 今日は目にクマがあり、げんなりと疲れ切った様子だ。


「ごめんなさい、待たせちゃったかな?」


 微笑む彼女だが、その笑顔すら心配に思えて胸が張り裂けそうになる。


「アン! 何があったんだい!」


 立つと同時に椅子が崩れ落ちる。


 頬をかきながら彼女はヘラヘラと笑っていた。

 看守が扉を閉めた後、ダインとアンはようやく、二人きりの時間が始まる。


 唖然と立ち尽くすダインを前に、アンは倒れた椅子のことを言った。


「ほら、座ろ。ダイン」


「あ、あぁ」


 お互い席に着いたが何から話せばいいか言葉に詰まる。


 いつもなら自然と彼女の美しさを語って、赤面になるダインだったが、今日はそんな風に話せる気がしない。


 様子の違う彼女に何を話せばいいのか頭が真っ白になる。

 かろうじて見つけた言葉をそっと囁いた。


「体調がすぐれないのですか?」


 心配な顔を浮かべるダインにアンは苦笑いを浮かべながら少し頷く。


「実は、ちょっとね……」


 事情を話しかけたアンだが、不意に別のことを聞いてみたくなった。


「ねぇ、ダイン」


「何です」


「私の事、愛してくれてるんだよね?」


「えぇ、もちろんです。私が必ず二人を外に連れ出してあげます」


 胸を張る彼。


 太陽の様に明るく、山の様に大きな体。


 初めて見た時は自分と互角に渡り合えるのか、奴の方が強いのか。

 戦う相手としてみていたけれど、今はすごく頼もしく見える。


 アンはじんわりと涙が溢れ出そうになった。

 目を擦って早めに浮きとるが、擦ったせいで次から次に溢れていく。


「アン?」


 顔を覗き込み、様子を伺う彼。

 また、迷惑をかけてしまうのだ。と考えると申し訳ない。


 付き合ってからずっと迷惑ばかりかけてしまった。


 わがままを言って、差し入れのテディーベアも没収されてしまった。


「……ごめんなさい」


 思わず言葉が漏れ出す。


「何を謝るんですか」


 アンは首を振って話す。


「あなたがくれたクマのぬいぐるみ。没収されてしまったの……」


 ダインはポカンと口をあげるが、すぐに首を振った。


「いいんですよ。また、あなたに贈ります」


 アンは続ける。


「私……これから刑期が延びるかもしれない」


 幸の脱獄、冤罪だとしても薬の所持、まさか、刑務所の中でも犯罪を犯すとは思っていなかった。

 でも、幸の脱獄に後悔はない。


 アンは逃げる気は、始めからなかった。

 なぜなら、ここにダインが来てくれるから。

 でも、もし逃げたとしてきっと、彼も着いて来てしまう。


 ダインとまた戦う事になるかもしれない。


 ダインを犯罪者にしてしまうかもしれない。


 そんなの嫌だ。だから、リードが望んでいようと離れることはできないのだ。


 例え、刑期が延び用途も。

 でも、会えなくなるかもしれない。


 逃げ出すべきだと後悔するかもしれない。


 不安で、怖くて体が凍りそうだった。


 震えるアンの手をダインは包み込む。


「待ちます。いつまでだって、どれだけ吹雪が吹き荒れたとしても……私は、あなたと共に暮らす、その日が来るのをいつまでだって待ち続けます」


 迷いなど初めからなかった。


 ダインはアンに思いを伝えた日からずっと、変わらずに一途のままだ。

 そんな彼に絆されて押さえたい涙は、必要のないものだと知った。


 アンは信じれる。


 愛せる相手を前に不安な気持ちを、


 隠さずにいられて泣いた。


 泣けた。


 泣いて、感謝を伝えられた。


「ありがと……ありがとう……」


 事情は話さなかった。


 聞くことはできなかった。


 結局、この日は他に何も話すことはできなかった。

 アンは泣き疲れて机に突っ伏して寝てしまったのだ。


 物足りない気持ちもあるが、彼女の愛おしい寝顔を見れたのは、初めてだった。


 ダインは静かにこの幸せなひと時を過ごす。

 面会の時間が終わった頃、名残惜しそうに彼女を起こす。


「おはよう」


 謝ろうとする彼女にダインは言った。


「また、あいに来ますから」


 その言葉にアンはフニャリと笑った。


「そうだ……ダイン、これを」


 立ち去る寸前、アンは一枚の手紙を取り出す。


「リードからの手紙、外でキャリーちゃんと見て欲しいて」


 彼女はそう言い残し面会室を出て行った。

 一人、面会室にいるダインは、真っ直ぐな眼差しで答える。


「分かりました」

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

愛と言う物には驚かされますね。

僕はこの面会室が日当たりのいいなかにはよりも暖かく見える気がします。


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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