八重する企みと囚人たち Lv.4(二十一話)
昨晩は昔の様に寂しい夜だった。
アンもリードもいなく眠れず過ごす。
話せる相手がいなくなるのは、不安を感じさせる。
出来ることがなくジッと座っていた。
ふと、昨日のことを考える。
テディーベアから薬、麻薬の様なものが出て来たことだ。
(リードさんはあぁ言っていたけれども、それはない。だって、あの人が一人になったのは昨日の昼が久しぶりだもん。今まではどこかに行くわけでもなく、この牢にいたから私とも一緒だった……だから、リ
ードさんがそんなことできるはずがない)
じゃあ、誰が?
チラリと老婆の方を見る。
彼女がやったのか、疑ってしまったが、違う気がする。
(この人がそんな活発に動くところ見た事がない)
「……あ」
嫌な予感を想像する。
(まさか、脱獄がバレて? 他の囚人にばれたのでは……)
犯罪者の考えることまでは分からない。幸でも、危険な薬の貴重性は想像できる。
貴重な薬を見ず知らずの囚人に持たせるのは、きっと嫌がらせだ。
何か邪魔をするために違いない。
(どうしよう……私のせいだ。私が外に出たいなんて、看守に直接言えなかったせいで……アンさんに)
視界が狭まっていく。
喉がキツく閉まる。
息苦しい。
カツカツと足音が聞こえてきた。
顔を上げると頬に腫れ跡を残したリードが帰って来た。
(良かった無事で)
ホッと胸を撫で下ろす。
立ち上がり声をかけた。
「お帰りなさい」
「……」
彼女はなんの返事も返さない。
向きを変えて、看守と何か話していた。
牢に入って来てからリードは一言も喋らずにいる。
やがて、看守が紙とペンを持ってきた。
リードはそれを受け取るとベッドを机がわりに何やら手紙を二通、書き物を始める。
いきなり書き始めたと思えば、筆を置き看守に返した。
誰宛か尋ねようとしたが彼女はベッドに潜り込んでしまった。
「飯が来たら起こせ」
相変わらず、乱暴な人だ。
朝食が運ばれてくると同時にアンが帰ってきた。
「お帰りなさい。て、だ、大丈夫ですか?」
男まさりの筋骨隆々肉体を持つアン。
手足が太く、重い荷物を運ぶ事ができる彼女だったが、今は自分の体すら満足に立たせる事ができないほどふらふらになっている。
顔にはクマが出来ており、憔悴していた。
「だ、大丈夫だよ。ただ、ちょっと眠たいだけだから……」
鉄格子を支えに立つアン。
頼もしい彼女がこんな風になるなんて、アシュメは一体どんなことをしたのか想像すら恐ろしかった。
幸は先程思っていた事を思い出す。
自分のせいだ……
背中の見えない所が、引っ搔くように痛い。
これが罪悪感というものなのかも知れない。
言葉が喉の奥に詰まって苦しかった。
「ごめんなさい……」
謝罪の言葉が溢れる。
アンは一瞬首を傾げた。
「うんん、幸ちゃんは何も悪くないよ。ハメられたのは、私なんだから」
微笑みを頑張って浮かべる。
そんな顔をさせてしまったのか、自分は……
胸がいっぱいで、申し訳ない。
(二人が傷つくなら、私は何も望みたくない。
二人と一緒に静かに過ごす方がいいに決まっている)
幸の目から涙が溢れる。
ぼろぼろと次から次へと涙が溢れてしまった。
「え? どうしたの、泣かないで」
アンが宥めてくれるが今の幸には届かない。
首を振って話始める。
「私が、私が脱獄を望んだから……昨日のあれ、きっと誰かが気付いて邪魔したんだよ」
アンは口を閉じる。
それに関しては、可能性はあるかも知れない。でも、きっと違うと思っていた。
アンには刑期を待ってくれるダインがいる。
こっちで問題を起こさない様に模範的な行動を心がけなきゃいけないのだ。
自分が狙われたのはそう言う、嫉妬や嫌味なのではと思っていた。
「お二人が私のため頑張ってくれてるけど……私、二人が辛い思いするのは、嫌です」
言葉をつぐむ。
「だから、脱獄なんて辞めませんか? その方が安全に決まっている!」
幸は思わず諦めを口に出してしまった。その時、背後から低い声が聞こえる。
「おい」
振り返ると頬に強い衝撃が走った。
体が揺れて地面が近づいてくる。
違う、幸が倒れてしまったのだ。
何が起きたのか分からずに顔を上げると、険しい表情を浮かべるリードが拳を強く握り立っていた。
「ちょ、リード。何やってるの!」
「見てわかんねえのか、気に入らねえ奴をぶん殴ってんだよ」
一瞬、アンの方を見るがすぐに幸に目線を合わせる。
「テメェ本気でそう思ってるのか? 脱獄しない方がいいって」
彼女の言葉に何も答えられない。
「俺らが酷い目にあったのはテメーが無能だからなんだよな? なぁ! テメーのせいで俺は殴られた。じゃあ、その分、殴られたいか?」
ドスを聞かせて話す彼女に幸は体を震るわせる。
「テメーは知らねえだろうが」
リードは幸の髪を鷲掴みにする。
ぐいぐい引っ張られた。
「イタッ痛い、痛いです! やめてください」
「リード、やり過ぎ!」
「ダメってろ!」
止めに入ろうとするアンに怒鳴り声を上げる。
リードは幸の髪を引っ張りベッドへと近づいた。
彼女はモノを叩きつける様に幸の顔をベッドに押し当てる。
「ウグっ!」
「脱獄しない方がいいか? じゃあ、お前はこれからおもちゃ同然に、毎日! 俺とあのビッチにいじめられる方がいいんだな! テメーがそんなにマゾだとは知らなかったぜ。オラ!」
再び顔を上げて叩きつける。
「痛い、痛い痛い……やめて、ごめんなさい」
言われのない暴力に泣き叫んだ。
「辞めねぇよ。そもそも、俺はな、自分の立場を理解してねぇ奴が嫌いなんだよ。何が大人しくだ。そんなにここでの苦しい思いがお好きならいくらでも付きあってやるよ!」
引っ張り上げ、顔を覗くリード。
その顔はゴミ虫を潰してあざけり楽しむ様なゲスな顔をしていた。
「テメェは本気でここにいたいって望んでんだろ? なぁ!」
今まで優しくしてもらったけど、一方的にいじめられて、幸は唇を噛み締める。
リードの腕を掴み、頭の痛みを抑えながら答えた。
「嫌に決まってる! 私が何をしたって言うの! なんで、あなたにいじめられなきゃいけないの。私は嫌だ!」
初めて怒りをあらわにする幸の瞳には、強い意志がまだ残っていた。
「お家に帰りたい。お母さんとお父さん、学校のみんなとお別れもしてないの」
次第に彼女の言葉は弱々しくなる。
「お家に帰りたい……あったかいご飯が食べたい、あったかい布団に入りながら、まだ見てないアニメも見たかったんだよ……なんで、なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの? 不登校じゃないのに、ボッチなわけないじゃん、私はちゃんと働けるのに……う、ウェェーーー」
もはや、言葉にすることすらままならず、泣き出してしまった。
リードの手が幸から離れていく。
ジッとアンの方を見ていた。
チラリと先ほどまで眠っていた幸のベッドに目線をやる。再び、ジッとアンを睨みつける。
「次はねぇぞ」
騒ぎを聞きつけたノアルアが牢を除くと立ち尽くす大柄なアンの奥に、ベッドで泣きじゃくる囚人と近くにいたリードが立っていた。
「どういう状況だ!」
尋ねると、気だるげにリードが答える。
「見て分かんねえのかよ? 喧嘩だ、喧嘩。俺とこの泣き虫の臆病者とのな」
そうして、リードはなんの反論も言わずに再び独房へ、連れて行かれてしまった。
朝食とともに医療箱も支給された。
アンはベッドで俯く幸の顔の傷を手当てしてる。
「ごめんなさい……疲れるのに」
謝るな彼女にあっけらポンと笑って答える。
「大丈夫、大丈夫、丸一日起きてるのなんてたまにあるから気にしてないよ。それより幸ちゃん、他に痛いところはある?」
「泣き過ぎて頭が痛いぐらいなので大丈夫だと思います……」
話すか悩んだが、聞いてみる事にした。
「リードさんってあんなに乱暴なんですね。知らなかったです……」
「うん、ごめんね。リードはちょっと不器用なところがあるから……」
幸は悲しくなる。
「でも、本当に何でいきなりあんな事したんだろ……」
考え込む。
ふと、連れて行かれる前にリードが何かに目線を送っていた事に気づく。
「幸ちゃん、ちょっと立てる?」
「え? あ、はい」
幸が退くとアンは布団をめくった。
ストッと二通の手紙が地面に落っこちる。
「これは……」
「あっ!」
幸には思い当たる節があった。
「さっき、戻ってきた時に書いていた手紙です。誰宛とかは答えてくれなかったけど……」
アンはチラリと手紙を見る。
一つには自分の名前、二つ目にはダインの名前が書いてあった。
アンはすぐに手紙を開ける。
そこには脱獄計画の全貌が書かれていた。
独房に向かう途中、リードは足を止める。
振り返り看守へ、言った。
「カニンチェンの所へ行きたい」
奴は牢屋で大人しくしていた。
「手を貸してくれないと思った」
彼はやって来たリードに言う。
「気が変わったんだよ」
「違う……いや、嬉しいよ」
不敵に二人の囚人は笑い合った。
「さぁ、プリズンブレイクと行こうじゃねぇか」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
この作品で書きたかったとこベスト3なんですよ。
ここ。まぁ、乱暴は望みましたが正直、申し訳なさも感じますね……
幸さん、なんか八割ぐらいの転生者拒絶してません?
まぁ、普通の子がこうなるから面白いって言いますしね。
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